526 / 595
8.閑話
41.永那 中2 夏《野々村風美編》
しおりを挟む
彼女がゴムを取って、髪の毛を折り曲げるように手で押さえる。
「どう?ショート、似合いそう?」
「…うん。似合いそう」
「っしゃ!じゃあ今度バッサリいってみようかな」
「楽しみにしてる」
「おー!ウチに惚れちゃうなよ~?」
両手の人差し指を私に向けて、ニヤニヤしている。
「きゃー!惚れちゃったらどうしよー!」
「うっへっへっへっへっ、ウチのモテモテライフがついに始まる時がきたか!!」
2人で、笑い合う。
その後、永那を好きになったキッカケを話したり、告白して振られたことを話したりした。
そうしたら彼女が彼のことを打ち明けてくれた。
“彼を好きだったこと、知ってる”って言ったら、彼女は顔も耳も首も真っ赤に染めた。
「いや~、お恥ずかし~!恋愛相談乗ってる内に好きになるとか、マジであるんだなって自分が怖くなったよ!」
彼女はパタパタと手で顔を扇いでいるけど、真っ赤に染まった頬は落ち着きそうにない。
「告白、しないの?」
「ん~…わかんない!」
照れるように俯きながら、ポリポリと頭を掻いた。
7時過ぎにファミレスを出た。
分かれる間際まで、キスしたことを言おうか悩んだ。
そして、結局、言えなかった。
「どした?」と聞かれたけれど、言えなかった。
からかわれるなんて、もう、思ってない。
きっと、引かれもしないんだとも思う。
またビックリされて、“どうだった?”とか聞かれるのかもしれない。
でも、なぜか言えなかった。
…言えなかったんじゃなくて、言いたくない…のかも。
永那との大切な思い出だから。
永那と2人だけの思い出に、したいのかも。
次の日からモテいじりはなくなった。
ちょうど好きなバンドの新曲が出て、何度も再生して、2人で騒いだ。
昼休みもその話題で盛り上がった。
ここしばらく胸の奥に引っかかっていた何かが取れ、また楽しい学校生活が戻ってきた。
それから数日後、また永那から連絡がきた。
同じ公園で待ち合わせて、他愛ない話をして、キスをする。
そのまた数日後も、その数日後も、さらにその数日後も、何度も、何度も。
「お姉ちゃん、最近コンビニ行きすぎじゃない?」
「受験勉強してたらお腹すくの」
「へえ。デブになるよ?」
「関係ないでしょ…!」
妹が憎たらしくて仕方ない。
「じゃあ、あたしのも買ってきて~」
“デブになるよ?”って言い返せたらいいのに…。
「お金返してくれたことないから嫌」
「はあ?」
妹が私を睨む。
「それくらい買ってきてあげなさいよ」
お母さんが言う。
どうしていつもお母さんは妹の味方なわけ!?
イライラしながら玄関に向かうと、夕食を食べていたはずのお父さんがそばに来た。
「ほら」
「え…?いいの?」
お父さんが頷く。
手渡された5千円をジッと見つめた。
「ありがとう…」
「頑張れよ」
少し、目頭が熱くなる。
「うん…。行ってくる」
「気をつけてな」
頷いて、外に出た。
「風美先輩?」
「…ん?」
「どうしたんですか?今日、元気ないですね」
永那が優しく笑う。
「え、そ、そうかな?」
「はい。私には分かります」
両手で双眼鏡を作って、私の顔を覗き見る。
「教えてください。なんで元気ないのか」
顔を90度近く曲げて覗き見てくるから、思わず笑った。
「あ、笑った」
永那は双眼鏡をやめて、ベンチに手をついて、私に密着するように座り直した。
「どうしたんですか?」
「んー…」
言い渋ると、永那の顔がグッと近づいた。
「言わないと、キスしちゃいますよ?」
「…じゃあ、言わない」
「えー!」
永那が笑う。
「じゃあ、言わないと、キス、おあずけしちゃいますよ?」
彼女の両眉が上がる。
ああ…好き…。
「おあずけ…」
「言ってくれますか?元気ない理由」
ふぅっと息を吐くと、顔が離れて、彼女はベンチの背もたれに寄りかかった。
「妹が、いるんだけど」
「はい」
「めちゃくちゃ生意気で」
「私も生意気ってよく言われます」
ニシシと彼女が笑う。
「永那とは全然違うよ」
「そうですか?」
「そうだよ」
思い出して、ため息が出る。
「コンビニ行くって言うと、毎回毎回“あたしのも買ってきて~”って言うの」
彼女が頷いて相槌を打ってくれる。
「お金を返してくれればいいんだけど、1回も返してもらったことないんだ」
「え、それはさすがに酷いですね」
「でしょ?…それに」
お母さんのことを悪く言おうとしているのに気が引けて、俯く。
「それに?」
彼女の手が、膝で握りしめていた私の手に乗って、そのぬくもりに、一瞬、泣きそうになった。
下唇を1度噛んで、深呼吸する。
「お母さんが、いつも妹の味方をするの」
「ふーん」
「小さい頃から、ずっと。いつもそう。“お姉ちゃんなんだから”って。“お姉ちゃん”ってなに?妹と2歳しか違わないんだよ?私が妹より2年先に生まれたから、なんでもかんでも妹に譲らなきゃいけないの?お小遣いの額だって、妹も中学生になって同じ額なのに…!」
気づいたら大声を出していた。
涙が溢れ出て、ポタポタと落ちる。
「どう?ショート、似合いそう?」
「…うん。似合いそう」
「っしゃ!じゃあ今度バッサリいってみようかな」
「楽しみにしてる」
「おー!ウチに惚れちゃうなよ~?」
両手の人差し指を私に向けて、ニヤニヤしている。
「きゃー!惚れちゃったらどうしよー!」
「うっへっへっへっへっ、ウチのモテモテライフがついに始まる時がきたか!!」
2人で、笑い合う。
その後、永那を好きになったキッカケを話したり、告白して振られたことを話したりした。
そうしたら彼女が彼のことを打ち明けてくれた。
“彼を好きだったこと、知ってる”って言ったら、彼女は顔も耳も首も真っ赤に染めた。
「いや~、お恥ずかし~!恋愛相談乗ってる内に好きになるとか、マジであるんだなって自分が怖くなったよ!」
彼女はパタパタと手で顔を扇いでいるけど、真っ赤に染まった頬は落ち着きそうにない。
「告白、しないの?」
「ん~…わかんない!」
照れるように俯きながら、ポリポリと頭を掻いた。
7時過ぎにファミレスを出た。
分かれる間際まで、キスしたことを言おうか悩んだ。
そして、結局、言えなかった。
「どした?」と聞かれたけれど、言えなかった。
からかわれるなんて、もう、思ってない。
きっと、引かれもしないんだとも思う。
またビックリされて、“どうだった?”とか聞かれるのかもしれない。
でも、なぜか言えなかった。
…言えなかったんじゃなくて、言いたくない…のかも。
永那との大切な思い出だから。
永那と2人だけの思い出に、したいのかも。
次の日からモテいじりはなくなった。
ちょうど好きなバンドの新曲が出て、何度も再生して、2人で騒いだ。
昼休みもその話題で盛り上がった。
ここしばらく胸の奥に引っかかっていた何かが取れ、また楽しい学校生活が戻ってきた。
それから数日後、また永那から連絡がきた。
同じ公園で待ち合わせて、他愛ない話をして、キスをする。
そのまた数日後も、その数日後も、さらにその数日後も、何度も、何度も。
「お姉ちゃん、最近コンビニ行きすぎじゃない?」
「受験勉強してたらお腹すくの」
「へえ。デブになるよ?」
「関係ないでしょ…!」
妹が憎たらしくて仕方ない。
「じゃあ、あたしのも買ってきて~」
“デブになるよ?”って言い返せたらいいのに…。
「お金返してくれたことないから嫌」
「はあ?」
妹が私を睨む。
「それくらい買ってきてあげなさいよ」
お母さんが言う。
どうしていつもお母さんは妹の味方なわけ!?
イライラしながら玄関に向かうと、夕食を食べていたはずのお父さんがそばに来た。
「ほら」
「え…?いいの?」
お父さんが頷く。
手渡された5千円をジッと見つめた。
「ありがとう…」
「頑張れよ」
少し、目頭が熱くなる。
「うん…。行ってくる」
「気をつけてな」
頷いて、外に出た。
「風美先輩?」
「…ん?」
「どうしたんですか?今日、元気ないですね」
永那が優しく笑う。
「え、そ、そうかな?」
「はい。私には分かります」
両手で双眼鏡を作って、私の顔を覗き見る。
「教えてください。なんで元気ないのか」
顔を90度近く曲げて覗き見てくるから、思わず笑った。
「あ、笑った」
永那は双眼鏡をやめて、ベンチに手をついて、私に密着するように座り直した。
「どうしたんですか?」
「んー…」
言い渋ると、永那の顔がグッと近づいた。
「言わないと、キスしちゃいますよ?」
「…じゃあ、言わない」
「えー!」
永那が笑う。
「じゃあ、言わないと、キス、おあずけしちゃいますよ?」
彼女の両眉が上がる。
ああ…好き…。
「おあずけ…」
「言ってくれますか?元気ない理由」
ふぅっと息を吐くと、顔が離れて、彼女はベンチの背もたれに寄りかかった。
「妹が、いるんだけど」
「はい」
「めちゃくちゃ生意気で」
「私も生意気ってよく言われます」
ニシシと彼女が笑う。
「永那とは全然違うよ」
「そうですか?」
「そうだよ」
思い出して、ため息が出る。
「コンビニ行くって言うと、毎回毎回“あたしのも買ってきて~”って言うの」
彼女が頷いて相槌を打ってくれる。
「お金を返してくれればいいんだけど、1回も返してもらったことないんだ」
「え、それはさすがに酷いですね」
「でしょ?…それに」
お母さんのことを悪く言おうとしているのに気が引けて、俯く。
「それに?」
彼女の手が、膝で握りしめていた私の手に乗って、そのぬくもりに、一瞬、泣きそうになった。
下唇を1度噛んで、深呼吸する。
「お母さんが、いつも妹の味方をするの」
「ふーん」
「小さい頃から、ずっと。いつもそう。“お姉ちゃんなんだから”って。“お姉ちゃん”ってなに?妹と2歳しか違わないんだよ?私が妹より2年先に生まれたから、なんでもかんでも妹に譲らなきゃいけないの?お小遣いの額だって、妹も中学生になって同じ額なのに…!」
気づいたら大声を出していた。
涙が溢れ出て、ポタポタと落ちる。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる