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第31話 月読の神衣

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 「いやー、それは流石にデリカシーがないってもんやわ」

「そうかぁ? 」

 サクヤに月読の神衣について聞きに来た俺。
 ほんの愚痴のつもりでミシェルとのことを溢したのだが、サクヤは呆れたように俺をじとっと見ている。
 ああちなみにシエルはお留守番だ。外出続きで流石に疲れたらしい。

「そうや。だってそのミシェルさんは相当プライドが高いお方なんやろ? お金だってずっと貯めてきたはずや。それなのに俺が全額出すから言うこと聞けーなんて言われたら怒るのも無理ないわ」

「うーん……俺には分からん。全額出して貰えるんだから得じゃないか? 」

 分かってないわーヨリはーとサクヤがやれやれと言う風にため息を吐いた。

「……モテたことないやろ? 」

「は!? 」

 図星。

「その反応、やっぱりな~。女人と付き合ったことないんやろ? 」

「い、い、い、い、い今はそんなこと関係ないだろ! 」

 くくくっと面白そうに笑うサクヤ。心なしかセイヤも面白がっている風に見えるのは俺の心が歪んでいるからだろうか?

「そんなんじゃ一生清い体のままやで。ああ、でもお金さえあれば何とかはなるんかね」

「何の話だ何の! 」

 するとサクヤは俺の長い前髪を掻き分けると、こう言った。

「顔立ちは悪くないんや、もうちょい何とかしなさいな。……まあこのことを知ってるのはうちだけと言うのも、気分ええけど」

 からかうなよ、と俺は彼女の細い腕を軽く振り払う。くすくす笑いながらサクヤはさてと、と呟いた。

「うちとそんな雑談をしに来た訳じゃないんやろ? 大方、"月読の神衣"のことでも聞きに来たんやない? 」

「よく分かるな、正解だ。これを着てミシェルに触れたとき、彼女の弟が亡くなる映像が見えた」

「それは……何とも不吉やね」

「この装備品の効果はもしかして未来予知なのか? 」

 サクヤはふむ、と口許に手を当てた。

「半分正解やけど、半分外れやね」

「どういう意味だ? 」

「うちも最近思い出したんよ、その神衣の能力。一言で言えば"神眼"やね」

「神眼? 」

 カッコいいけれど何とも意味が分からない。
 えーっとつまり……?

 俺の表情を察したのかサクヤはこう続ける。

「過去現在未来、全てを見通す能力や」

「じゃあ、未来予知とは限らないのか!? 」

「そうやね。ああ未来と言うのは語弊がある。不確定未来と言う方が正確かね」

「ふ、不確定未来? 」

 難しいワードがポンポン出てくるせいで頭が混乱してきた。

「そ、来るであろう未来のことよ」

「来るであろう……未来 」

「放置しておけばその映像通りの未来が訪れる。でも何らかの行動を起こせば変えられる。そんなふわふわして不確定な未来や」

「じゃあその弟を救うことも出来るのか? 」

「出来るだろうね。ヨリが間違えなければ」

 俺が間違えなければ……?

「未来を変えられるのは"神眼"を持つ者だけ。未来のことは神にしか変えられないのが決まりなんよ」

「神って……俺はただの人間だよ」

「ふふ、そうやね。でも神衣を纏った人間は神にも等しい存在になる。これがうちの国の言い伝えや」

「ふーん、ま、ただの言い伝えだろ」

「まあそういうことやから。せいぜい頑張りんさい。……話変わるんやけど入荷したばかりのこの剣買わんか? 火の魔結晶を加工した作ったのものやから魔法が使えない人でも一振りで火魔法が撃てる優れもんや」

「へえ……中々良いな」

 って、すっかり営業トークのせられていた。
 いかんいかん、このままじゃ搾り取られてしまう。

 話の流れを変えようとした俺の脳裏に、一人の少女が浮かんだ。

「そうだサクヤ、竜のことについて教えてくれよ。この前は途中ではぐらかされたじゃないか」

「竜? ……ああそうやね」

 途端に表情に影を落とす。
 あまり聞かれたくないことのようだ。

「サクヤは竜について詳しそうじゃないか」

「……詳しくなりたくてなったわけやない。仕方なくこうなったんや」

 ぼそりと呟くサクヤ。

「え ? 」

 思わず聞き返したが、サクヤはいつものにっこりスマイルでこう言った。

「ここから先を聞きたいなら500万……」

「出すさ」

 カウンターの上に金を出す俺。お金ならいくらでもある。金で解決出来るならそれに越したことはない。

「……ヨリにはこの手は効かないんやねえ」

「ま、金ならあるからな」

「しゃーないな、教えてやるわ。と言ってもうちが知ってるのは前話したことぐらいや。そもそもうちがここに来たのは、竜のことを調べにある人に会いに来たからやし」

「ある人? 」

 うん、とサクヤは頷く。

「ベルグ=レイモンド。この国の神話に詳しい学者さんや」

「知らないな……」

「そやろ? 色んな人に聞いてもそんな男は知らないって言われてしまうんや」

「いや待てよ……レイモンド……レイモンド……どこかで聞いたことがあるような」

「ほんとか!? 」

「あ」

 俺はある一人の少女の顔が思い浮かんだ。
 ルーナ=レイモンド。そうだ、ルーナの名字はレイモンドだったはず。

「ルーナ=レイモンドというサクヤと同い年ぐらいの娘なら知り合いにいる。定食屋の看板娘だ」

「ルーナ=レイモンド? ふうむ……彼に娘がいたなんて聞いたことないの……」

 でも、ありがと。とサクヤは笑みを浮かべた。

「うちもその娘に話を聞いてみるわ。何か知ってるかもしらんし」

「ああ、そうしてくれ」

「何か分かったらヨリにも教えてやる。それでええやろ? 」

 完璧だ、俺はそう答えると彼女と固い握手を交わしたのだった。

 ……ともかくリュイの未来を変えるため、どうにか手を打たなければ。
 おそらく彼の病を治すような何かがあれば、あの未来はなかったことになるはずなのだから。
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