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報告
しおりを挟む横浜アリーナの記念ライヴ。
アンコールも三回までやりつくし、メンバーも最後までノリノリだった。
「……良かった、無理してでも来て良かった」
人の波に押されるように会場をあとにする。
終わってしまった寂しさと、ひとつ思い出が増えた充実感とが微妙に混ざり合う複雑な時間。
ライヴが終わったあとの、この余韻が好きだった。
それが何よりも至福の時だった。
「……おう、男のファンが増えて、俺も違和感なく観れるようになったから良かった」
今は、自宅に戻ってもその幸せを共有できるパートナーがいる。
それって、めちゃくちゃ幸せ。
「月山さん、私、今日から暫く、Virtueのライヴ参戦……止めるね」
「なんで? てか、もう夫婦なんだから名字で呼ぶの止めろよ」
「まだ慣れなくて」
「まぁ、呼び方なんて何でもいいけど。で、なんで止めるの? 主婦がライヴ行っちゃダメだなんて決まりはないんだぞ」
「そうじゃないよ」
「じゃ、仕事がハードになったからか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
背伸びをして、背の高い月山さんの耳に、幸せの報告をする。
「子供には、パパって呼ばせたい?」
「え」
その驚いた顔も好き。
「……晶、それって」
「そう。ヨシも一人っ子じゃなくなったんだよ」
紅潮し、嬉しさを隠せない私の旦那さま。
「いつ分かったんだ?」
「昨日」
「なんで、すぐに言わない? もっと早く教えてくれ」
「ライヴ、反対されると思って……」
「しないけど、もっと気を遣って行動してたぞ」
「……うん」
仕事してる時の顔も好きだけど、こうやって叱ったり、家に居て、パジャマでくつろいで、あぐらをかいて、イビキをかいて、ありのままの姿でいる時のあなたが好き。
「兎に角、それなら早く家に帰って休まないと!」
「妊娠は病気じゃないのに」
「そうだけど、安静が大事な時期なんだろ? とりあえず風呂貯めてゆっくりと浸かって、それから呼吸法練習と、マタニティ体操しなきゃ」
儚いものしか好きになれなかったのは、もう過去のこと。
「呼吸法……って、どこからそんな情報入れてきたの? でも、今日は体操は無理!お風呂入ってVirtueの曲聴いて、ひたすら浸りたい」
……今は、ただ、 すぐそばにある幸せに包まれたい。
「……そうだな、あいつの曲聴きながら寝るのもいいかもな」
「うん、そうしよう。この子にヨシの唄、聴かせて一緒に寝よう」
逞しい腕と、大好きな音楽に包まれて、
「ヨシみたいな子供になるかもな」
「あはは、大変そう」
私は、今日も、 美しい獣と眠るーーー。
ーーー 【END】ーーー
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