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博愛主義!ヤンデレンジャー!!

フィランスレッド参上!!(2)

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「フィランス・・・レッド・・・」
 真っ赤で胸に大きくハートが描かれたヒーロースーツに大きなマントを身にまとい、赤とオレンジの混じった無造作でボリュームのある自由にハネた長い髪をかきあげ、モデルのようなスラっとした長身にスーツごしにわかる大きめの胸。そしてガラス越しに輝く紅い瞳。その凛々しい立ち姿、まさに正義と博愛を体現したかのような頼もしさ。戦隊ヒーロー最強と言われているフィランスレッド、その人に違いない。
 そして、その声は子供の頃俺が聞いたレッドの声にそっくりだった。
「ありがとうございます!その、俺、十年前にも多分あなたに助けてもらって、レッドさんは覚えていないかもしれませんけど・・・ずっとお礼が言いたかったんです。今回の事も、十年前の事も、本当に・・・ありがとうございます!」
 がばっ、と全力で頭を下げる。夢みたいだ、さっきも悪夢みたいな出来事だったけど今は嬉しすぎて夢みたいだ。まさかもう一度あのフィランスレッドに会えるなんて!
「・・・・・・」
 俺が一方的に喋ったからか、フィランスレッドは何の返事もしてくれない。
「えっと・・・」
 まさか怒らせてしまったのでは、と思い俺が顔を上げると。なんと、フィランスレッドは顔面を覆うマスクを取っていた。
「え?」
 直に見る赤い瞳、そしてマスクをしている間はわからなかった少し尖った歯を見せて彼女はニィッと笑った。
「やっぱり君も覚えていてくれたんだな、やっと会えて嬉しい!」
 レッドの恰好をした少女は突然、俺の事を抱きしめた。
「えぇっ!?」
 ゴム製っぽいスーツ越しに大きな胸をこれでもかと押し当てられるし、ちょっと向こうの方が背が高いからより危険な感じするし、というかマスクを外しちゃいけないんじゃないかとか、なんで急に抱きしめられているのかわからないし。とにかく頭が混乱する。
「な、な、なんですか!?レッドさん?」
 生き別れの兄弟と再会したかの如く強く両腕で包まれてしまう。さすがヒーロー、腕力がエグイ。
「あの、レッドさん。苦しいです」
 俺の言葉を聞いてハッとして離してくれる。
「ごめん!大丈夫か?怪我していない?痛いところは無い?」
「あ、はい。大丈夫ですけど・・・」
「よかった、君に傷でもついたら大変だ」
 ほっと胸をなでおろす。
「なぁ、名前はなんていうんだ?君の事をずっと知りたかった」
「俺の事をですか?名前は、浅葱空ですけど」
「空か。いい名前だ」
「ありがとうございます・・・?」
 彼女は目を輝かせて俺のことを見ている。マスクを取ったフィランスレッドはなんというか、美少女だった。年は俺と同じ二十歳手前くらいだろうか、外に広がった炎色の髪と熱したガラスのような紅色の瞳が印象的で、こんな綺麗な女の子が日本中で騒がれる戦隊ヒーローのレッドだというのはなかなか信じがたい。しかし身にまとうヒーロースーツと手に持ったマスク、そして先ほどまでの非現実的な現象の数々を考慮すると信じざるを得ない。
「その、あなたはフィランスレッドさん、ですよね」
「そんな他人行儀な呼び方はやめてくれ、あたしの事は茜って呼んでよ。本名は蘇芳茜(すおう あかね)だから」
「えっ、本名教えてもいいんですか!?」
「空にならいいに決まっているじゃないか。なぁ、このあと暇だろ?」
「え?まぁ、はい」
 大型書店にしか置いていない新刊の本を買いに行くという用事があったが、どう考えてもヒーロー様からのお誘いのほうが優先だ。
「じゃあ、あたしと来てくれよ」
「え、どこに・・・」
 俺の返事を待たずに彼女は右手を勢いよく広げる。すると、どこかから彼女、茜さんの身長程の巨大なバトルアックスが出現した。
「えぇっ!?」
「どりゃっ!!」

 中央に赤い宝石の付いたバトルアックスを軽々と振る。
 ―――ザァッ―――
 それはまるで、世界に亀裂を入れたかのような衝撃だった。その勢いに一瞬だけ眼を瞑り、再び開くと周囲にどことなく漂っていた違和感が消えていた。
「あ、改札!」
 さっきまでは無限に続いているかのように見えたホームだったが、いつの間にか俺は東口改札の目の前にいた。先ほどの黒い人影とあの空間はなんだったのだろうか、普段いる世界と切り離された空間のようだった。
「あまり姿を見られたくない、行こう」
 そう言うと彼女は俺の事を軽々と抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこの状態だ。
「えっ、あの。何を・・・」
「ちっ、邪魔だな」
 ―――ガシャン―――
 そのまま化け物じみた脚力で改札を突き破る。え、器物破損。
 改札を蹴り一発で破壊した彼女の膝からダラダラと血が流れているがそれは直ぐに跡形もなく消えた。戦隊ヒーロー様は自動回復能力持ちらしい。

 駅の外に出ると誰かに注目されるよりも早く高く飛び上がり、そのままビルの屋上を忍者のように跳びながら俺を抱えてどこかに向かう。その姿はまるで映画のワンシーンのようだけど、俺は怖くてひたすら茜さんに抱き着いていた。


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