陰キャの僕が陽キャのキラキラ女子に告られた

塩こんぶ

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僕の作った壁

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 僕の一日の始まりは早い。
 朝5時、起床。
 まずは冷たい水で顔を洗い、眠気を覚ます。
 洗濯機をまわし、洗面所をあとにする。
 お次はキッチンでの仕事だ。
 僕と姉の分の朝食、僕のお弁当を作る。
 姉は中学校教師なので給食があり、お弁当は不要だ。
 たまに給食がない時は頼まれることがあるけれど。
 ある程度朝食ができたところで洗濯物を干す。
 姉はガサツで姉の服や靴下は大体裏返しのまま洗濯機に入っている。
 僕は毎朝ため息をつきながら全部服を表にしてしょうもない姉の顔を思い浮かべ、こんなんでいつか嫁にいけるのか?と考えている。
 洗濯物を干し終え、リビングへ行くと姉が起きてきていて、テーブルにきちんと座っていて朝食をご所望だ。
 いつもこのタイミングで起きてくる姉。
「優樹おはよー。ごはんー」
「はいはい」
 開いてるんだか閉じてるんだかわからないまだ寝起きの細い目でニュースを見ながら姉は僕に朝食を催促してくる。
 寝起きの姉の顔はぶくぶくにむくんでいて、長年それを見てきている僕は女の子って大体寝起きはぶくぶくなんだろ、と思っている。
 あの可愛い西条さんだって寝起きはきっとそうに違いない。
 こんな発言を間違ってでもSNSで発信してみろ。
 こんななよなよじめじめ陰キャのアカウントは個人情報を特定され、晒され、学校にまでその被害は及び、毎日机にぶくぶくと大きな文字で落書きされ、毎日それを頑張って消すんだけど次の日にはまたぶくぶくって書かれてて、あだ名はぶくぶく陰キャになり、僕はスクールライフはぶくぶくで制圧されるに違いない。
 まあ、SNSは基本つぶやかず閲覧用だし、ましてや僕は女の子と一緒に朝を迎えるだなんて事は決してないのだけれど。
 朝食の時はお互いニュースをボーッとなんとなく流し見しながら無言で食べている。
 姉は朝食を食べ終えると僕の分の食器まで洗い物をしてくれる。
 こういう所は姉の好きな所だ。
 洗い物を終えると姉は自室に戻り、出勤の支度を始める。
 僕も着替え、リビングでスーパーのチラシをチェックするのが日課だ。
 今日は何がお買い得商品なのか、目星をつけてから放課後に買い物へ行くのだ。
 そんなことをしていると姉はさっきとはうって変わり、ビシッとスーツを着て、まるで別人レベルのメイクで顔を変えてリビングへ下りてくる。
 可愛いは作れる。
「優樹、行ってくるねー」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「うぃー」
 僕もそろそろ行かないとな。
 陰キャらしくメガネを装着し、黒い大きいリュックサックを背負い、玄関のドアを開けると僕の陰キャスクールライフが始まる。







 教室に着くと今日も太陽のサークルが形成されていた。
 僕はそれを横目で見ながら自分の席に着いた。
 僕の席は一番後ろの窓際。
 授業中、憂鬱な感じで窓の外を眺める主人公ごっこも出来るのでこの席はなかなか良い席だと思っている。
「優樹おは」
「おー、沰。おは」
 沰の席は僕のひとつ前の席。
 席はくじ引きで決められた席だったが僕達の友情の大勝利で運命的に前後の席になった。
「おい見ろよ。これ」
「ん?」
 沰は僕の机に雑誌を開いて置いた。
「やべぇー、なっちゃんの水着姿まじで神。可愛すぎんだろ!」
 そう言って見せてきたのは今をときめくアイドル、安藤夏、通称なっちゃんだ。
 この子も確か現役高校生だったはず。
 ザ・国民の妹って感じで純粋そうな屈託のない笑顔が売りのショートヘアが良く似合う健康的な体型。
 沰は昔からこういう子が好みだ。
 ピンクのビキニを着てプールサイドに座り込み小首を傾げて、いかにも、彼女とプールに来たよに使っていいよのアングル。
「この主張しすぎない胸の大きさ、ヒップも丁度いい大きさと見た目からも分かる良さそうな弾力。あと見ろはっきり浮き出た鎖骨。そしてこの絹のようなきめ細かい肌質と透明感。たまらん」
 沰が興奮気味でなっちゃんを語っている。
「どこ見てんだよ」
「いや、見るだろ普通に。出てるとこは見るだろ!」 
 ヒートアップした沰はだんだん声が大きくなっている気がした。
 こんな会話、陽キャに聞かれたらたまったもんじゃない。
「静かにしろ。絶対彼女なんかできそうもない陰キャが幻想抱いてやがる、妄想の中で抱いてるだろあいつらきもいって思われるだろ!」
「うるせぇ優樹。お前それでも男か?」
「女の子に触れたことすらないくせに偉そうに」
「ははーん!優樹はあるのかよ!お前だってないだろうよ!」
「僕には姉がいるんでね」
「おい、それはカウント無しだぜ。そんなのがアリだったら俺だって運動会のリレーでバトン渡す時、女の子の手に触れたこともアリにしてもらうぞ」
 童貞同士の意味の無い会話が繰り広げられている。
 なんでこんな話になったんだっけ。
 こんな話早くやめて昨日のテレビの話でもしようと話を方向転換させたいと悩み出したその時だった。
「へぇ~。何の話してるの~?あー!なっちゃんだぁ。好きなのー?」
「「えっ……」」
 僕と沰の会話の間に入ってきた女の子の声。
 目の前にいたのは西条さんだった。
 僕の机に広がった雑誌のなっちゃんを指さしている。
 僕と沰は状況が呑み込めず口を開けたまま固まっていた。
「優樹君はなっちゃんみたいな子が好みなの~?」
 おいおい、なんで僕に話を振ってきた。
 そしてなんでここにいるんだ。
「え、自分、なっちゃん好きです!可愛いっすよねー!はははは!あ、西条さんも充分可愛いです!いつも見てます!はははは!」
 テンパり気味の、何故か瞬時にキャラが変わってしまった沰が口を開いた。
 全然西条さんの方を見ないで、テレビの笑いの音声みたいにずっと声だけで笑っている。
「へぇ、そうなんだ。優樹くんは?なっちゃん好きなの?ってさっきから聞いてるよ?タイプなの?ねぇ?」
「っえーと……」
 何故か目が笑っていないように見える西条さん。
 圧がすごい。
「あ、僕は全然好みじゃない、うん!僕はタイプ、とかないかな、選り好みできる立場じゃないんで」
「ふーん、そう。じゃあこれはしまって1人で見てね山本君。優樹君はタイプじゃないみたいだからこんなの見せたらストレスみたいよ?ね?そうでしょ?」
「あ、はい……」
 西条さんなんだか怒ってらっしゃる?
 僕は西条さんを見ないようにしながら頷くのが精一杯だった。
「あっ優樹~!ごめんな!はははは!気を遣わせちまったな!はははは!」
 沰、いい加減そのキャラやめないか。
「優樹君は純粋なんだから、地球温暖化とか最近の政治とかのお話した方がいいと思うな!ね?」
「あ、うん!僕、地球大好き!感謝!地球に感謝してるからね!西条さんありがとう、もう大丈夫です……」
 悪いがこの場から早く去ってくれ……!
 空気が重い……。
「ごめんね!邪魔しちゃったね!あ、そうだ!私、優樹君に伝えたいことあってきたんだった!今日もいつもの場所で待ってるねって言いに来たの!よろしくね、バイバーイ」
「お、おう……」
 西条さんはキラっとウインクすると太陽のサークルに戻って行った。
 太陽のサークルの人々はこっちをずっと見て西条さんを待っていたみたいで西条さんが戻るといつものように輪になった。
「おいおいおいおいー!!優樹!なんだ今のー!?西条さん、お前のこと優樹君って!言ってたよな?」
 沰は僕の肩を激しく揺さぶりながら鬼のような形相をしている。
 これはまた面倒なことになったな。
「うそー?言ってたかなぁ?優樹君だなんて言ってたかなぁ~?」
 今まであったことを説明するのも面倒だしなんか怒られそうだからとぼけておく。
「お前、耳の穴本当に開いてるんか?言ったぞ?優樹君ってな!あとさ、いつもの場所ってなんだよ?おい、貴様、何か隠しているな?」
「えぇっ? なんだろねぇ?いつも場所……??人違いか何かかなぁ?あと沰、いい加減揺さぶるのやめれ。脳震盪おきる」
「あぁ?お前が何か隠してるからだろ!まさかお前……」
 やばい。
 バレたか?
 僕と西条さんの告白ドタバタラブコメディがバレたのか?
「西条さんと親戚なのか?」
「お?……おう」
 沰がおバカで良かった。
 どうやったらそんな結論に至るんだ。
「なんだよー!早く言えよな。てっきり2人が付き合ってるとかそんなこと思ったけどそれはないよなー!良かった良かった。しかし、あんな可愛い親戚がいるならちゃんと俺に紹介するのが筋ってもんだろ」
 いやいや、筋じゃないだろ!
 とりあえずおバカな沰のおかげでこの場はなんとか切り抜けた。
「おい優樹。お前の親戚ってことは俺の友達ってことになるよな?お前は俺の親友だ。親友の親戚は友達だろ?」
「そんなの聞いたことないよ……」
「はあ?普通はそうだろ」
「沰の普通が怖いよ……」
 ここで朝のホームルームの時間になり、担任の先生が教室に入ってきた。
「後で詳しく教えろよな」
 沰は僕に耳打ちして前を向いた。
 沰には悪いけど本当のことは言えない。
 それに、僕達は付き合ってない。
 西条さんが僕に告白してくれたけど僕は断ったんだ。
 僕は陰キャだから。
 西条さんとは住む世界が違うんだ。
 ただのクラスメイト。
 僕の数少ない、話したことのある女子の栄えある第1位にランクインしただけだ。
 沰、大丈夫だ。
 これからもずっと陰キャ友達だぞ。
 ズッ友☆







「ねぇ、あれなんなの?」
「はい?」
「朝見てたじゃない。水着姿の女の子をヨダレ垂らしながらだらしない顔してニヤニヤして舐めるように見てた」
「え!?僕達そんな風に見えてるわけ!?」
 いつもの体育館裏で西条さんは腕組みしてご立腹のご様子。
 僕が西条さんに怒られる筋合いはないぞ。
「その……ああいうのが好きなわけ?」
「違うよ!!あれは沰が勝手に……僕には刺激が強すぎる!」
「優樹君も男の子ってわけね……色仕掛け大作戦でも考えた方が良いのかしら」
「それはやめてくれ。そんなので僕の考えは揺らがないぞ。」
「あら、そう」
「あとさ、教室で僕に話しかけてくるのやめてくれる?」
「えー!冷たいー!優樹君冷たい~」
「ふざけてる場合じゃない。これは僕達陰キャと君達陽キャの戦争問題に関わることだ」
「ん?」
「君が僕達に話しかけて来た時、めっちゃ見てたから。陽キャがゴミを見るような目でこっち見てたから」
「何言ってるの?そんなわけないでしょ?」
「君みたいな人が僕達に話しかけちゃいけないんだ。現にこうやってここで会って話してるのも見られたら……僕……」
 まじでガクブルです。
 今までなんとか陽キャに目をつけられないよう生きてきたのにこんな所で平穏を壊されてたまるか。
「あのさぁ、優樹君のそういう所、すごく嫌」
 西条さんは眉間にシワを寄せてぷいとそっぽを向いた。
「なにさそういう所って」
「陽キャだかバンキャだか知らないけど」
「待って、バンキャって何?」
「バンキャはブルガリの町よ」
「そんなの知らん……」
 こちらを向きコホンと咳払いし西条さんは話を続けた。
「そもそも人間をそうやって勝手にカテゴライズして勝手に壁作って、話したこともない人を勝手に自分とは分かり合えないって決めつけて、楽しいの?」
「僕が?」
「優樹君がやってる事って被害妄想に近くない?嫌なことされたとか話したことあるとかだったら毛嫌いするのも分かるけどどうせ優樹君が陽キャってカテゴライズしてる人と話したことないんでしょ?私とだって私が優樹君に話しかけなければ話すことなんてなかったよね?」
「え、まぁ……」
「みんな違ってみんないい。小学生の時習わなかった?みんな違うんだから分かり合える 人もいればできない人もいると思う。でも関わってないのに諦めるには早いんじゃない?現に私はこうやってあなたが勝手に作った壁を越えたわ」
 僕は何も言えなかった。
 世の中には陰キャと陽キャがいる。
 しかしそれは誰がどういう基準で決めるのだろうか。
 別に性格のカテゴライズと一緒で暗い人を陰キャ、明るい人を陽キャと名付けてもいいと思う。
 でも僕はそのせいで人を勝手に決めつけて怯えながら友達の輪も広げられず高校生活を送っているのかもしれない。
「どう?陽キャとあなたが呼んでる人と仲良くなる気になった?」
「僕は……まず何をしたら……」
「私と付き合えばいいのよ」
「いやそれは違うんですいません」
「早っ」
 僕の今まで概念が間違っていたように思えてきたが間違ってる根拠もないし合ってる根拠もない。
 いっそ自分探しの旅にでも出たいくらい迷走し始めている。
「今日優樹君を呼び出したのはこんな説教をする為じゃないのに」
 西条さんはため息をついて急にしゃがんで地面を見つめている。
「ごめんね西条さん。君の話聞くから」
「私の事嫌いになった?ガミガミおばさんだと思ってる?」
「おばさんって……西条さんと僕は同い年じゃないか……何をそんな急に落ち込んでるの?」
「人に説教なんてできる立場じゃないのに。あと、私だって普通の女の子だから。そんな毎日フラれたらめげる時だってあるの」
 シュンと3日くらい冷蔵庫に入れっぱなしのほうれん草みたいに西条さんは萎れていた。
 そもそも女の子の取り扱い説明書なんて僕は持ち合わせていない。
 1ページ目から白紙だ。
 イケメンモテモテ野郎はきっと僕の歳でも広辞苑くらいのページ数があってその時その時の状況に応じて最適なページを素早く開いて女の子を笑顔にさせるに違いない。
 僕にできることなんて……。
「あ!そうだ、西条さん!」
 僕にできることといえばこれしかない!
 西条さんを元気づけようと思いついた僕の言葉は遮られてしまった。
「……ゆめって呼んで」
「えっ!?」
「ゆめって呼んでくれたらきっと元気になれると思う」
「いやー、それはとても難しい、ベリーディフィカルト」
 僕は女の子を呼び捨てなんてしたことない。
 急に何を言い出すかと思えばこんな難題を突きつけられるなんて。
「その、男が女の子を呼び捨てするってことはそれはすなわち恋人関係ってことだろ?」
「はい?優樹君は壮大な勘違いをしてるのね。恋人関係じゃなくても呼び捨てするよ?友達だもん。優樹君だって山本君のこと呼び捨てしてるでしょ?そういうこと」
「何言ってんだ!沰は男だろ!?今は男女の話をしてるんだ!男女の友情など成立しない!」
 僕は自慢げに言い放った。
 僕に女の子の友達なんてできたことないし友達くらい親密になったらそれはもう恋人。
「男女の友情問題は諸説あるわ。そう考える人もいれば成立すると言う人もいる。これこそみんな違ってみんないい、じゃない?」
「男女の友情が成立するなんて言ってる奴は周りに話せて遊べる異性がたくさんいる奴に違いない!心の余裕ってやつだ」
「あー、もう面倒くさいわね。今から私が習字でみんな違ってみんないいって書くからそれを優樹君の部屋に飾ってもいい?」
「なんでだよ!」
「優樹君の教訓にするためよ。もうっ!話が逸れたじゃない。それでさっき優樹君が言いかけてたことって何?」
 思い出したかのように聞いてきたけどあれは西条さんがシュンとしてたから提案しようとしたことであって今更もう無効だ。
「いや、あの時は西条さんが落ち込んでたから元気づけようとして僕がお弁当作るから食べる?って聞こうとしてたんだけど……」
「食べる!!」
 西条さんは目をキラッキラに輝かせながら即答した。
 そしてすごく顔が近い。
「ちょっ……今は落ち込んでないからもう大丈夫だよね?」
「ん~?すっごい落ち込んでる~」
 しゃがんで地面を指でなぞり出した。
「さっきまであんな元気だったじゃないか」
「ううん。優樹君のお弁当食べたい。作ってください」
 西条さんは立ち上がり僕の両手を握った。
 暖かい……。
 あと柔らかい……。
 女の子ってのはまるで男と別物じゃないか!
 こんな柔らかくてなんならふにゃふにゃで細くてか細い。
 これは男が女の子を守りたいって気持ちも分からなくないような……。
「お願い♡」
 可愛こぶっても無駄だからな!
 僕はこんなんじゃ屈しないぞ。
「分かったよ。明日、作ってきます!」
「やった~!優樹君大好き」
 くそ!
 思ってもいないことを……!
 手のひらで転がされてしまった。
 こんな可愛い女の子にお願いされたら断れないよね☆
 生まれた時から男は女の子のお願いに断れないよう脳内にインプットされてるのかな?
 西条さんは嬉しそうに僕の手を握ったまま右に左によく分からない歌にのせてリズムを刻んで振っている。
「明日が来るのが楽しみだなぁ~!早く明日にならないかなぁ~!るんるーんっ!」
 僕のお弁当がこんなに西条さんを笑顔にさせているならまあいいかと思ってしまう僕だった。

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