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第一章 紫都と散り桜
ツアコンの悩み
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【 南部観光バス 九州桜の名所巡りツアー二泊三日の旅 】
「このバクチのようなツアーの添乗員として同行させて頂きます、桑崎紫都と申します。至らない所があるかと思いますが、皆様の旅を精一杯サポートさせて頂きますので、三日間宜しくお願い致します」
参加のお客様が全員バスに乗車したところで、高すぎず、低すぎない声を意識して挨拶。
「よろしくお願いしまーす!」
ツアー慣れしたお客様が拍手までくれ、
「恐縮です」
と言いながら、ガイドの蛯原優子さんにマイクを託した。
「皆様、おはようございます。本日は南部観光バスのツアーにご参加くださりありがとうございます。また、肌寒い中、朝早くからお集まりくださり、ありがとうございました。それでは、本日の日程をーー」
少し酒ヤケしたような声が車内に響く。
アラフォーらしく落ち着いたガイド。
ベテランのガイドさんで良かった。
何故なら、今日のツアーは始まる前から気が重かったからだ。
気が重たい理由1。
まず、【桜の名所巡りツアー】と題してるのに、今年は桜の開花日が例年より早く、九州の各地の名所は葉桜になりつつあること。
ツアーの企画&募集内容は数ヶ月前に決定しているので、こればかりは人力ではどうしようもない。
理由2。
事前に参加客の情報を確認したところ、問題を起こしそうな人が数人いること。
何かとクレームをつけたがる常連の女性、赤石さん70歳。過去の報告書で何度か名前を見た。
そして。
添乗員、バスガイドに男のロマンを求める困った色ボケ客の南条さん42歳。
業務妨害までいかなくても、とにかくしつこいとガイドからの報告があった。
……この点は、大丈夫かもしれない。
私は32歳で若くはないし、美人でもない。
ガイドの蛯原さんは42歳で、そんな客を上手にあしらうテクを持っているはず。
理由3。
バスのドライバー、岡田浩司34歳が、無愛想極まりないこと。
顔立ちは素晴らしいのに、観光バスの社員であるにもかかわらず、ムスッとして表情が冷たい。
当日、お客様が乗車する前に、大まかに今日の打ち合わせをドライバーとするのだけど、この岡田の態度ったらビックリするくらい、とっつき悪かった。
「まずこのフェリーターミナルでトイレ休憩に入って頂いて、あとは中間サービスエリアと…」
「…あぁ」
と、たまに声を出すけど、コミュニケーションが取れない返事ばかり。
おまけに、行程表をチラ見するけども、話す私の顔は全く見ない。
美人でも無いし、見る価値もないのかもしれないけど、話してる人の目や口元を見なさい、って教わらなかった?
そもそも、こんな人が接客業務についていいの?
…と、思っていたら、意外にも、お客様には見事な愛想笑いを浮かべて対応する岡田。
「運転手さん、三日間宜しくねー!」
「珍しくイケメンの運転手だよ!あんた独身なの?! 嫁さん欲しくない? うちの娘、30過ぎても1人でさ…」
「ありがとうございます。でも、お嫁さんは要らないですね、1人が気楽なんで」
お客様に話しかけられると、業務に差し支えない程度に言葉を交わしていた。
接客能力はあるようだ。
そんな岡田を見ながら、添乗員仲間から聞いた、ある噂話を思い出した。
″ 南部観光バスに、超絶イケメンで、女嫌いの運転手がいる ″
たぶん、それが岡田浩司なんだろう。
観光バスの運転手は、定期バスとは違い、会社によっては既婚者しか採用しない所もある。
長期ツアーの間に、ガイドやお客様と間違いを起こさない為かもしれない。
がしかし、長い間この仕事をしていると、観光バスの運転手とガイドが不倫したって話はいくつか耳にした。
…… 勝手な憶測だけど。
これだけのイケメンで、業界ではまだまだ若手の独身の岡田が採用されたのは、もしかしたら、″あっち″ だからなのでは…。
腐女子の素質がある私の中で、こんな式が成り立っていた。
″ 女嫌い ″ =″ 男好き ″
「このバクチのようなツアーの添乗員として同行させて頂きます、桑崎紫都と申します。至らない所があるかと思いますが、皆様の旅を精一杯サポートさせて頂きますので、三日間宜しくお願い致します」
参加のお客様が全員バスに乗車したところで、高すぎず、低すぎない声を意識して挨拶。
「よろしくお願いしまーす!」
ツアー慣れしたお客様が拍手までくれ、
「恐縮です」
と言いながら、ガイドの蛯原優子さんにマイクを託した。
「皆様、おはようございます。本日は南部観光バスのツアーにご参加くださりありがとうございます。また、肌寒い中、朝早くからお集まりくださり、ありがとうございました。それでは、本日の日程をーー」
少し酒ヤケしたような声が車内に響く。
アラフォーらしく落ち着いたガイド。
ベテランのガイドさんで良かった。
何故なら、今日のツアーは始まる前から気が重かったからだ。
気が重たい理由1。
まず、【桜の名所巡りツアー】と題してるのに、今年は桜の開花日が例年より早く、九州の各地の名所は葉桜になりつつあること。
ツアーの企画&募集内容は数ヶ月前に決定しているので、こればかりは人力ではどうしようもない。
理由2。
事前に参加客の情報を確認したところ、問題を起こしそうな人が数人いること。
何かとクレームをつけたがる常連の女性、赤石さん70歳。過去の報告書で何度か名前を見た。
そして。
添乗員、バスガイドに男のロマンを求める困った色ボケ客の南条さん42歳。
業務妨害までいかなくても、とにかくしつこいとガイドからの報告があった。
……この点は、大丈夫かもしれない。
私は32歳で若くはないし、美人でもない。
ガイドの蛯原さんは42歳で、そんな客を上手にあしらうテクを持っているはず。
理由3。
バスのドライバー、岡田浩司34歳が、無愛想極まりないこと。
顔立ちは素晴らしいのに、観光バスの社員であるにもかかわらず、ムスッとして表情が冷たい。
当日、お客様が乗車する前に、大まかに今日の打ち合わせをドライバーとするのだけど、この岡田の態度ったらビックリするくらい、とっつき悪かった。
「まずこのフェリーターミナルでトイレ休憩に入って頂いて、あとは中間サービスエリアと…」
「…あぁ」
と、たまに声を出すけど、コミュニケーションが取れない返事ばかり。
おまけに、行程表をチラ見するけども、話す私の顔は全く見ない。
美人でも無いし、見る価値もないのかもしれないけど、話してる人の目や口元を見なさい、って教わらなかった?
そもそも、こんな人が接客業務についていいの?
…と、思っていたら、意外にも、お客様には見事な愛想笑いを浮かべて対応する岡田。
「運転手さん、三日間宜しくねー!」
「珍しくイケメンの運転手だよ!あんた独身なの?! 嫁さん欲しくない? うちの娘、30過ぎても1人でさ…」
「ありがとうございます。でも、お嫁さんは要らないですね、1人が気楽なんで」
お客様に話しかけられると、業務に差し支えない程度に言葉を交わしていた。
接客能力はあるようだ。
そんな岡田を見ながら、添乗員仲間から聞いた、ある噂話を思い出した。
″ 南部観光バスに、超絶イケメンで、女嫌いの運転手がいる ″
たぶん、それが岡田浩司なんだろう。
観光バスの運転手は、定期バスとは違い、会社によっては既婚者しか採用しない所もある。
長期ツアーの間に、ガイドやお客様と間違いを起こさない為かもしれない。
がしかし、長い間この仕事をしていると、観光バスの運転手とガイドが不倫したって話はいくつか耳にした。
…… 勝手な憶測だけど。
これだけのイケメンで、業界ではまだまだ若手の独身の岡田が採用されたのは、もしかしたら、″あっち″ だからなのでは…。
腐女子の素質がある私の中で、こんな式が成り立っていた。
″ 女嫌い ″ =″ 男好き ″
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