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7.向
418.舞う
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「あ!穂!この木、咲いてるよ!」
「ホントだ!」
2人で駆け寄る。
「おー…!あるもんだね」
「ここは日当たりが良いからかな?」
「そうかも」
見つけられたら、その時に渡そうと思っていた。
鞄からラッピングしたマフィンと手紙を出す。
ちなみに、見つけられなかったら、家で渡す予定だった。
まだ咲いたばかりの桜を、永那ちゃんは嬉しそうに眺めていた。
「永那ちゃん、私からも」
「わ!マフィン?」
「うん」
「すげー!めっちゃ嬉しい!おいしそう!食べていい?」
「いいよ」
食べやすいように、小さめに作った物を、2つ入れてきた。
家に帰ればまだあるんだけど…プレゼントとしてちゃんと渡したかった。
「ブルーベリーマフィンなんて初めて食べた!洋画で見たことあったけど、おいしいね!」
永那ちゃんはこぼさないように、落とさないように、たまに上を向く。
あっという間に1つ食べ終えて、もう1つは大事そうにしまっていた。
手紙を読みながら、彼女は口周りを舌で舐めた。
『永那ちゃんへ
9ヶ月間、ずっと楽しかったです。ありがとう。永那ちゃんにとっては、つらいこともたくさんあったと思います。でも、私にとってはどれもいい思い出で、これからも、いろいろあると思うけど、力を合わせて、いい思い出に変えていけたらいいな。永那ちゃんも同じ気持ちだったら、嬉しいです。大好きだよ。これからもよろしくお願いします。
穂より』
フフッと彼女が笑う。
手紙なんて、ほとんど贈ったことがない。
小さい頃にお父さんとお母さんに贈ったことがあったと思うけれど、大きくなってからは記憶にない。
前に永那ちゃんに手紙を渡した時も、何度も書き直して、何時間も頭を捻って考えた。
それを、彼女は「穂らしい」と言って、優しく笑う。
「穂らしい」
その時と同じように呟いて、ひとつ咳払いをしてから、彼女は鞄に手紙をしまった。
「私もずっと楽しかったよ、穂」
優しく抱きしめられる。
「大好きだよ」
「私も、永那ちゃんが大好き」
彼女の背に腕を回す。
首筋に顔をうずめると、彼女の匂いがした。
目一杯吸い込んで、ゆっくり吐き出す。
彼女がポケットからスマホを出して、カメラを起動する。
「まだ花が開ききってないから、桜は上手く写らないね」
「小さいね」
私がスマホの画面を指さした瞬間、撮られた。
「あ!ちょ…ちょっと…早いよ」
永那ちゃんの肩が揺れて、彼女がクスクス楽しそうに笑っている姿がスマホに映し出される。
「永那ちゃん!」
真横の彼女を睨むと、またシャッター音が響く。
「もう…!」
「ほら、前向かないともっと撮っちゃうよ?」
彼女はずっとスマホの画面に目を遣っている。
だから…彼女の頬に唇を近づけて、キスをした。
ゆっくり彼女が横を向いて、目が合う。
「…もう一回」
「やだ」
「お願いお願いお願いお願い!もう一回やって!」
「撮ればよかったのに」
「いや!びっくりして撮れなかったんだって!お願いお願い!もう一回だけ!」
私が彼女の肩に手を乗せると、彼女が頬を近づけてくれる。
連写する音が聞こえてきて、ふぅっと息を吐く。
こういうのが“ムードない”って千陽に言われちゃうところなんじゃない?
連写音が響き渡るなか、仕方なく頬にキスをした。
「もうおしまい!」
歩き出すと、永那ちゃんはスマホの画面をニヤニヤしながら見て、後を追いかけてきた。
お花見するのに良さそうな場所をいくつか見つけて、私達は家に向かった。
今朝、家を出る前、誉が永那ちゃんと同じような顔でニヤニヤしながら声をかけてきた。
「姉ちゃん、今日は永那と楽しんでな?俺、6時過ぎくらいに帰ってくるから」
「6時過ぎ!?遅すぎる。もっと早く帰ってきて」
「姉ちゃんホント過保護だな。俺、もう中学生になるんだよ?部活とか始めたら、帰ってくるのなんて、そのくらいの時間だよ?」
「いいから。5時半に帰ってきて」
「ハァ…せっかく俺が気遣ってやってるのに…」
誉の頭を小突く。
「あんたはまだ小学生でしょ?」
「へいへい」
「“はい”でしょ?」
「はーい」
どうして千陽とか優里ちゃんには素直で可愛いのに、私には生意気なんだろ…。
永那ちゃんとは馬が合うのか、本当に友達みたいに話しているし。
最近料理もしてくれるようになって成長したなあ…なんて思ってたけど、根っこの部分はまだまだ子供だ。
思い出して、小さく首を振る。
「もう、5時だね」
エレベーターの中で、永那ちゃんが呟く。
「そうだね」
「誉からメッセージがきたんだけど、5時半に帰ってくるってのは、本当?穂が5時半に帰ってこいって言ったの、本当?」
「ああ…今朝、そう言ったね」
永那ちゃんが項垂れる。
「穂?」
「ん?」
「それじゃあさ?30分しか出来ないよね?」
ジッと見つめられて、鼓動がトクトクと音を鳴らし始める。
エレベーターのドアが開いて、私は逃げるように外に出た。
「穂~?」
早歩きで玄関の前に辿り着く。
鍵を出して開けようとするけど、後ろから抱きしめられて、顔を覗き込まれる。
「穂ちゃん?」
「ホントだ!」
2人で駆け寄る。
「おー…!あるもんだね」
「ここは日当たりが良いからかな?」
「そうかも」
見つけられたら、その時に渡そうと思っていた。
鞄からラッピングしたマフィンと手紙を出す。
ちなみに、見つけられなかったら、家で渡す予定だった。
まだ咲いたばかりの桜を、永那ちゃんは嬉しそうに眺めていた。
「永那ちゃん、私からも」
「わ!マフィン?」
「うん」
「すげー!めっちゃ嬉しい!おいしそう!食べていい?」
「いいよ」
食べやすいように、小さめに作った物を、2つ入れてきた。
家に帰ればまだあるんだけど…プレゼントとしてちゃんと渡したかった。
「ブルーベリーマフィンなんて初めて食べた!洋画で見たことあったけど、おいしいね!」
永那ちゃんはこぼさないように、落とさないように、たまに上を向く。
あっという間に1つ食べ終えて、もう1つは大事そうにしまっていた。
手紙を読みながら、彼女は口周りを舌で舐めた。
『永那ちゃんへ
9ヶ月間、ずっと楽しかったです。ありがとう。永那ちゃんにとっては、つらいこともたくさんあったと思います。でも、私にとってはどれもいい思い出で、これからも、いろいろあると思うけど、力を合わせて、いい思い出に変えていけたらいいな。永那ちゃんも同じ気持ちだったら、嬉しいです。大好きだよ。これからもよろしくお願いします。
穂より』
フフッと彼女が笑う。
手紙なんて、ほとんど贈ったことがない。
小さい頃にお父さんとお母さんに贈ったことがあったと思うけれど、大きくなってからは記憶にない。
前に永那ちゃんに手紙を渡した時も、何度も書き直して、何時間も頭を捻って考えた。
それを、彼女は「穂らしい」と言って、優しく笑う。
「穂らしい」
その時と同じように呟いて、ひとつ咳払いをしてから、彼女は鞄に手紙をしまった。
「私もずっと楽しかったよ、穂」
優しく抱きしめられる。
「大好きだよ」
「私も、永那ちゃんが大好き」
彼女の背に腕を回す。
首筋に顔をうずめると、彼女の匂いがした。
目一杯吸い込んで、ゆっくり吐き出す。
彼女がポケットからスマホを出して、カメラを起動する。
「まだ花が開ききってないから、桜は上手く写らないね」
「小さいね」
私がスマホの画面を指さした瞬間、撮られた。
「あ!ちょ…ちょっと…早いよ」
永那ちゃんの肩が揺れて、彼女がクスクス楽しそうに笑っている姿がスマホに映し出される。
「永那ちゃん!」
真横の彼女を睨むと、またシャッター音が響く。
「もう…!」
「ほら、前向かないともっと撮っちゃうよ?」
彼女はずっとスマホの画面に目を遣っている。
だから…彼女の頬に唇を近づけて、キスをした。
ゆっくり彼女が横を向いて、目が合う。
「…もう一回」
「やだ」
「お願いお願いお願いお願い!もう一回やって!」
「撮ればよかったのに」
「いや!びっくりして撮れなかったんだって!お願いお願い!もう一回だけ!」
私が彼女の肩に手を乗せると、彼女が頬を近づけてくれる。
連写する音が聞こえてきて、ふぅっと息を吐く。
こういうのが“ムードない”って千陽に言われちゃうところなんじゃない?
連写音が響き渡るなか、仕方なく頬にキスをした。
「もうおしまい!」
歩き出すと、永那ちゃんはスマホの画面をニヤニヤしながら見て、後を追いかけてきた。
お花見するのに良さそうな場所をいくつか見つけて、私達は家に向かった。
今朝、家を出る前、誉が永那ちゃんと同じような顔でニヤニヤしながら声をかけてきた。
「姉ちゃん、今日は永那と楽しんでな?俺、6時過ぎくらいに帰ってくるから」
「6時過ぎ!?遅すぎる。もっと早く帰ってきて」
「姉ちゃんホント過保護だな。俺、もう中学生になるんだよ?部活とか始めたら、帰ってくるのなんて、そのくらいの時間だよ?」
「いいから。5時半に帰ってきて」
「ハァ…せっかく俺が気遣ってやってるのに…」
誉の頭を小突く。
「あんたはまだ小学生でしょ?」
「へいへい」
「“はい”でしょ?」
「はーい」
どうして千陽とか優里ちゃんには素直で可愛いのに、私には生意気なんだろ…。
永那ちゃんとは馬が合うのか、本当に友達みたいに話しているし。
最近料理もしてくれるようになって成長したなあ…なんて思ってたけど、根っこの部分はまだまだ子供だ。
思い出して、小さく首を振る。
「もう、5時だね」
エレベーターの中で、永那ちゃんが呟く。
「そうだね」
「誉からメッセージがきたんだけど、5時半に帰ってくるってのは、本当?穂が5時半に帰ってこいって言ったの、本当?」
「ああ…今朝、そう言ったね」
永那ちゃんが項垂れる。
「穂?」
「ん?」
「それじゃあさ?30分しか出来ないよね?」
ジッと見つめられて、鼓動がトクトクと音を鳴らし始める。
エレベーターのドアが開いて、私は逃げるように外に出た。
「穂~?」
早歩きで玄関の前に辿り着く。
鍵を出して開けようとするけど、後ろから抱きしめられて、顔を覗き込まれる。
「穂ちゃん?」
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