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ウィリアムルート

9彼へのプレゼント

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翌日朝食を済ませると、すぐにダンスの先生がやってくる。
太ももが筋肉痛だとアピールしてみるが……彼女はお構いなしに私をホールへと引っ張っていった。

そうして何時間も踊らされ、私の体力の限界が近づいていた。
足が、脚の筋肉が、ダメだ悲鳴をあげている。
逃げ出したい、でも踊れない令嬢と婚約なんて、ビルに迷惑をかけてしまうだろうな。
あぁそうだ、忘れていた。
ビルに会いに行かないと、今日こそ絶対に……ッッ。
私は自分を奮い立たせるように脚に力を入れるが、痛みはひどくなる一方だった。

「先生、うぅ、少し休憩をさせて下さい」

私は泣きそうな顔で先生へ視線を送るが、彼女はNOと首を横へ振ると、また音楽を再開させた。


日が沈み始めた頃、ようやくダンスから解放されると、昨日と同様湯あみを済ませ、そのままベッドへと倒れ込んだ。
はぁ、これは想像以上にきついな。
自然とため息が漏れる中、ゴロンと寝返りを打つと、顔を枕へと埋めていく。
これならマナーの授業の方が数段楽だったなぁ。
そのままベッドへと横になっていると、瞼が重くなり次第に夢の中へと吸い込まれていった。

窓が風で揺れガタガタッと微かな音にハッと目を覚ますと、月は高く昇り夜も大分更けている。
また寝てしまったのか……あっ、そうだビルに会いに行かないと。
私は慌てて飛び起きると、ローブを胸に抱き、一目散に部屋を出て行った。

彼の部屋の前にやってくると、ノックをする手が止まる。
もう寝ているのかな、明日もまた仕事だよな。
うぅ、考えなしに来てしまったが、やめといた方がいいのかもしれない。
扉を叩こうかどうしようか迷っていると、ふと廊下から足音が耳に届く。
音のする方へ顔を向けると、ビルが慌てた様子で駆け寄ってきた。
そのままビルは部屋の中へ私を連れ込むと、バタンと扉を閉める。
握られた手に何だか温かい気持ちになると、疲れていた足の痛みが和らいだ。

「アレックス、なんて格好で外に出ているのですか!?」

「えっ、うわッ!?」

自分の服へ目を向けると、あられもないシミーズ姿だった。
あぁそうだった、湯あみをしてすぐにベッドに入ったからだな。
私は慌てて体を隠すと、ビルはどこから持ってきたのか、大きめのコートを私へと羽織らせる。

「ごめん。その、どうしてもビルに会いたくて」

「私にですか?どうかされましたか?」

ビルは心配そうな表情を浮かべる中、私は慌てて胸ポケットから小さな魔道具を取り出した。

「あのローブありがとう。それと今日はビルに渡したいものがあるんだ」

私は柔らかい生地に魔道具を馴染ませたアイマスクを差し出した。

「その、仕事が大変そうに見えてだな、これを目につけて休めば、少しは疲れが取れると思う。魔道具で蒸気を出し、ちょうど良い温度を保つように調整してあるから、じんわりと目元の疲れを癒してくるはずだ。資料整理とかの仕事が多いだろう。あぁでも必要ないようだったら捨ててくれ」

私は一気に話すと、頬が火照っていくのを感じ、思わず顔を伏せる。
そんな私の様子にビルはアイマスクを受け取ると、私の手を包みこんだ。
手から伝わる熱に恐る恐るに目線を上げると、嬉しそうに笑うビルの姿が目に映る。
細められたエメラルドの瞳に見惚れる中、喜んでもらえた事に胸がジワリと温かくなった。

「ありがとうございます、大事に使わせていただきます」

彼の声に心地よさを感じる中、照れながらに笑みを返すと、突然に引き寄せられた。
胸の中へすっぽり収まると、彼は抱きしめるように腕を回す。
バクバクと心臓が激しく波打つ中、緊張で体を硬直させていると、彼の体がゆっくりと離れていった。

「すみません」

「あっ、いや、その、あわなければ言ってくれ。また別のを作るから……」

何とも言えない緊張感が漂う中、私は何とか声を絞り出すと、優しい瞳と視線が交わった。
その姿に、また熱が上がるのを感じると私は慌てて扉へと走る。
彼の顔が暗く見えない距離まで走り、そっと扉のノブを握ると私は徐に振り返った。

「婚約発表ではちゃんとダンスを踊れるようになるから、安心してくれ。それで、あの、またこうやって会いに来てもいいかな?」

「とても嬉しい申し出です、断る理由などありません」

その返事に嬉しくなると、私はありがとうと微笑んだ。


****************おまけ****************

******彼女が夜部屋へとやってきてプレゼントを渡したその後******

彼女が出て行った扉を見つめ、私は深くため息をついた。
危なかった、まったく無防備すぎるのも考えものですね。
あんな姿で夜、男の部屋にやって来るという意味を、彼女は理解しているのでしょうか?

私は深くソファーへと腰かけると、先程の彼女の姿が頭掠め、抱き締めていた感触が甦る。
先ほど抱きしめた時に見えた首筋の赤い花びらに、恥じらうその姿に、理性は切れる寸前だった。
あのまま彼女をベッドへと押し倒し、甘い声を響かせたい。
乱れる彼女の姿を想像すると、下半身が熱を持ち疼き始めた。
はぁ……もうどうしてくれるんですか。

今頃スヤスヤと寝息を立てているだろう彼女を思うと、やり切れない気持ちで頭を抱えていた。
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