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2.変化
65.王子様
学校で、2人がよく目を合わせて微笑むようになった。
ズキズキと胸が痛んで、叫びたくなる。
2人の間に会話はほとんどないのに、あたしの知らないところで2人が繋がってる。
永那は何も話してくれない。
中学のときは、あんなに、全部話してくれたのに。
空井さんの視線を感じたとき、あたしは永那にくっつくように意識した。
永那はあんたのじゃない。
永那はあたしの王子様だ。
体育祭。
永那との二人三脚が終わったら、後はつまらない。
せいぜい、永那の障害物競争を応援するくらいで、自分が出場する綱引きには興味がない。
でもまさか、永那が障害物競争で“好きな人”のカードを引いて、空井さんのところに走っていくとは思わなかった。
クラスメイトも少しザワついた。
「え?なんで空井さん?」
みんながそう言った。
カードの内容が発表される前は「“クラス委員長”のカードだったのかな?」とみんな予想していたけど、全然違ったから理解が追いつかなかった。
カードの内容が発表されなくとも、あたしは空井さんが永那の服の汚れを落としたり、髪を整えたり、顔を拭いてあげている様子を見て、歯を食いしばった。
「空井さんってけっこう優しいよね」
隣に立っていた優里が言った。
「は?…そう?べつに優しくなくない?」
優里のタレ目があたしを見る。
「いやあ、なんていうかさあ…面倒見がいいっていうか」
2人の姿に視線を戻して「ほら」と優里が言う。
「永那がみんなに言って、結局掃除は当番の人がやるようになったけど、それまで空井さんって何も言わずに1人で掃除してたじゃん?」
優里が優しく笑う。
「ロッカーに花が飾ってあったりしてさ、いつも教室がピカピカだったし、なんか、心地良いなあって思ってたんだよね」
たしかに、空井さんが掃除するときはいつもそうな気がする。
「なんだろう?家庭的って言うのかな…女の子らしいっていうか。今時いなくない?ちょっと、アニメに出てくるような、理想のお母さんみたいな」
優里が口元を押さえて笑う。
「頭も良いし、自分の意見もハッキリ言えるし、大人っぽいし、ちょっと憧れちゃうなー、私。そのうえ、クラス委員長も副生徒会長もやってるんだよ?すごくない?」
優里はちょっとどん臭い。でもそこに可愛げがある。
部活はバドミントンをしていて、一度試合を見に行ったこともある。
教室での姿とは違って、真剣な姿は、なかなかかっこよかった。
そんな優里に空井さんの良さを説かれると、思わず「そうだね」と言ってしまいたくなるような感覚に陥る。
永那が歩いてこちらに向かってくる。
満足げな顔。
永那に不満を垂れると、永那が少し冷たい目を向けてくる。
中学のときから変わらない目。
その目を向けられた状態で、適当に頭を撫でられて、あたしはドキドキした。
やっぱりこれが永那だよ。
こうやって、裏では冷たいのが、あたしの王子様だ。
ファミレスで打ち上げをする。
他にもうちの学校の生徒が何グループもいて、ファミレスはうるさいくらいだった。
いつもなら永那も盛り上げる側に立つのに、何度もスマホを見てソワソワしていた。
2次会のカラオケでも、いつもなら真ん中を陣取るのに「どうぞ、どうぞ」なんて言って、一番端に座った。
あたしが何度も「永那、そろそろ曲入れたら?」と言っても「いや、まだいいよ」と返される。
そろそろあたしの入れた曲が流れるなあと思っていたら、永那が電話をかけ始めた。
ドアが閉まる前「穂、おつかれさま」と聞こえた。
穂?…何?いや、誰?
永那はすぐ戻ってきて、鞄を取った。
永那の手を掴む。
「永那、どこ行くの?」
「あー、ごめん。帰る、かも」
「なんで?まだ来たばっかじゃん」
永那の眉間にシワが寄る。
永那はいつもすぐ帰っちゃうから、永那が遅くまで残っているのが珍しくて、あたしは嬉しかった。
もっと一緒にいたかった。
「ごめん、急いでるから」
「じゃあせめて、あたしの曲が終わってからでも」
「ごめん」
永那の手を強く握ったけど、バッと振り払われた。
「…え?」
そのまま永那は出ていく。
放置されて宙に浮いたままのあたしの手が、震えていた。
ふと視界に入った体育祭のしおり。
副生徒会長の名前に「空井 穂」と書かれていて、視界がボヤけた。
「永那帰ったの?」
優里があたしの耳に口を近づけて聞く。
みんなが騒いでいて、音がうるさくて、隣にいても普通に話したら聞き取りにくい。
なのに、不思議と永那の声だけはハッキリ聞こえた。
聞きたくなかった。
…聞きたくなかった。
やめてよ、永那。そんな、恋してるみたいな顔で。
あたしはなんとか首を縦に振った。
「珍しい」と優里が言って、マイクを渡してくれる。
あたしは曲を飛ばしてもらって、優里に帰ると告げた。
もう日は落ちていて、外は暗かった。
涙が頬を伝って落ちていく。
ねえ、永那。
ここ駅前だよ?
繁華街だよ?
あたしがナンパされて、強引に連れて行かれたら、後悔しない?
ほら、誰かが話しかけてくる。
腕を掴まれて、それを振り払う力も出ない。
体が震える。
肩を抱かれる。
怖い。助けて。永那…なんで…?
「千陽!…ちょっと!どいてください!警察呼びますよ!」
ボヤけた視界に映ったのは、優里だった。
「千陽?大丈夫?…どうしたの?」
「優里」
ズキズキと胸が痛んで、叫びたくなる。
2人の間に会話はほとんどないのに、あたしの知らないところで2人が繋がってる。
永那は何も話してくれない。
中学のときは、あんなに、全部話してくれたのに。
空井さんの視線を感じたとき、あたしは永那にくっつくように意識した。
永那はあんたのじゃない。
永那はあたしの王子様だ。
体育祭。
永那との二人三脚が終わったら、後はつまらない。
せいぜい、永那の障害物競争を応援するくらいで、自分が出場する綱引きには興味がない。
でもまさか、永那が障害物競争で“好きな人”のカードを引いて、空井さんのところに走っていくとは思わなかった。
クラスメイトも少しザワついた。
「え?なんで空井さん?」
みんながそう言った。
カードの内容が発表される前は「“クラス委員長”のカードだったのかな?」とみんな予想していたけど、全然違ったから理解が追いつかなかった。
カードの内容が発表されなくとも、あたしは空井さんが永那の服の汚れを落としたり、髪を整えたり、顔を拭いてあげている様子を見て、歯を食いしばった。
「空井さんってけっこう優しいよね」
隣に立っていた優里が言った。
「は?…そう?べつに優しくなくない?」
優里のタレ目があたしを見る。
「いやあ、なんていうかさあ…面倒見がいいっていうか」
2人の姿に視線を戻して「ほら」と優里が言う。
「永那がみんなに言って、結局掃除は当番の人がやるようになったけど、それまで空井さんって何も言わずに1人で掃除してたじゃん?」
優里が優しく笑う。
「ロッカーに花が飾ってあったりしてさ、いつも教室がピカピカだったし、なんか、心地良いなあって思ってたんだよね」
たしかに、空井さんが掃除するときはいつもそうな気がする。
「なんだろう?家庭的って言うのかな…女の子らしいっていうか。今時いなくない?ちょっと、アニメに出てくるような、理想のお母さんみたいな」
優里が口元を押さえて笑う。
「頭も良いし、自分の意見もハッキリ言えるし、大人っぽいし、ちょっと憧れちゃうなー、私。そのうえ、クラス委員長も副生徒会長もやってるんだよ?すごくない?」
優里はちょっとどん臭い。でもそこに可愛げがある。
部活はバドミントンをしていて、一度試合を見に行ったこともある。
教室での姿とは違って、真剣な姿は、なかなかかっこよかった。
そんな優里に空井さんの良さを説かれると、思わず「そうだね」と言ってしまいたくなるような感覚に陥る。
永那が歩いてこちらに向かってくる。
満足げな顔。
永那に不満を垂れると、永那が少し冷たい目を向けてくる。
中学のときから変わらない目。
その目を向けられた状態で、適当に頭を撫でられて、あたしはドキドキした。
やっぱりこれが永那だよ。
こうやって、裏では冷たいのが、あたしの王子様だ。
ファミレスで打ち上げをする。
他にもうちの学校の生徒が何グループもいて、ファミレスはうるさいくらいだった。
いつもなら永那も盛り上げる側に立つのに、何度もスマホを見てソワソワしていた。
2次会のカラオケでも、いつもなら真ん中を陣取るのに「どうぞ、どうぞ」なんて言って、一番端に座った。
あたしが何度も「永那、そろそろ曲入れたら?」と言っても「いや、まだいいよ」と返される。
そろそろあたしの入れた曲が流れるなあと思っていたら、永那が電話をかけ始めた。
ドアが閉まる前「穂、おつかれさま」と聞こえた。
穂?…何?いや、誰?
永那はすぐ戻ってきて、鞄を取った。
永那の手を掴む。
「永那、どこ行くの?」
「あー、ごめん。帰る、かも」
「なんで?まだ来たばっかじゃん」
永那の眉間にシワが寄る。
永那はいつもすぐ帰っちゃうから、永那が遅くまで残っているのが珍しくて、あたしは嬉しかった。
もっと一緒にいたかった。
「ごめん、急いでるから」
「じゃあせめて、あたしの曲が終わってからでも」
「ごめん」
永那の手を強く握ったけど、バッと振り払われた。
「…え?」
そのまま永那は出ていく。
放置されて宙に浮いたままのあたしの手が、震えていた。
ふと視界に入った体育祭のしおり。
副生徒会長の名前に「空井 穂」と書かれていて、視界がボヤけた。
「永那帰ったの?」
優里があたしの耳に口を近づけて聞く。
みんなが騒いでいて、音がうるさくて、隣にいても普通に話したら聞き取りにくい。
なのに、不思議と永那の声だけはハッキリ聞こえた。
聞きたくなかった。
…聞きたくなかった。
やめてよ、永那。そんな、恋してるみたいな顔で。
あたしはなんとか首を縦に振った。
「珍しい」と優里が言って、マイクを渡してくれる。
あたしは曲を飛ばしてもらって、優里に帰ると告げた。
もう日は落ちていて、外は暗かった。
涙が頬を伝って落ちていく。
ねえ、永那。
ここ駅前だよ?
繁華街だよ?
あたしがナンパされて、強引に連れて行かれたら、後悔しない?
ほら、誰かが話しかけてくる。
腕を掴まれて、それを振り払う力も出ない。
体が震える。
肩を抱かれる。
怖い。助けて。永那…なんで…?
「千陽!…ちょっと!どいてください!警察呼びますよ!」
ボヤけた視界に映ったのは、優里だった。
「千陽?大丈夫?…どうしたの?」
「優里」
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