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第七章 紫都の新しい旅
こっち
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お酒は車に置いたまま、ごま豆腐だけを持って、赤石さんを見舞う。
岡田は、何故か私の後ろを付いてきた。
「こんにちは、おかげんいかがですか?」
ノックしてドアを開けると、赤石さんはカメラのレンズを此方に向けていて、パシャッーーと乾いた音を響かせた。
「あら、運転手さんかと思ったら、添乗員さんだったわ」
カメラをずらして私を見た赤石さんは、ちょっと残念そうな声を出した。
なるほど。こういうことか。
「 私も宮崎に用があって、岡田と一緒に来たんです」
私がそう言うと、岡田が後ろからヒョイッと顔を出した。
「ほら、バスに忘れてたぞ」
そして、ごま豆腐の入った買い物袋と一緒に何かを入れて、赤石さんに手渡していた。
それは、
「あ、やっぱりバスだったの!良かった!暇だから読もうと思ってたのにバッグに入ってなかったからさぁ!」
ブックカバーのついていない、一冊の文庫本だった。
【すべての美しい馬】と書かれた本、小説………だろうか?
「それ、俺も読んだ事あったから、妙に親近感持った」
へぇ。岡田って漫画だけじゃなくてこういうのも読むんだ。
感心している私の横で、本をパラパラと捲る赤石さんの手が止まった。
「…?……」
そして、頁の間に挟まっていた物をそっとつまんで数秒ほど眺めると、再び大事そうに元に戻していた。
桜の花弁だった。
「どこかで咲いてたんだねぇ、ありがとう」
赤石さんがお礼を言うと、岡田は、少し照れたように、「年寄りは押し花とか好きだろ」と、可愛くない事を言っていた。
「それにしても」
赤石さんが、ごま豆腐のパックを開けながら、私をチラッと見上げた。
「………なんですか?」
「まさか、こっちだとはねぇ。私は、てっきり蛯原さんの方かと思ってたよ」
そして、フフ………と不敵に笑う。
「え?」
こっち? 蛯原? どういうこと?
「どっちも違うわ」
岡田がムスッと答えて、ベッド脇に置いてあるビニール袋を手に取った。
「これ、洗濯物だろ? 乾燥機までかけていいやつなら、桑崎にしてもらうけど」
あ! そうだった。
明日着る服が無いって話だった。
私が岡田からそれを受けとると、「あ、ちょっと!」 と、赤石さんが私を呼び止めた。
「それ、洗濯は運転手さんにお願いしたいわ」
「は? 何で俺が?」
岡田が訝しそうにする。
「私も洗濯くらいできますよ」
「乾燥機かけすぎるけどな」
「あれは、たまたまです」
「ほら、にいちゃん!これもついでにお願い!」
赤石さんは、布団の中から靴下を脱いで、うまい具合にビニール袋に投げ入れた。
「これ、下着もあるんだろ? 俺に任せてもいいのかよ?」
「別に構わないよ。それとも何かい? あんたは私のパンツ見て欲情するのか?」
「するか!」
岡田が私の手から奪い、再びビニール袋を持って、部屋から出ていった。
赤石さんは、ごま豆腐を一つ完食すると、水を飲んで一息つく。
「私はねぇ、添乗員さんと話がしたかったんだよ」
岡田は、何故か私の後ろを付いてきた。
「こんにちは、おかげんいかがですか?」
ノックしてドアを開けると、赤石さんはカメラのレンズを此方に向けていて、パシャッーーと乾いた音を響かせた。
「あら、運転手さんかと思ったら、添乗員さんだったわ」
カメラをずらして私を見た赤石さんは、ちょっと残念そうな声を出した。
なるほど。こういうことか。
「 私も宮崎に用があって、岡田と一緒に来たんです」
私がそう言うと、岡田が後ろからヒョイッと顔を出した。
「ほら、バスに忘れてたぞ」
そして、ごま豆腐の入った買い物袋と一緒に何かを入れて、赤石さんに手渡していた。
それは、
「あ、やっぱりバスだったの!良かった!暇だから読もうと思ってたのにバッグに入ってなかったからさぁ!」
ブックカバーのついていない、一冊の文庫本だった。
【すべての美しい馬】と書かれた本、小説………だろうか?
「それ、俺も読んだ事あったから、妙に親近感持った」
へぇ。岡田って漫画だけじゃなくてこういうのも読むんだ。
感心している私の横で、本をパラパラと捲る赤石さんの手が止まった。
「…?……」
そして、頁の間に挟まっていた物をそっとつまんで数秒ほど眺めると、再び大事そうに元に戻していた。
桜の花弁だった。
「どこかで咲いてたんだねぇ、ありがとう」
赤石さんがお礼を言うと、岡田は、少し照れたように、「年寄りは押し花とか好きだろ」と、可愛くない事を言っていた。
「それにしても」
赤石さんが、ごま豆腐のパックを開けながら、私をチラッと見上げた。
「………なんですか?」
「まさか、こっちだとはねぇ。私は、てっきり蛯原さんの方かと思ってたよ」
そして、フフ………と不敵に笑う。
「え?」
こっち? 蛯原? どういうこと?
「どっちも違うわ」
岡田がムスッと答えて、ベッド脇に置いてあるビニール袋を手に取った。
「これ、洗濯物だろ? 乾燥機までかけていいやつなら、桑崎にしてもらうけど」
あ! そうだった。
明日着る服が無いって話だった。
私が岡田からそれを受けとると、「あ、ちょっと!」 と、赤石さんが私を呼び止めた。
「それ、洗濯は運転手さんにお願いしたいわ」
「は? 何で俺が?」
岡田が訝しそうにする。
「私も洗濯くらいできますよ」
「乾燥機かけすぎるけどな」
「あれは、たまたまです」
「ほら、にいちゃん!これもついでにお願い!」
赤石さんは、布団の中から靴下を脱いで、うまい具合にビニール袋に投げ入れた。
「これ、下着もあるんだろ? 俺に任せてもいいのかよ?」
「別に構わないよ。それとも何かい? あんたは私のパンツ見て欲情するのか?」
「するか!」
岡田が私の手から奪い、再びビニール袋を持って、部屋から出ていった。
赤石さんは、ごま豆腐を一つ完食すると、水を飲んで一息つく。
「私はねぇ、添乗員さんと話がしたかったんだよ」
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