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4閑話:姉の心情 後編

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にらみ合う中、王子は宥める素振りを見せると、私の方へと駆け寄ってくる。

「ところでエイミー、こんな朝早くにどうしたんだ?」

私の婚約者である第一王子アランは、優しい微笑みを浮かべ私へと笑いかける。
王子はそっと私の手を握ると、ソファーへと誘っていった。
ウィリアムが苛立った様子を見せる中、テーブルの上に見覚えのあるイヤリングが目に入った。

「あら、このイヤリングは……どうしたの?」

「あぁ、これか?そうだ、聞いてくれ。あのビルが本気で愛した女性の忘れ物らしい」

王子は机にあったイヤリングを持ち上げると、私へと見せつける。

「王子、お止め下さい!」

「昨日の夜会で見つけた令嬢と一夜を過ごしたんが、朝起きたらこのイヤリング以外、すべてなくなっていたらしいぜ。まぁ要するに逃げられ……ッッおいおい、落ち着けよ」

イヤリングを取り戻そうと、ウィリアムは焦った様子で立ち上がり奪おうとするが、王子はそれを軽々と避けた。
珍しく焦った様子を見せるウィリアムに目を丸くしていると、彼はどんどん不機嫌になっていく。

「はっはっ、でな、百戦錬磨のビルが夢中になりすぎて、その令嬢の名前を聞きそびれたんだとさ、ありえねぇよな」

「はぁ……私がもっている仕事を王子の書斎へ運んでおきましょう」

「ちょっ!!!いやっ、悪かったって、それは勘弁してくれ……」

焦った様子を見せる王子と冷たい視線のウィリアムとの掛け合いを横目に、私はこっそり胸を撫で下ろした。
まさか妹の相手がこんなすぐに見つかるなんて。
でもよかったわ、あの子名前を言わなかったのね。
王子が手にしていたイヤリングは、昔私が妹にプレゼントした物。
オーダーメイド物で珍しい宝珠が使われているそれは、妹の物で間違いないだろう。

こんなに早く見つかるとは思わなかったけど、ウィリアムが相手なのはいただけないわ。
彼の女癖の悪さは社交界でとても有名だもの。
来るもの拒まず、様々な女を遊びで相手にしては、あっさり捨てると噂だし。
知り合いの令嬢何人も彼に泣かされているわ。
ふん、可愛い妹をこんな男に渡すなんてありえない。

そんな事を考えていると、ふとアランが私へと視線を向けた。

「なぁ、エイミー、このイヤリングに見覚えはないか?」

王子はイヤリングを私に差し出すと、顔を覗き込むように視線をあわせる。

「残念だけれども、知らないわ」

冷たくあしらうと、私は王子の腕にしがみつき、ウィリアムをじっと見据えた。
妹はあなたに渡さないわ。

「ふぅ……仕事は山のようにありますので、さっさと帰ってくださいねエイミー様」

ウィリアムは鋭い視線をこちらへ向けると、王子はあたふたと困った表情を浮かべるのだった。


そうしてあの日から2年の月日が流れた。
私は王子と結納を交わし、王妃となった。
これで王子と気兼ねなく愛しあえるわ。
昔は王妃になる為には、処女が絶対条件だったそうだけれど、相次ぐ処女偽造や、処女を失った後、浮気に走る女性も多く、また先々代の王子は、処女よりも慣れている方がいいといった勝手な理由で、次第に廃れていった。

今では、結婚するまでの1年間は婚約者として王子と並び、監視付きの上、男との関係を持つことを禁止され、1年後ようやく王子との結婚できるそんな制度になっているの。

私は屋敷に帰ることが少なくなったけれど、なんとか母を説得し、あの舞踏会後から妹を家に引きこもらせ、ウィリアムが出る夜会や舞踏会には極力参加させないように手をまわした。
放っておけば、あいつも諦めるでしょう。

ウィリアムはあれからイヤリングの持ち主を知人などに聞きまわり、さらに王都で開催される夜会や舞踏会のほぼすべてに参加し、必死に探していたようだが見つかっていない。
それも当然、彼に見つからないよう、妹の情報は全て操作済み。
難しい顔をするウィリアムを横目に、さっさと諦めなさいよとそんな事考えてた。

しかし私の考えとは裏腹に、ウィリアムはあの日から女遊びがなくなり、いつもチラついていた女の影もなくなった。
それに親にどういう説得をしたのかは知らないけれど、結婚適齢期になっても、未だ婚約者を作っていない。


そうしてウィリアムは私の妹を見つけられないまま3年の月日が流れた。
彼は未だに妹を探している。
その姿勢に同情する気も無きにしも非ずだけれど、妹はあの日の事をなかった事にしたいと思っているし。
さっさと諦めてくれないかしら?

考え込む私をよそに、王はウィリアムを部屋へ呼び寄せていた。

「ビル、今年から俺の弟が学園へと通う。まぁ、エリックは真面目で問題はないと思うが、王族だからな。卒業までの3年間、監視役として学園の政治学の教員となってくれないか?」

あらいい案じゃない。
教員となれば、彼の仕事はさらに増えるわ。
妹を探す時間も少なくなるだろうし、そのまま諦めてもらいましょう。
王の提案に私は小さく微笑む中、ウィリアムは徐に跪いた。

「畏まりました」

胸に手を当て深い礼を取ると、彼はそれ以上何も話すことなく、静かに部屋を出ていった。
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