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第四章 浩司と転機
エリート
しおりを挟む大学卒業後。
上京し、大手旅行会社ATBに就職した俺は、営業として店舗のカウンター業務をこなすことになった。
まずは国内旅行の担当。
営業時間前に、国内の天候・交通情報を確認し、セールスポイントになる商品のあらゆる情報をできる限り集めておく。
そうでなければ、特に旅行慣れした客へ潤滑に勧めることが出来ないからだ。
逆に、どこに行きたいか、どんな旅行にしたいか目的の定まっていない手間のかかる客や、行く気もないのに話だけを延々にする者もいた。
始めの数ヵ月は客に振り回されっぱなしだったが、入社して一年経つうちに、客の顔を見ただけで、その人が旅慣れしてるのか、そうでないのか、どういったいパッケージを求めるのか直感で分かるようになっていった。
「岡田、客ウケいいぞ。特に女性客に」
「本当ですか?ありがとうございます」
客に応えられるようになると、社内での評価も上がる。
次に俺は法人営業の方へと回され、仕事が取れれば取れるだけ、抱える雑務が膨大になった。
うまくこなしてるつもりでも、残業や休日出勤が増えてしまった。
「最近、浩司と全然一緒に居られない」
「私と仕事、どっちが大事なの?」
あの頃は、 学生時代から付き合ってた彼女に、良く転職をすすめられたっけ。
彼女の名前は、倫子といった。
「そうだな。仕事なんて何でもいいもんな。倫子と一緒にいられるなら」
「そうよ。別に旅行会社じゃなくったっていいわよ」
「そういえば、友達にバーテンしないかって誘われてたんだ」
「……え」
「中学の同級生に鳶職やってる奴いたなぁ、見習いに行こうかな」
「ちょっ……!学歴関係ない仕事ばっかりじゃないの!」
ただ、倫子は、職種には俺以上に拘る女で、
「人に聞かれて恥ずかしくない仕事にして」
「収入が不安定なのはダメ」
俺の為というより、将来も含めて世間体云々を気にしていたようだ。
……それも 仕方ないのかな。
学生時代からの長い付き合いで、結婚の話をするようになっていたし、倫子はもう嫁同然の間柄だったから。
結局、転職はしないまま、俺は、好きな英会話を生かせる国外旅行の法人担当になった。
英語が得意になったのは、言うまでもなく、リバーの出ていた映画 ( 字幕版 )で、発音を真似したり、和訳を考えるようにしていたから。
自分が取ってきた仕事の添乗員にもなることで、望んでいた海外へも飛び、俺は充実した毎日を過ごしていた。
ずっと、この幸せが続くと思っていたんだ。
あの女に会うまではーー
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