精霊の愛し子~真実の愛~

松倖 葉

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第三章  動き出す歯車

第十八話

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客室から出てきたラシードの表情が険しい

「殿下?どうされたのですか?」

ラシードは重い口を開いた

「間違いなく精霊の愛し子ではないが、傍らに精霊が居る」

精霊が傍にいる、それだけでラシードがこんなに険しい顔をしている理由が分からない

「契約している精霊なのではないですか?」

契約していれば呼び出し傍に置くのは難しい事ではないのだ

「契約していたとすればおかしな事ではないが、精霊の様子がおかしいんだ」

「様子がですか…?」

ラシードの言葉に困惑するユアン。様子がおかしい精霊など聞いたこともない

ラシードとユアンが思案している時

「…殿下、精霊の様子がおかしいとはいったいどういう事ですか?」

二人が振り返ると険しい表情をしたセオドールが立っていた。傍らには息を切らしたジェラルドが居る

「はぁ…はぁ…、精霊の事はセオドール殿に聞くのが一番だと思って呼んできたんだ」

「たまには気の利いた事をするじゃないですか」

「…お前なぁ…」

ユアンの言葉に深い溜息をついた

「殿下、詳しく話していただけますか?」

「あぁ、部屋にはシェリと変わらない年頃の少年が居た。そして自分は精霊の愛し子だと」

ラシードの言葉を聞いてセオドールの表情がさらに険しくなる

「私が、証拠はあるのかと訊ねると少年は精霊が証拠だと言って呼び出した」

「その精霊は…」

「精霊王のべヒモス様だと」

精霊王と聞き一様に息をのむ。ただ、セオドールだけは険しい表情のままだ

「べヒモス様だと……そう言ったのですね?」

「あぁ……」

肯定したラシードにセオドールは目を閉じ深い溜息をつく

「傍らの精霊は王ではありません。」

「違うのか?」

違うのであればあの少年は何を持って精霊を王だと言ったのか

「傍らに居るのはきっとゴルヴァです。」

「ゴルヴァ?」

ジェラルドが不思議そうに繰り返す

「私と同じ、シェリを探すよう指示を受けていた精霊です。べヒモス様が連絡が途絶えたと言っていましたから間違いないでしょう」

「そうか…しかし、何故あの少年の傍らに…」

「殿下、ゴルヴァの様子が変だったと言っていましたね?」

「あぁ」

「詳しく教えていただけませんか?」

「私が挨拶をしても話す事はなく、直立不動で常に正面だけを見ていた」

ラシードが言うとハッ目を見開く

「…なんと言う事を……」

セオドールの瞳に怒りが宿る

「どう言う事だ?」

「おそらく少年は古の昔に作られた『魔具』を使用したのでしょう」

「魔具ですって!?」

驚愕に目を見開くユアン

「何で魔具で驚いてるんだよ?」

ユアンの驚き様にジェラルドは不思議そうな顔をする

「あなたは馬鹿なんですか!?『古の昔』この言葉が意味する所…つまりは禁忌とされた魔具の事です」

「…ッ!」

「おそらくゴルヴァに意識はあるでしょうが、縛られていて精霊としての力も封印されているのでしょう」

「なぜ、その様な魔具が存在するんだ!」

精霊を縛るなど聞いたことも、考えた事もない

「この魔具を作ったのは精霊の愛し子。古の昔、堕落してしまった精霊が居たのです。名はルグタス。彼はとても力の強い精霊でした。しかし愛し子を愛しすぎたばかりに………暴走を始めたルグタスを抑えるのは至難の業でした。そこで愛し子が、これ以上精霊が傷つかないよう…ルグタスが傷つけなくて済むように作った物です」

「……そんな事が…それは壊す事は可能なのか?」

「……分かりません。魔具がルグタスから離れたのは命尽きてから。それゆえ…」

「……何てことだ」



傍らの精霊の存在。そして現状は悪くなる一方だった
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