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第一章 紫都と散り桜
クレーマーとイケメン
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出発から十数分後。
「質問なんですけど!」
例の赤石さんが私の所にやってきた。
70歳にしては、色艶が良く背筋もピン!とした若々しい婦人だ。
白髪と黒髪のグラデーションも美しい。
「何でしょうか?」
しかし、クレーマーなので嫌な予感しかしない。
「この席って三日間同じなんですかね? 」
良くある座席への不満だった。
「ええ。基本は此方が割り振りした席で移動して頂きますが、体調により窓際がいい、前がいい、通路側がいい等ありましたら、他のお客様と御相談した上で変更致しますので」
出欠の確認電話で、一応は聞いてはいたのだが、中には、当日になって言い出すお客様もいる。
「私、前もこのコースのツアーに参加したことがあるんだけど、左側の方が桜の木に近くなるのよね!写真を撮りたいから替わって貰えない?」
私は苦笑いした。
左側にのみ、桜の木が多く植えてある場所なんて通らないし、 恐らく桜はもう散っている。
替わっても無駄だ。
… とも言えないので、
「左側座席の皆さんに御相談があります」
他のお客様に打診をしてみた。
「どなたか席をかわってくださる方いませんか?」
けれども、理由が理由なだけに誰も応じてはくれない。
「写真撮りたいだけの為に変えてほしいなんて、ワガママなんじゃないですか? 」
左側の、主婦のグループが赤石さんの方を睨むも、
「″ だけ ″ って何?!私の生き甲斐は綺麗な花を写真に残すこと! 価値観の違いをワガママと置き換えるんじゃない! あんたらこそ年寄りを思いやる優しさが足らないんじゃないの!」
カッ!と目を見開いた赤石さんが荒々しく反論。
ーーマズイ。この空気。
何とかせねば。
三日間、刺々しい空気での旅になってしまう。
良い案がないか、頭をフル回転させていると、
「僕、替わってもいいですよ」
左奥の男性客が手を挙げてくれた。
あら、この人はーー。
「右でも左でもどっちでも構わないので、どうぞ」
そう言って荷物を持って立ち上がったのは、今回参加者の最年少、26歳の三宅大伍くん。
色白で髪もふんわりと長めで、中性的な美青年という感じだ。
確か、職業はーー
「本当にいいの? おにいさんも良いカメラ持って、写真が目的なんじゃないの?」
「ええ、でも、基本、車内からの撮影は苦手で、座席は関係ないんで」
″ フリーのカメラマン ″ と記載してあった。
「そう? じゃぁ、お言葉に甘えて」
赤石さんと席を入れ替わる三宅くんから、とてもいい匂いが漂ってきた。
こんなあか抜けた若者が、1人でツアー参加なんて珍しい。
席に着いた三宅くんを、周りの客が好奇な目で見ていた。
「…いい子」
ガイドの蛯原さんも、見とれるように振り返って彼を見つめている。
いや、完全に見とれている。
怖いくらいわかりやすく、顔が ″ 女 ″ になっていた。
そうか。
蛯原さん。
彼氏いないって言ってたっけ。
だからって、業務忘れて見つめ過ぎ。
……私も、ここ四年ほど恋愛はしてないけど、どんなに素敵なお客様や同業者に出会っても、なかなか恋には至らない。
それだけ、仕事場での恋愛には懲りているということ。
そう。 どんなに 素敵な ″ 異性 ″ がいたとしても、今は恋愛対象としては見れない。
人によっては、″ 同性 ″ でもいいのかもしれないけど。
ん? 同性?
ハッ!としてドライバーの岡田を見ると、
「わ」
見てる見てる。
ミラー越しに三宅くんを見てる!
その視線、蛯原さんより熱いように感じた。
……やっぱり。そうなのね。
私なりに満足してから、時間と次の行程を確認。
良かった、予定通りに目的地に向かっている。
9時に熊本港、 長い高速の旅、そしてメインの昼食の曽木の滝公園だ。
「質問なんですけど!」
例の赤石さんが私の所にやってきた。
70歳にしては、色艶が良く背筋もピン!とした若々しい婦人だ。
白髪と黒髪のグラデーションも美しい。
「何でしょうか?」
しかし、クレーマーなので嫌な予感しかしない。
「この席って三日間同じなんですかね? 」
良くある座席への不満だった。
「ええ。基本は此方が割り振りした席で移動して頂きますが、体調により窓際がいい、前がいい、通路側がいい等ありましたら、他のお客様と御相談した上で変更致しますので」
出欠の確認電話で、一応は聞いてはいたのだが、中には、当日になって言い出すお客様もいる。
「私、前もこのコースのツアーに参加したことがあるんだけど、左側の方が桜の木に近くなるのよね!写真を撮りたいから替わって貰えない?」
私は苦笑いした。
左側にのみ、桜の木が多く植えてある場所なんて通らないし、 恐らく桜はもう散っている。
替わっても無駄だ。
… とも言えないので、
「左側座席の皆さんに御相談があります」
他のお客様に打診をしてみた。
「どなたか席をかわってくださる方いませんか?」
けれども、理由が理由なだけに誰も応じてはくれない。
「写真撮りたいだけの為に変えてほしいなんて、ワガママなんじゃないですか? 」
左側の、主婦のグループが赤石さんの方を睨むも、
「″ だけ ″ って何?!私の生き甲斐は綺麗な花を写真に残すこと! 価値観の違いをワガママと置き換えるんじゃない! あんたらこそ年寄りを思いやる優しさが足らないんじゃないの!」
カッ!と目を見開いた赤石さんが荒々しく反論。
ーーマズイ。この空気。
何とかせねば。
三日間、刺々しい空気での旅になってしまう。
良い案がないか、頭をフル回転させていると、
「僕、替わってもいいですよ」
左奥の男性客が手を挙げてくれた。
あら、この人はーー。
「右でも左でもどっちでも構わないので、どうぞ」
そう言って荷物を持って立ち上がったのは、今回参加者の最年少、26歳の三宅大伍くん。
色白で髪もふんわりと長めで、中性的な美青年という感じだ。
確か、職業はーー
「本当にいいの? おにいさんも良いカメラ持って、写真が目的なんじゃないの?」
「ええ、でも、基本、車内からの撮影は苦手で、座席は関係ないんで」
″ フリーのカメラマン ″ と記載してあった。
「そう? じゃぁ、お言葉に甘えて」
赤石さんと席を入れ替わる三宅くんから、とてもいい匂いが漂ってきた。
こんなあか抜けた若者が、1人でツアー参加なんて珍しい。
席に着いた三宅くんを、周りの客が好奇な目で見ていた。
「…いい子」
ガイドの蛯原さんも、見とれるように振り返って彼を見つめている。
いや、完全に見とれている。
怖いくらいわかりやすく、顔が ″ 女 ″ になっていた。
そうか。
蛯原さん。
彼氏いないって言ってたっけ。
だからって、業務忘れて見つめ過ぎ。
……私も、ここ四年ほど恋愛はしてないけど、どんなに素敵なお客様や同業者に出会っても、なかなか恋には至らない。
それだけ、仕事場での恋愛には懲りているということ。
そう。 どんなに 素敵な ″ 異性 ″ がいたとしても、今は恋愛対象としては見れない。
人によっては、″ 同性 ″ でもいいのかもしれないけど。
ん? 同性?
ハッ!としてドライバーの岡田を見ると、
「わ」
見てる見てる。
ミラー越しに三宅くんを見てる!
その視線、蛯原さんより熱いように感じた。
……やっぱり。そうなのね。
私なりに満足してから、時間と次の行程を確認。
良かった、予定通りに目的地に向かっている。
9時に熊本港、 長い高速の旅、そしてメインの昼食の曽木の滝公園だ。
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