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1.恋愛初心者
36.靄
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あれから、どういう経緯で付き合ったのかとか、どんな告白だったのかとか、根掘り葉掘り聞かれた。
答え難いところは、なんとなくはぐらかしつつ、それなりに話は盛り上がった。
生徒会長がみんなを集めて挨拶をしたから、午後4時に解散になった。
私はなんだかドッと疲れて、トボトボ歩いていた。
帰り際、金井さんが「先輩、楽しかったです。ありがとうございました」と、それはそれは綺麗な笑顔で言ってくれた。
後輩が楽しんでくれたという事実だけが、この疲労感を労ってくれる。
…疲れたのも後輩の話に付き合ったからなんだけど、そこには目を瞑る。
でも彼女のくれた言葉は、今の私に必要なものだったとも思う。
“先輩は選ばれた”
私は、永那ちゃんに選ばれたんだ。
ずっとそばにいた佐藤さんじゃなくて、永那ちゃんは、私を選んでくれたんだ。
まだ付き合って、たった1週間ちょっと。
付き合ったのにほとんど直接会話することがなくて、彼女の寝顔を見ることすら叶わなくなって、誰もそばにいなかった前に戻ったみたいな気持ちになって、私は寂しかったんだと思う。
スマホを見る。
『穂の写真あったら送ってー、見たい!』とメッセージがあって、笑ってしまう。
既に生徒会用のグループメッセージには、集合写真が送られていたから、それを送る。
「明日会いたいって言ったら、会ってくれるかな?」
電柱に寄りかかる。
お母さんが病気で、その世話をしなければならないと言っていた。
未だ、どんな病気かも聞けずにいる。
「ハァ」とため息が出る。
会いたい、でも迷惑にもなりたくない。
『穂、可愛い。今日はラフなんだね』
『いつもこんな感じだよ』
『え!じゃあデートのときのワンピースは特別だったの???』
ハテナマークが多いことで、彼女のテンションが高めなのがわかる。
『あれ、初めて着たんだよ』
既読はついたけど、返事がない。
電柱に寄りかかりながら、ズルズルとしゃがみ込む。
「会いたいなあ」
ジッとスマホの画面を眺める。
『好き』
唐突だなあ。
でも、その言葉がなにより嬉しい。
ゴクリと唾を飲む。姿勢を正して、フゥッと息を吐く。
『永那ちゃん、明日会えないかな?』
また既読はつくけど、返事がない。
私は立ち上がって、家に向かって歩き出す。
さっきよりも速く歩けているのは、緊張しているからだと思う。
ギュッとスマホを握りしめて、チラチラ画面を見るけど、返事がない。
返事がないのは、会えないから?
心臓がドクドクと速まるのと比例して、私の足も速くなる。
『穂って、朝何時に起きてる?』
ようやく返事がきて、ピタリと足を止めた。
朝…?
次の文が送られてくる。
『朝早くでよければ、会えるんだけど』
『いつも8時くらいには起きてるかな?』
『そっかあ。7時くらいに私の家の最寄り駅は厳しいよね?』
7時に永那ちゃんの家の最寄り駅となると、6時過ぎには家を出るのか…。早いなあ。
…でも『大丈夫。永那ちゃんに早く会いたいから』
『本当?無理してない?』
永那ちゃんの、こういうふうに人に気遣えるところも好き。
『大丈夫』
『わかった!じゃあ、楽しみにしてるね。朝早くてどこもあいてないだろうから、散歩するだけになっちゃうと思うけど。明日は、気をつけて来てね』
私は嬉しさを噛みしめながら、ちょっとスキップして家に向かった。
明日は、永那ちゃんが選んでくれた服で行こう。
家につくと、リビングでお母さんが仕事をしていた。
「お母さん、明日朝ちょっと早くに出て、散歩してこようと思うんだけど、いいかな?」
「何時?」
「6時過ぎには出ようかなって思ってる」
「え、早い!なんで急に!?」
「友達と、散歩しようって」
お母さんはパソコンから目を離して、目をパチクリさせている。
「へえ…ああ、この間一緒に遊んだ子?」
私は頷く。
「そう、気をつけてね」
そう言って、お母さんは視線をパソコンに移す。
部屋に入って、部屋着に着替える。
ベッドに寝転ぶとだんだんウトウトしてきて、気づけば眠っていた。
誉が慌ただしく起こしに来てため息をついたのは、言うまでもない。
答え難いところは、なんとなくはぐらかしつつ、それなりに話は盛り上がった。
生徒会長がみんなを集めて挨拶をしたから、午後4時に解散になった。
私はなんだかドッと疲れて、トボトボ歩いていた。
帰り際、金井さんが「先輩、楽しかったです。ありがとうございました」と、それはそれは綺麗な笑顔で言ってくれた。
後輩が楽しんでくれたという事実だけが、この疲労感を労ってくれる。
…疲れたのも後輩の話に付き合ったからなんだけど、そこには目を瞑る。
でも彼女のくれた言葉は、今の私に必要なものだったとも思う。
“先輩は選ばれた”
私は、永那ちゃんに選ばれたんだ。
ずっとそばにいた佐藤さんじゃなくて、永那ちゃんは、私を選んでくれたんだ。
まだ付き合って、たった1週間ちょっと。
付き合ったのにほとんど直接会話することがなくて、彼女の寝顔を見ることすら叶わなくなって、誰もそばにいなかった前に戻ったみたいな気持ちになって、私は寂しかったんだと思う。
スマホを見る。
『穂の写真あったら送ってー、見たい!』とメッセージがあって、笑ってしまう。
既に生徒会用のグループメッセージには、集合写真が送られていたから、それを送る。
「明日会いたいって言ったら、会ってくれるかな?」
電柱に寄りかかる。
お母さんが病気で、その世話をしなければならないと言っていた。
未だ、どんな病気かも聞けずにいる。
「ハァ」とため息が出る。
会いたい、でも迷惑にもなりたくない。
『穂、可愛い。今日はラフなんだね』
『いつもこんな感じだよ』
『え!じゃあデートのときのワンピースは特別だったの???』
ハテナマークが多いことで、彼女のテンションが高めなのがわかる。
『あれ、初めて着たんだよ』
既読はついたけど、返事がない。
電柱に寄りかかりながら、ズルズルとしゃがみ込む。
「会いたいなあ」
ジッとスマホの画面を眺める。
『好き』
唐突だなあ。
でも、その言葉がなにより嬉しい。
ゴクリと唾を飲む。姿勢を正して、フゥッと息を吐く。
『永那ちゃん、明日会えないかな?』
また既読はつくけど、返事がない。
私は立ち上がって、家に向かって歩き出す。
さっきよりも速く歩けているのは、緊張しているからだと思う。
ギュッとスマホを握りしめて、チラチラ画面を見るけど、返事がない。
返事がないのは、会えないから?
心臓がドクドクと速まるのと比例して、私の足も速くなる。
『穂って、朝何時に起きてる?』
ようやく返事がきて、ピタリと足を止めた。
朝…?
次の文が送られてくる。
『朝早くでよければ、会えるんだけど』
『いつも8時くらいには起きてるかな?』
『そっかあ。7時くらいに私の家の最寄り駅は厳しいよね?』
7時に永那ちゃんの家の最寄り駅となると、6時過ぎには家を出るのか…。早いなあ。
…でも『大丈夫。永那ちゃんに早く会いたいから』
『本当?無理してない?』
永那ちゃんの、こういうふうに人に気遣えるところも好き。
『大丈夫』
『わかった!じゃあ、楽しみにしてるね。朝早くてどこもあいてないだろうから、散歩するだけになっちゃうと思うけど。明日は、気をつけて来てね』
私は嬉しさを噛みしめながら、ちょっとスキップして家に向かった。
明日は、永那ちゃんが選んでくれた服で行こう。
家につくと、リビングでお母さんが仕事をしていた。
「お母さん、明日朝ちょっと早くに出て、散歩してこようと思うんだけど、いいかな?」
「何時?」
「6時過ぎには出ようかなって思ってる」
「え、早い!なんで急に!?」
「友達と、散歩しようって」
お母さんはパソコンから目を離して、目をパチクリさせている。
「へえ…ああ、この間一緒に遊んだ子?」
私は頷く。
「そう、気をつけてね」
そう言って、お母さんは視線をパソコンに移す。
部屋に入って、部屋着に着替える。
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