いたずらはため息と共に

常森 楽

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7.向

436.期待

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「まあ、スイートだから」
「スイートルーム…」
千陽は台に置かれたキャリーケースを開けて、服を取り出す。
クローゼットを開けて、ハンガーに服を掛けた。
「スイートってのは、すごいってことは、知ってるよ?」
「うん」
思わずため息が出る。
一体いくらなの…?
本当にお金、出してもらっちゃって大丈夫なのかな…?
今更“払え”と言われても、たぶん無理なのだけれど。

永那ちゃんと2人で部屋をじっくり見て回る。
「このソファとか、すごく高そう…」
「質感が…質感が、ね?」
永那ちゃんが顔を覗き込んでくるから、頷く。
「こっちから撫でるとスベスベで、こっちから撫でるとザラザラなの…高いって感じがする」
そのイメージはわかるけど、彼女が生地を撫でているのを見ると、なんだか可愛くて頬が緩む。
壁紙がシックで、クラシックな風合いのベッドとソファが、部屋全体を荘厳に見せている。
決して装飾が派手なわけではないのに、気持ちが引き締まるような…。

景色を見ると、緊張が解き放たれた。
「うおー、ザ・都会って感じだね!」
「まだ昼間だから、夜になったらもっと凄いかもね」
「だねだね!楽しみになってきた!」
キングサイズのベッドの横には、3人で眠れるようにと、移動式のシングルサイズのベッドが置かれていた。
セミダブルで3人で寝られるくらいなんだから、たぶん、このシングルサイズのベッドは使わない。
でもそんなこと、ホテルの人が知るはずもないから、視界から外す。
「千陽!私、楽しくなってきたよ!さっきまで、ちょこーっと緊張してたけど、やっぱ嬉しいよ!」
千陽が隣に立つ。
永那ちゃんに言われて、どことなく嬉しそう。
「千陽、ここ来たことあるの?」
「ない」
「ないんだ」
「他のホテルのスイートはあるけど」
「そっか」
「でも…滅多に旅行なんてしないから、あたしも永那と似たようなもの。パパもママも、他の人とどっか行っちゃう」
無表情に街を見下ろす千陽を、抱きしめた。
目一杯抱きしめた。
そして決意する。
“楽しもう”と。

永那ちゃんにまとめて抱きしめられる。
幸せなひととき。
「おりゃー!」
「わっ」
「永那っ」
彼女に押され、ベッドに倒される。
高級なベッドってどんなものだろう?って思ったけど、案外硬めだ。
「永那ちゃん、いきなりすぎるよ」
「えー?だってエッチするんでしょ?3人で」
彼女の左の口角が上がり、見下ろされる。
今の今まで忘れていたのに…!もう…!
「時間は有限だよ?穂」
「永那ちゃんのバカ…」
「そうかなー?」
横に寝転んでいた千陽が起き上がる。
それに押されるような形で、永那ちゃんが上半身を起こす。
「千陽も、後でがいいの?」
千陽が首を横に振る。
「靴、脱ぐ」
そう言って、彼女がヒールを脱いだ。
「ほら、穂?千陽は準備してるよ?」
頬を膨らませると、口づけされた。
抱きしめられるような形で起こされる。

仕方ないので私も靴を脱ぐ。
床を見ると、既に3人分のスリッパが置かれていた。
「これ、千陽が置いてくれたの?」
「うん」
「ありがとう」
千陽が微笑む。
永那ちゃんが隣に座り、彼女も脱いだ。
永那ちゃんは靴下も脱いで、そそくさとベッドの上を四つん這いに進む。
私も永那ちゃんの真似をして靴下を脱ぐ。
「ほら!2人とも!早く!」
ボンボンとベッドを叩くから、私と千陽は顔を見合わせた。
いそいそと2人ともベッドの中央に座る。
「ちょっと、1回寝てみるか」
永那ちゃんが言って、3人で寝転ぶ。
「余裕で寝られそうだね。キングサイズの布団だと、真ん中が割けることもないだろうし」
「永那ちゃん、永那ちゃんの家で布団で3人で寝た時、寒がってたもんね」
「そうだよー!2人して布団使っちゃうからー」
笑い合う。

「よーっし!」
永那ちゃんが起き上がる。
「確認も出来たことだし、するか!」
心臓が跳ね上がる。
本当に…するんだ…。
千陽と目が合った。
彼女の眉がハの字になっていて、同じ気持ちなのだと察する。
「え、永那…」
「ん?」
「その前に、写真、撮ろ?」
「写真?…後でいいじゃん」
「ダメ。…綺麗な状態で、撮りたい」
永那ちゃんがニヤリと笑う。
「それも、そっか」
いろんな緊張で、写真を撮るなんて、考えも及ばなかった。
せっかくこんなに綺麗な部屋なんだもん。
撮らなくちゃ、きっと後悔するよね。
服だって、この日のために千陽と一緒に新調したんだし。

永那ちゃんがポケットからスマホを出し、カメラを起動してくれる。
「いっくよー」
カシャッと音が鳴り、終わりかと思ったら、永那ちゃんが方向を変えた。
「ほら、2人とも、こっち来て」
そう言って、ベッドの上でグルグル回り、彼女の気の済むまで撮影会が行われた。
私と千陽を2人で並ばせて撮ったりもして、千陽が提案したはずなのに、いつの間にか永那ちゃんの方が夢中になっていた。
そのうち千陽が永那ちゃんを睨んで、永那ちゃんは慌ててスマホをサイドテーブルに置いた。
横着して、移動せずに遠くから置こうとするものだから、よろめいて顔からベッドに倒れ込んでいた。
それに笑って、気づけば緊張なんてなくなっていた。
部屋に慣れたわけではないけれど、2人といるだけで安心出来た。
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