いたずらはため息と共に

常森 楽

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8.閑話

41.永那 中2 夏《野々村風美編》

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彼女がゴムを取って、髪の毛を折り曲げるように手で押さえる。
「どう?ショート、似合いそう?」
「…うん。似合いそう」
「っしゃ!じゃあ今度バッサリいってみようかな」
「楽しみにしてる」
「おー!ウチに惚れちゃうなよ~?」
両手の人差し指を私に向けて、ニヤニヤしている。
「きゃー!惚れちゃったらどうしよー!」
「うっへっへっへっへっ、ウチのモテモテライフがついに始まる時がきたか!!」
2人で、笑い合う。

その後、永那を好きになったキッカケを話したり、告白して振られたことを話したりした。
そうしたら彼女がのことを打ち明けてくれた。
“彼を好きだったこと、知ってる”って言ったら、彼女は顔も耳も首も真っ赤に染めた。
「いや~、お恥ずかし~!恋愛相談乗ってる内に好きになるとか、マジであるんだなって自分が怖くなったよ!」
彼女はパタパタと手で顔を扇いでいるけど、真っ赤に染まった頬は落ち着きそうにない。
「告白、しないの?」
「ん~…わかんない!」
照れるように俯きながら、ポリポリと頭を掻いた。

7時過ぎにファミレスを出た。
分かれる間際まで、キスしたことを言おうか悩んだ。
そして、結局、言えなかった。
「どした?」と聞かれたけれど、言えなかった。
からかわれるなんて、もう、思ってない。
きっと、引かれもしないんだとも思う。
またビックリされて、“どうだった?”とか聞かれるのかもしれない。
でも、なぜか言えなかった。
…言えなかったんじゃなくて、言いたくない…のかも。
永那との大切な思い出だから。
永那と2人だけの思い出に、したいのかも。

次の日からモテいじりはなくなった。
ちょうど好きなバンドの新曲が出て、何度も再生して、2人で騒いだ。
昼休みもその話題で盛り上がった。
ここしばらく胸の奥に引っかかっていた何かが取れ、また楽しい学校生活が戻ってきた。

それから数日後、また永那から連絡がきた。
同じ公園で待ち合わせて、他愛ない話をして、キスをする。
そのまた数日後も、その数日後も、さらにその数日後も、何度も、何度も。

「お姉ちゃん、最近コンビニ行きすぎじゃない?」
「受験勉強してたらお腹すくの」
「へえ。デブになるよ?」
「関係ないでしょ…!」
妹が憎たらしくて仕方ない。
「じゃあ、あたしのも買ってきて~」
“デブになるよ?”って言い返せたらいいのに…。
「お金返してくれたことないから嫌」
「はあ?」
妹が私を睨む。
「それくらい買ってきてあげなさいよ」
お母さんが言う。
どうしていつもお母さんは妹の味方なわけ!?
イライラしながら玄関に向かうと、夕食を食べていたはずのお父さんがそばに来た。
「ほら」
「え…?いいの?」
お父さんが頷く。
手渡された5千円をジッと見つめた。
「ありがとう…」
「頑張れよ」
少し、目頭が熱くなる。
「うん…。行ってくる」
「気をつけてな」
頷いて、外に出た。

「風美先輩?」
「…ん?」
「どうしたんですか?今日、元気ないですね」
永那が優しく笑う。
「え、そ、そうかな?」
「はい。私には分かります」
両手で双眼鏡を作って、私の顔を覗き見る。
「教えてください。なんで元気ないのか」
顔を90度近く曲げて覗き見てくるから、思わず笑った。
「あ、笑った」
永那は双眼鏡をやめて、ベンチに手をついて、私に密着するように座り直した。
「どうしたんですか?」
「んー…」
言い渋ると、永那の顔がグッと近づいた。
「言わないと、キスしちゃいますよ?」
「…じゃあ、言わない」
「えー!」
永那が笑う。
「じゃあ、言わないと、キス、おあずけしちゃいますよ?」
彼女の両眉が上がる。
ああ…好き…。
「おあずけ…」
「言ってくれますか?元気ない理由」
ふぅっと息を吐くと、顔が離れて、彼女はベンチの背もたれに寄りかかった。

「妹が、いるんだけど」
「はい」
「めちゃくちゃ生意気で」
「私も生意気ってよく言われます」
ニシシと彼女が笑う。
「永那とは全然違うよ」
「そうですか?」
「そうだよ」
思い出して、ため息が出る。
「コンビニ行くって言うと、毎回毎回“あたしのも買ってきて~”って言うの」
彼女が頷いて相槌を打ってくれる。
「お金を返してくれればいいんだけど、1回も返してもらったことないんだ」
「え、それはさすがに酷いですね」
「でしょ?…それに」
お母さんのことを悪く言おうとしているのに気が引けて、俯く。
「それに?」
彼女の手が、膝で握りしめていた私の手に乗って、そのぬくもりに、一瞬、泣きそうになった。
下唇を1度噛んで、深呼吸する。
「お母さんが、いつも妹の味方をするの」
「ふーん」
「小さい頃から、ずっと。いつもそう。“お姉ちゃんなんだから”って。“お姉ちゃん”ってなに?妹と2歳しか違わないんだよ?私が妹より2年先に生まれたから、なんでもかんでも妹に譲らなきゃいけないの?お小遣いの額だって、妹も中学生になって同じ額なのに…!」
気づいたら大声を出していた。
涙が溢れ出て、ポタポタと落ちる。
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