完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。

恩田璃星

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恋人の条件

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 言われたのと同時に、腕と腰を掴まれ。壁際に追い込まれた。
 続いて迫ってくる夏目さんの顔を慌てて避ける。

 「そ、そういう意味じゃなくて!」

 「じゃあどういう意味だよ。人のこと散々煽っといて」

 「煽ってなんて…!」

 「俺の過去には眉ひとつ動かさないくせに、自分は『キスくらい』なんて平然と言って退けるって…煽ってる以外ないだろう!」

 そんなこと言われても。
 夏目さんには一哉とのことも話してしまっているのに、今更純情ぶるのは何か違うし。
 実際、夏目さんだってそれなりに遊んでるくせに、変に謝ったり照れたりするからおかしなことになってるんだし。

 「なっ、夏目さんってそんなキャラでしたっけ!?」

 「俺も今日初めて知ったよ。相手が例え弟であっても、凛と同じ布団で寝るなんて我慢ならないくらい嫉妬深いなんてな」

 「そんな、他人ひと事みたいに!」

 「仕方がないだろう。惚れた女が手に届くところにいること自体、俺にとっては奇跡みたいなものなんだから」

 ああ、嫌だ。
 今度は気のせいなんかじゃない。
 はっきりと、強烈に胸が痛む。

 人のことを散々責めておいて、自分の方がよっぽど性質タチが悪いじゃない。
 私は、一哉とのことは完全に過去のことなのに。
 
 この年になるまで好きな相手とキスしたことすらないなんて、どれだけ好きだったのよ、そのコのこと。
 なのに、私なんかが好きって本当なの?
 夏目さん、本当は、まだそのコのこと好きなんじゃないの?
 
 そう思うと、どうしようもなく腹が立って─

 「いいですよ、

 苛立ちを隠すことなく、ほとんど喧嘩腰に吐き捨てると、夏目さんは小さく舌打ちをしてから、私の背中を壁に押し付け、唇に食らいついた。

 「ん…ぅう…っ、ハ…むっ」

 さっき、漣の前でしたキスとは全然違う。

 深くて、激しい。
 頬の内側も、上顎も、大きな舌で撫で回されて、上手く息ができない。
 段々頭がクラクラしてくる。

 酸欠一歩手前のところでやっと唇は離されたけれど、熱を帯びた目は私を捉えたまま離さない。
 
 「凛のせいだからな」

 夏目さんはそう呟いて、私の体を掬い上げた。

 そのまま日当たりの良い寝室に運ばれ、なだれ込むようにベッドに押し倒された。

 制止の言葉を言わせまいと、再び激しいキスが降り注ぐ。

 ダメなのに、嫌じゃない。
 むしろ、強く求められていることが、気持ちいい。
 このまま心も体も溶けあいたい。
 そして、夏目さんの中からあのコの存在を消し去ってしまいたい。

 そんなことを考えてしまうなんて、自分で思っているよりずっと、夏目さんのことが好きなのだと気付かされる。
 
 いい大人同士が付き合っているんだから、遅かれ早かれ体の関係には進むんだし。
 だったら早い方がいい。
 変にオアズケして、後戻りできないほど好きになってからコトに及んでとき、傷つくのは私の方だ。

 私たちがこのまま付き合っていけるかいけないか。
 全ては夏目さん次第。

 夏目さんの唇が首筋を伝い始め、漸く自由になった口を動かす。
 
 「…つめ、さんっ」

 呼びかけても聞こえないふりをしているのか、夏目さんは首筋を舐めたり甘噛みしたりするのを止めてくれない。

 「部屋…明るいっの、ヤだッ」

 くすぐったさを堪えて、何とか絞り出すと、夏目さんはサイドテーブルにあったリモコンに手を伸ばした。
 驚いたことに、自動でカーテンが閉まり、部屋は薄暗くなった。
 第一段階は、クリアだ。

 「あと…上の服は脱がさないで。…胸、コンプレックスなんです。お願い、します」
 
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