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第四章 浩司と転機
触らせておけ
しおりを挟む「これ、良かったらどうぞ」
昼食を終えた客たちを出迎える桑崎に、リバー似の青年が、美味で有名な ″ どら焼 ″ を差し入れしていた。
おいおい。
余計なお世話だけど。
あんた、その面で、随分と女の趣味が悪いんじゃないか?
それとも単なるイイコちゃんか?
隣にいた蛯原の、嫉妬心丸出しの顔は面白かった。
「きっとスタッフ皆さんで、どうぞって事だと思います」
その気遣い、余計にアラフォー女の心を逆撫でるぞ。
何せ、女というのはプライドが高く、それを傷つけられた時の憎悪ってのはタチが悪いからな。
俺は、バスに戻る桑崎に、何気に注意換気をした。
「客との色恋沙汰はトラブルの元だぞ」
ハッとした顔を俺に向けて、桑崎は、元々そうだが、暗い目をして小さく返した。
「……わかってます」
本当にわかってるんだろうか?
今日の客の中には、長年、女に飢えた輩がいるってことを。
そして、想定内の小さなトラブルは起きた。
【麹の里】で焼酎を試飲した男性客が、出発前に桑崎へ執拗に絡み始めたのだ。
「俺は添乗員さんの隣でいい!」
この南条という客は、格安パッケージの常連で、酒と女グセが悪いと評判だった。
並み以上の添乗員やガイドをしきりに誘うことは知っていたが、……おい、おっさん。
シラフで見てみ。
桑崎は、醤油をかけていない冷奴みたいな女だぞ?
「時間をおすと、宴会の時間がズレてしまいますので、どうぞお戻りください」
桑崎も桑崎。
この手の事については 頭ガッチガッチなんだろうな。
対応が真面目過ぎるんだよ。
そうこうしてるうちに、蛯原まで巻き込んで、客によるセクハラミニ劇場が始まった。
「ババァはすっこんでろ! 」
美人な類いに入る蛯原の自尊心が、ざっくりと傷つけられる。
同じ女として、それに腹を立てた桑崎が珍しく大きな声を出した。
「じゃあ、南条さんはそのままで結構です!私、立ってますので!」
ああ、もう。
見かねた俺は、わざとバスを急発進させる。
不安定に立っていた桑崎は、体勢を崩して南条の上に倒れた。
「添乗員さん、細腰だねぇ!ちゃんと飯食ってんの?」
南条の機嫌は一気に良くなっていた。
ほら見ろ。
ああいう時は、ボディタッチをするなり、されるなりして、「やーだー!もう!南条さんたら!」とか笑ってあしらえばいいんだ。
かたくなに拒むから余計に絡みたくなる。
やりすぎはダメだが、酔っぱらいは、ノリで触れれば、大抵は気が済むんだから。
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