完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。

恩田璃星

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恋人の条件

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 漣がアパートの階段を駆け降りる音が聞こえなくなると、さっきまでの喧騒が嘘のように室内が静まり返った。

 何この微妙な空気!?
 
 「あの…じゃあ、お疲れ様でした」

 あまりの居心地の悪さに、ついバイト終わりのような挨拶をすると、すかさず突っ込まれた。

 「何でだよ!早く荷物まとめろよ。俺の家に行くんだろう?」

 「えっ!アレ本気だったんですか?てっきり漣を家に帰すためだけの話かと…」

 「本気に決まってるだろう。万が一にもこれで凛に何かあったら、弟に八つ裂きにされるのは俺なんだぞ!」

 と、言われても。
 怒涛の展開過ぎるでしょう。
 まさかの告白の直後に不意打ちのキス。
 更に、その日のうちに同棲開始だなんて。
 
 「ふ、不審者なんて漣の思い過ごしですって。もし泥棒だったとしても、うちには盗まれて困るものなんてないですし、それに、夏目さんだって最初私のこと男子高校生と間違えたじゃ…」

 そこまで言ったところで、夏目さんがサマーカーディガンの袖を捲って見せた。

 「…これ以上つべこべ言うなら、俺が勝手に荷造りするぞ」

 それは困る!
 チェストの中にはゴムの伸び切ったパンツ見られたくないものが。

 「今すぐやります!!」

 大きめのエコバッグをひっつかみ、急いでとりかかると、夏目さんは満足そうな表情を見せた。

 何とかチェストの中身を見られる事なく荷造りを終え、夏目さんの車に揺られること30分。
 目の前に現れたのは、絵に描いたような高層マンション。
 前回は、来た時は意識なかったし、帰る時も逃げるように飛び出したから、初めて来たも同然で。

 乗り心地の良過ぎる車といい、豪奢なマンションといい、全てが別世界のようで、不安しかない。

 夏目さんのことは嫌いじゃない。
 多分、好きになりかけている。
 だけど、昔から苦手なお金持ちの夏目さんと、本当にうまくやっていけるんだろうか?
 実際、付き合うことになった流れも、かなり強引だったし。

 なんて、一人モヤモヤしていたら、いつの間にか夏目さんの部屋の前に来ていた。

 「何ボーッと突っ立ってんだ。入れよ」

 ほらね。
 やっぱり強引…。

 と、呆れながら靴を揃えていたら、わざとらしい咳払いが聞こえた。

 「…どうしたんですか?風邪ですか?帰りましょうか?」

 「そうじゃなくて!……さっきは悪かったな!!」

 さっきって何のこと?
 脅してここまで連れてきたこと?

 分からない、と小首を傾げて見せると、夏目さんは苛立ったように叫んだ。

 「だから!勝手にキスして悪かったって言ってるんだ!!」
 
 とても謝罪しているとは思えない言いぐさ。 
 だけど、これは、どう見ても…。

 「もしかして…夏目さん、照れてます?しかもこんな時間差で」

 「べ、別にっ!照れてないし!!」

 と言いつつ、夏目さんの顔は耳まで赤い。

 そんな反応されると、こっちまで恥ずかしくなってきて、余計な事を口走ってしまいそう─と、思った時は、もう遅かった。

 「誰がどう見たって照れてるじゃないですか!まさか…例の初恋拗らせすぎて、経験ないとか言わないですよね!?」

 「そっ、そんなわけあるか!夏目グループの御曹司だぞ!?ある意味長男より美味しいポジションの次男だぞ!!生まれてこの方ずーっっとよりどりみどりだったわ」

 そりゃあそうか。
 私の好みはさておき、御曹司でこれだけ整った顔してれば当たり前。
 だから、胸がチクリと痛んだのは気のせいだ。

 ちょっと勢いを失った私に、夏目さんは反撃のを緩めない。

 「ここに連れてくると大概の女は目を輝かせて喜ぶのに、凛は喜ぶどころか捨てられた子犬みたいに不安そうな顔してたから、気ぃ遣ってやったんだよ」

 「こ、子どもじゃあるまいし。キスくらい、お気遣い不要です」

 「じゃあ、もう一回してもいいんだな?」
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