64 / 595
2.変化
64.王子様
しおりを挟む
5月の中間テストの後、席替えがあった。
永那の隣じゃなくてガッカリした。
優里が永那の隣だったから、交換してほしいと懇願したくらい。
永那が変なことを言った。
「空井さんの隣が良かったなあ」
永那が特定の誰かを、話題にもなっていないのに口にするのは珍しい。
優里が笑う。
「えー!私じゃだめなのー!?」
「しょーがないから優里の隣にしてあげる」
2人の話を聞きながら、空井さんを見た。
彼女はいつも1人だし、彼女からクラスメイトに話しかけてもみんなから敬語で話される。
無視されてるわけじゃないからいいのかもしれないけど、当たり前のように1人でいられる強さに憧れる。
自分の意見もハッキリ言えて、羨ましいと思った。
でも同時に、モヤモヤした何かが心に生まれた。
「永那、空井さんの隣なんて、ずっと寝てるんだから叱られまくるんじゃないの?」
座っている永那を後ろから抱きしめる。
後からやってきた数人の女子が「たしかに~」と笑う。
永那も笑ってたけど、あたしは全然笑えなかった。
「ねえ、空井さんって好きな人とかいるのかな?」
朝の電車のなかで、永那が言った。
「え?なんで空井さん?」
「いやー、空井さんって恋愛とか全く興味なさそうだからさ。どうなんだろう?って」
“なぜ今、空井さんが話に出てくるのか?”と聞いたのに、その答えは返ってこない。
「そんなの、あたしが知るわけないじゃん」
「そう?」
永那は両眉を上げて、つまらなさそうにした。
すぐに口元をニヤニヤさせながら、窓の外を見る。
こんな永那の姿、一度も見たことがなかった。
嫌な感じがした。
「そんなことよりさ、駅前に新しいクレープ屋さんができたんだって」
「へえ」
「今度一緒に行こうよ」
永那が頷く。
数日後、永那が珍しく放課後に起きていた。
一緒に帰ろうと思って近づこうとしたら、真っ先に空井さんのところに行った。
空井さんに何か言われて、掃除道具入れに向かう。
そばにいた2人の女子が言う。
「え?永那掃除すんの?」
「うっそー、空井さんに叱られるよ?」
「てか永那、空井さんになんかやらかした?」
そう茶化すから、あたしは永那のところに歩き出す。
2人が慌ててあたしの後についてくる。
「永那、なにしてんの?」
そう聞くと、永那はヘラヘラ笑いながら「掃除しようと思って」と言った。
「永那、空井さんになんかやらかしたの?」
2人の女子が聞く。
永那は「なんもしてないよ。私はそんな叱られるようなことはしません!」と鼻の穴を膨らませている。
「ねえ、掃除をしたいのだけど。教室に残るなら、あなたたちも手伝ってくれないかな」
空井さんの冷たい声が教室に響く。
今まであたしが直接空井さんに何かを言われたことはなかった。
このときが初めてで、その威圧感に気圧されて謝った。
でもすぐに、偉そうな態度に苛立った。
謝った自分が腹立たしい。
その後、全員で掃除をすることになったけど、空井さんが永那を突き飛ばして、ビックリした。
永那がしゃがみ込んで頭をさすっている。
そばに行きたかったけど、突き飛ばした光景が中学のときのいじめに重なって、足が動かなかった。
空井さんに突き飛ばされたというのに、なぜか永那は上機嫌だった。
そのことにもイライラする。
挙げ句の果てに、2人の女子が永那をクレープに誘った。
永那はあっさりOKするし。2人で行きたかったのに…。
当たり前のように永那が空井さんに声をかける。
空井さんが遠慮して、4人で行くことになった。
永那が途中で「スマホ忘れたかも!」と言った。
あたしも一緒に学校に戻るって言ったけど「先行ってて」と言われれば、頷くしかできなかった。
お店についても永那は戻ってこなかった。
買うクレープも選び終えちゃったし、あたしは2人の会話に適当に相槌を打った。
待っても待っても戻ってこないから、永那に電話した。
走って戻ってきた永那がやたら上機嫌で、心のモヤモヤが膨れ上がる。
次の週の火曜日、放課後に永那が起きていた。
でも、永那の様子が変だった。
授業が終わる前から貧乏揺すりして、眉間にシワを寄せていた。
あたしの前以外で、あんなあからさまに苛ついている姿を見るのは初めてだった。
チャイムが鳴ると同時に、クラスメイトに声をかけていた。
「空井さんは今日、掃除できないから!わかった?」と謎なことを言って、クラスメイトを頷かせる。
そしてあっという間に空井さんの腕を掴んで、教室から出ていく。
空井さんが心底驚いた顔をしながら「ちょ…ちょっと待ってよ、永那ちゃん」と言った。
「永那ちゃん…?」
思わず笑ってしまう。
全く理解が追いつかない。
スーッと全身が冷えていく感覚。
力が抜けそうになったけど、ハッとする。
顔を叩いて、永那達を追いかける。
でももう廊下に2人の姿はなくて、少し校内を歩いて見て回ったけど、それでも見つからなくて、あたしは教室に戻った。
自分の席に座って永那を待つ。
扉が開く音がして振り向くと、空井さんだった。
後から永那が入ってくる様子はない。
何があったのかと思って声をかけようとしたけど、空井さんは自分の鞄を取って、走って出て行ってしまった。
もう帰ろうかと思って立ち上がったら、永那が教室に来た。
永那の顔が綻んで、蕩けそうになっているのを見て、胸に痛みが走る。
「永那?」
声をかけると、上機嫌に永那は「おー!千陽!一緒に帰るかー!」と言った。
おかしい。
何かがおかしい。
2人の間で何があった?
帰りの電車。
永那はずっとニマニマしながら窓の外を見ている。
あたしは小さくため息をついた。
永那を睨んでも、彼女は気づかない。
「永那ちゃん」
そう声に出すと、永那の肩がピクッと反応する。
永那は口を開けながら、あたしを見た。
パチパチと瞬きをして「なに?急に」と言う。
「べつに」
永那は165cmで、あたしは155cm。身長差が10cmもあるから、あたしはいつも上目遣いになる。
「変なの」
永那が苦笑して、あたしをジッと見る。
あたしが何も言わないでいると、そのうち視線がそれて、また窓の外にやっていた。
永那の隣じゃなくてガッカリした。
優里が永那の隣だったから、交換してほしいと懇願したくらい。
永那が変なことを言った。
「空井さんの隣が良かったなあ」
永那が特定の誰かを、話題にもなっていないのに口にするのは珍しい。
優里が笑う。
「えー!私じゃだめなのー!?」
「しょーがないから優里の隣にしてあげる」
2人の話を聞きながら、空井さんを見た。
彼女はいつも1人だし、彼女からクラスメイトに話しかけてもみんなから敬語で話される。
無視されてるわけじゃないからいいのかもしれないけど、当たり前のように1人でいられる強さに憧れる。
自分の意見もハッキリ言えて、羨ましいと思った。
でも同時に、モヤモヤした何かが心に生まれた。
「永那、空井さんの隣なんて、ずっと寝てるんだから叱られまくるんじゃないの?」
座っている永那を後ろから抱きしめる。
後からやってきた数人の女子が「たしかに~」と笑う。
永那も笑ってたけど、あたしは全然笑えなかった。
「ねえ、空井さんって好きな人とかいるのかな?」
朝の電車のなかで、永那が言った。
「え?なんで空井さん?」
「いやー、空井さんって恋愛とか全く興味なさそうだからさ。どうなんだろう?って」
“なぜ今、空井さんが話に出てくるのか?”と聞いたのに、その答えは返ってこない。
「そんなの、あたしが知るわけないじゃん」
「そう?」
永那は両眉を上げて、つまらなさそうにした。
すぐに口元をニヤニヤさせながら、窓の外を見る。
こんな永那の姿、一度も見たことがなかった。
嫌な感じがした。
「そんなことよりさ、駅前に新しいクレープ屋さんができたんだって」
「へえ」
「今度一緒に行こうよ」
永那が頷く。
数日後、永那が珍しく放課後に起きていた。
一緒に帰ろうと思って近づこうとしたら、真っ先に空井さんのところに行った。
空井さんに何か言われて、掃除道具入れに向かう。
そばにいた2人の女子が言う。
「え?永那掃除すんの?」
「うっそー、空井さんに叱られるよ?」
「てか永那、空井さんになんかやらかした?」
そう茶化すから、あたしは永那のところに歩き出す。
2人が慌ててあたしの後についてくる。
「永那、なにしてんの?」
そう聞くと、永那はヘラヘラ笑いながら「掃除しようと思って」と言った。
「永那、空井さんになんかやらかしたの?」
2人の女子が聞く。
永那は「なんもしてないよ。私はそんな叱られるようなことはしません!」と鼻の穴を膨らませている。
「ねえ、掃除をしたいのだけど。教室に残るなら、あなたたちも手伝ってくれないかな」
空井さんの冷たい声が教室に響く。
今まであたしが直接空井さんに何かを言われたことはなかった。
このときが初めてで、その威圧感に気圧されて謝った。
でもすぐに、偉そうな態度に苛立った。
謝った自分が腹立たしい。
その後、全員で掃除をすることになったけど、空井さんが永那を突き飛ばして、ビックリした。
永那がしゃがみ込んで頭をさすっている。
そばに行きたかったけど、突き飛ばした光景が中学のときのいじめに重なって、足が動かなかった。
空井さんに突き飛ばされたというのに、なぜか永那は上機嫌だった。
そのことにもイライラする。
挙げ句の果てに、2人の女子が永那をクレープに誘った。
永那はあっさりOKするし。2人で行きたかったのに…。
当たり前のように永那が空井さんに声をかける。
空井さんが遠慮して、4人で行くことになった。
永那が途中で「スマホ忘れたかも!」と言った。
あたしも一緒に学校に戻るって言ったけど「先行ってて」と言われれば、頷くしかできなかった。
お店についても永那は戻ってこなかった。
買うクレープも選び終えちゃったし、あたしは2人の会話に適当に相槌を打った。
待っても待っても戻ってこないから、永那に電話した。
走って戻ってきた永那がやたら上機嫌で、心のモヤモヤが膨れ上がる。
次の週の火曜日、放課後に永那が起きていた。
でも、永那の様子が変だった。
授業が終わる前から貧乏揺すりして、眉間にシワを寄せていた。
あたしの前以外で、あんなあからさまに苛ついている姿を見るのは初めてだった。
チャイムが鳴ると同時に、クラスメイトに声をかけていた。
「空井さんは今日、掃除できないから!わかった?」と謎なことを言って、クラスメイトを頷かせる。
そしてあっという間に空井さんの腕を掴んで、教室から出ていく。
空井さんが心底驚いた顔をしながら「ちょ…ちょっと待ってよ、永那ちゃん」と言った。
「永那ちゃん…?」
思わず笑ってしまう。
全く理解が追いつかない。
スーッと全身が冷えていく感覚。
力が抜けそうになったけど、ハッとする。
顔を叩いて、永那達を追いかける。
でももう廊下に2人の姿はなくて、少し校内を歩いて見て回ったけど、それでも見つからなくて、あたしは教室に戻った。
自分の席に座って永那を待つ。
扉が開く音がして振り向くと、空井さんだった。
後から永那が入ってくる様子はない。
何があったのかと思って声をかけようとしたけど、空井さんは自分の鞄を取って、走って出て行ってしまった。
もう帰ろうかと思って立ち上がったら、永那が教室に来た。
永那の顔が綻んで、蕩けそうになっているのを見て、胸に痛みが走る。
「永那?」
声をかけると、上機嫌に永那は「おー!千陽!一緒に帰るかー!」と言った。
おかしい。
何かがおかしい。
2人の間で何があった?
帰りの電車。
永那はずっとニマニマしながら窓の外を見ている。
あたしは小さくため息をついた。
永那を睨んでも、彼女は気づかない。
「永那ちゃん」
そう声に出すと、永那の肩がピクッと反応する。
永那は口を開けながら、あたしを見た。
パチパチと瞬きをして「なに?急に」と言う。
「べつに」
永那は165cmで、あたしは155cm。身長差が10cmもあるから、あたしはいつも上目遣いになる。
「変なの」
永那が苦笑して、あたしをジッと見る。
あたしが何も言わないでいると、そのうち視線がそれて、また窓の外にやっていた。
41
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる