上 下
35 / 84
第四章 浩司と転機

エリート

しおりを挟む
   
   大学卒業後。
    
   上京し、大手旅行会社ATBに就職した俺は、営業として店舗のカウンター業務をこなすことになった。
    
   まずは国内旅行の担当。
    
   営業時間前に、国内の天候・交通情報を確認し、セールスポイントになる商品のあらゆる情報をできる限り集めておく。
     
   そうでなければ、特に旅行慣れした客へ潤滑に勧めることが出来ないからだ。
     
   逆に、どこに行きたいか、どんな旅行にしたいか目的の定まっていない手間のかかる客や、行く気もないのに話だけを延々にする者もいた。
     
   始めの数ヵ月は客に振り回されっぱなしだったが、入社して一年経つうちに、客の顔を見ただけで、その人が旅慣れしてるのか、そうでないのか、どういったいパッケージを求めるのか直感で分かるようになっていった。
  

 「岡田、客ウケいいぞ。特に女性客に」
   
 「本当ですか?ありがとうございます」
    
  客に応えられるようになると、社内での評価も上がる。
     
   次に俺は法人営業の方へと回され、仕事が取れれば取れるだけ、抱える雑務が膨大になった。
    
  うまくこなしてるつもりでも、残業や休日出勤が増えてしまった。
  

「最近、浩司と全然一緒に居られない」 
「私と仕事、どっちが大事なの?」
  
   あの頃は、 学生時代から付き合ってた彼女に、良く転職をすすめられたっけ。


   彼女の名前は、倫子りんこといった。

「そうだな。仕事なんて何でもいいもんな。倫子と一緒にいられるなら」
   
 「そうよ。別に旅行会社じゃなくったっていいわよ」
   
 「そういえば、友達にバーテンしないかって誘われてたんだ」
    
 「……え」
    
 「中学の同級生にとび職やってる奴いたなぁ、見習いに行こうかな」
   
 「ちょっ……!学歴関係ない仕事ばっかりじゃないの!」
     
   ただ、倫子は、職種には俺以上に拘る女で、
    
 「人に聞かれて恥ずかしくない仕事にして」
    
 「収入が不安定なのはダメ」
    
   俺の為というより、将来も含めて世間体云々を気にしていたようだ。
     
   ……それも 仕方ないのかな。
    
   学生時代からの長い付き合いで、結婚の話をするようになっていたし、倫子はもう嫁同然の間柄だったから。


   結局、転職はしないまま、俺は、好きな英会話を生かせる国外旅行の法人担当になった。
    
   英語が得意になったのは、言うまでもなく、リバーの出ていた映画 ( 字幕版 )で、発音を真似したり、和訳を考えるようにしていたから。
 
   自分が取ってきた仕事の添乗員にもなることで、望んでいた海外へも飛び、俺は充実した毎日を過ごしていた。
    
   ずっと、この幸せが続くと思っていたんだ。


   あの女に会うまではーー









しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

Gate of World前日譚―これは福音にあらず―

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

二面性男子の大恋愛

RED
BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

あの頃のまま、君と眠りたい

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:10

桜色の恋人~運命の出会いから始まる、甘く切ない恋物語~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

無機物×無機物

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

ジュエリープリンス

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:2

守るためなら命賭けろ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

秘密基地とりっくんの名前

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

ファーランドの聖女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:190

処理中です...