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第四章
焦心苦慮
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それからステラとの魔法訓練を定期的に行いながらも、私は必死に探していた。
聖獣が言った意味をはっきりと理解したわけではない……だが私は必ずどこかであの女性と出会っている。
何の確証もないが……心がそう叫んでいる。
彼女が一体誰なのか、どこにいるか、それはまだわからないが……今まであった既視感や喪失感を感じる場所、人、物、状況を記録し、一つ一つ紐解いていく。
自分がどう感じたのか、何を考えたのか、それを文字にお越していくだけも、何かが進んでいるような気がした。
そんなある日、私はシモンから屋敷へ来いと呼び出しがかかると、街へと向かっていた。
公爵家のお屋敷へ行ったことが無い為、移転魔法は使えない。
そうして街へと繰り出すと、街の外れにあるシモンの屋敷へと足を進めて行った。
すると高級住居が並ぶ道中で、またあの既視感を感じると、私は立ち止まった。
じっとその風景を眺めていると、誰もいないはずの道に淡い桃色の瞳、ブロンドの髪をした少女の姿と男の姿が薄っすらと浮かび上がる。
少女が嫌がりながら男から逃げようとするその姿に、思わず手を伸ばすと、幻は跡形もなく消えていった。
先ほどの少女は……ステラ……?
そういえば初めて出会った時に言っていましたね。
私が彼女を救ったと……。
ここで……私は彼女を救ったのか……?
ならこれは自分の過去の記憶?
先ほど見た姿を必死に描くが……どうもしっくりとこない。
もし私がここへ来たのなら、一体何のために……?
それにステラの幼い様子を見る限り、私もまだ子供だったはず。
大の男相手に、幼い私が助けることなど、果たして出来たのだろうか。
様々な疑問が浮かぶ中、ふと街の中央に見える時計へと目を向けると、シモンと約束した時間が迫っていた。
私は慌てて足を動かすと、急ぎ足で公爵家の屋敷へと向かっていった。
ようやく屋敷へ到着すると、大きな門に手入れされた庭が目に映る。
その姿になぜか未視感を感じた。
貴族の御屋敷なのだから……手入れされていて当たり前な庭に……疑問を感じる。
呆然と庭を眺める中、屋敷の奥から屋敷の執事だろう男と、シモンがこちらへ向かって来ていた。
その姿に私は我に返ると、そのままシモンに連れられるように庭へ足を進めていく中、次は激しい既視感が私を襲う。
視界が小さく揺れ、入室した事などないはずの屋敷の見取り図が頭に浮かぶ。
裏側に井戸がありそこから中へ入る事が出来る……。
廊下には真っ赤な絨毯が引かれ、エントラスすぐには彫刻、左右に広がる螺旋の階段。
二階へ上れば、T字路に道が続いている。
自分の意志とは関係なく浮かび上がる記憶に狼狽する中、私はそれを必死に隠すと、シモンの後へついていった。
そうして屋敷の中に入ると、私が頭の中で描いた図そのものに、口を開いたままに固まった。
どうして……、これは……私はここへ来たことがあるのか……。
だが一体いつ……、なぜ……?
「どうしたんだ、魔導師エヴァン?」
「いえ、何でもありません」
突然立ち止まった私の様子に、シモンが訝し気な視線を浮かべると、私は慌てて足を進める。
そのまま応接室へ通されると、メイドがお茶の準備を始めていった。
案内されるがままにソファーへ腰かけると、向かいにシモンがドサッと座る。
大きなテーブルにセッティングが終わると、先ほど居た執事に続き、メイドが部屋の外へと出て行った。
シモンと二人っきりになった部屋に沈黙が流れる中、彼の大きなため息が耳に届く。
「はぁ……今日は突然呼び出して悪いな。呼び出したのは他でもない、ステラの事だ。エヴァン殿……君はステラと婚約する気はあるか?」
単刀直入な問いかけに私は真っすぐに顔を上げると、シモンの藍色の瞳を見つめ返す。
「申し訳ございませんが、私は婚約者を作るつもりはございません。……まだ未熟者ですから」
そう答えると、シモンはスッと目を細め、鋭い瞳を私へ向けた。
「それは……未熟者でなくなれば、婚約するという意味か?」
「そうですね……いずれは。ですがお相手はステラお嬢様ではございません。彼女にはもっとふさわしい方がおられるはずです」
そうやんわりと返答すると、シモンは気に入らないとばかりに顔を顰めた。
「そんな謙遜した言葉はいらない。はっきりと聞きたいんだ。君はステラが好きか?」
その言葉に私は口を閉ざすと、シーンと部屋が静まり返る。
「大丈夫だ、……答えろ」
その言葉にゴクリと唾を飲み込むと、そっと口を開いた。
「正直に申し上げますと……、私は彼女をそういった対象で見た事も、また見ることもありません」
そうはっきり言葉にすると、シモンは徐にソファーから立ち上がった。
「わかった。だが……君も知っているだろう。城内では、君とステラの婚約が噂されている。君は平民、ステラは公爵家。もし俺がステラと婚約するよう、正式に願い出たらどうするつもりだ?」
気持ちが無いと知った上で、そう話すシモンの言葉に私は押し黙った。
城内でも私がステラお嬢様と婚約すると噂が流れるとは知っていたが……まさかここまで話が進むとは考えてもいませんでした。
なぜなら私は魔導師ではあるが……所詮平民。
貴族と婚約話が正式に持ち上がること自体あり得ない、そう思っていました。
お互い気持ちがあれば別ですが……私には気持ちはない。
……彼女が傍居ると……いつも別の誰かの姿が頭をよぎる。
自分の隣にいるべき人間は彼女ではないと……心が強く否定する。
「君にも悪い話じゃないだろう。平民から貴族になれるんだ。こちらとしても君が平民であろうが、王宮魔導師という役職は大きい」
「婚約の申し入れがあれば……平民の私には断ることは出来ないでしょう。ですが……私には彼女を愛することはできません。これからも、愛することはないでしょう。申し訳ございません」
そう頭を下げると、シモンから大きなため息がもれた。
「……そこまではっきりと言い切る理由は何だ。女嫌いの君に、まさか大切な女性でもいるのか?」
その言葉に脳裏には誰かもわからない女性の姿が頭を掠めると、私は無意識に頷いていた。
そんな私の様子にシモンは大きく息を吐きだすと、何も言うことなく、私を置いたままに部屋を去っていく。
その姿を只々眺める中、私はそっと立ち上がると、用意されたお茶に手を付ける事なく、一人王宮へと戻っていった。
聖獣が言った意味をはっきりと理解したわけではない……だが私は必ずどこかであの女性と出会っている。
何の確証もないが……心がそう叫んでいる。
彼女が一体誰なのか、どこにいるか、それはまだわからないが……今まであった既視感や喪失感を感じる場所、人、物、状況を記録し、一つ一つ紐解いていく。
自分がどう感じたのか、何を考えたのか、それを文字にお越していくだけも、何かが進んでいるような気がした。
そんなある日、私はシモンから屋敷へ来いと呼び出しがかかると、街へと向かっていた。
公爵家のお屋敷へ行ったことが無い為、移転魔法は使えない。
そうして街へと繰り出すと、街の外れにあるシモンの屋敷へと足を進めて行った。
すると高級住居が並ぶ道中で、またあの既視感を感じると、私は立ち止まった。
じっとその風景を眺めていると、誰もいないはずの道に淡い桃色の瞳、ブロンドの髪をした少女の姿と男の姿が薄っすらと浮かび上がる。
少女が嫌がりながら男から逃げようとするその姿に、思わず手を伸ばすと、幻は跡形もなく消えていった。
先ほどの少女は……ステラ……?
そういえば初めて出会った時に言っていましたね。
私が彼女を救ったと……。
ここで……私は彼女を救ったのか……?
ならこれは自分の過去の記憶?
先ほど見た姿を必死に描くが……どうもしっくりとこない。
もし私がここへ来たのなら、一体何のために……?
それにステラの幼い様子を見る限り、私もまだ子供だったはず。
大の男相手に、幼い私が助けることなど、果たして出来たのだろうか。
様々な疑問が浮かぶ中、ふと街の中央に見える時計へと目を向けると、シモンと約束した時間が迫っていた。
私は慌てて足を動かすと、急ぎ足で公爵家の屋敷へと向かっていった。
ようやく屋敷へ到着すると、大きな門に手入れされた庭が目に映る。
その姿になぜか未視感を感じた。
貴族の御屋敷なのだから……手入れされていて当たり前な庭に……疑問を感じる。
呆然と庭を眺める中、屋敷の奥から屋敷の執事だろう男と、シモンがこちらへ向かって来ていた。
その姿に私は我に返ると、そのままシモンに連れられるように庭へ足を進めていく中、次は激しい既視感が私を襲う。
視界が小さく揺れ、入室した事などないはずの屋敷の見取り図が頭に浮かぶ。
裏側に井戸がありそこから中へ入る事が出来る……。
廊下には真っ赤な絨毯が引かれ、エントラスすぐには彫刻、左右に広がる螺旋の階段。
二階へ上れば、T字路に道が続いている。
自分の意志とは関係なく浮かび上がる記憶に狼狽する中、私はそれを必死に隠すと、シモンの後へついていった。
そうして屋敷の中に入ると、私が頭の中で描いた図そのものに、口を開いたままに固まった。
どうして……、これは……私はここへ来たことがあるのか……。
だが一体いつ……、なぜ……?
「どうしたんだ、魔導師エヴァン?」
「いえ、何でもありません」
突然立ち止まった私の様子に、シモンが訝し気な視線を浮かべると、私は慌てて足を進める。
そのまま応接室へ通されると、メイドがお茶の準備を始めていった。
案内されるがままにソファーへ腰かけると、向かいにシモンがドサッと座る。
大きなテーブルにセッティングが終わると、先ほど居た執事に続き、メイドが部屋の外へと出て行った。
シモンと二人っきりになった部屋に沈黙が流れる中、彼の大きなため息が耳に届く。
「はぁ……今日は突然呼び出して悪いな。呼び出したのは他でもない、ステラの事だ。エヴァン殿……君はステラと婚約する気はあるか?」
単刀直入な問いかけに私は真っすぐに顔を上げると、シモンの藍色の瞳を見つめ返す。
「申し訳ございませんが、私は婚約者を作るつもりはございません。……まだ未熟者ですから」
そう答えると、シモンはスッと目を細め、鋭い瞳を私へ向けた。
「それは……未熟者でなくなれば、婚約するという意味か?」
「そうですね……いずれは。ですがお相手はステラお嬢様ではございません。彼女にはもっとふさわしい方がおられるはずです」
そうやんわりと返答すると、シモンは気に入らないとばかりに顔を顰めた。
「そんな謙遜した言葉はいらない。はっきりと聞きたいんだ。君はステラが好きか?」
その言葉に私は口を閉ざすと、シーンと部屋が静まり返る。
「大丈夫だ、……答えろ」
その言葉にゴクリと唾を飲み込むと、そっと口を開いた。
「正直に申し上げますと……、私は彼女をそういった対象で見た事も、また見ることもありません」
そうはっきり言葉にすると、シモンは徐にソファーから立ち上がった。
「わかった。だが……君も知っているだろう。城内では、君とステラの婚約が噂されている。君は平民、ステラは公爵家。もし俺がステラと婚約するよう、正式に願い出たらどうするつもりだ?」
気持ちが無いと知った上で、そう話すシモンの言葉に私は押し黙った。
城内でも私がステラお嬢様と婚約すると噂が流れるとは知っていたが……まさかここまで話が進むとは考えてもいませんでした。
なぜなら私は魔導師ではあるが……所詮平民。
貴族と婚約話が正式に持ち上がること自体あり得ない、そう思っていました。
お互い気持ちがあれば別ですが……私には気持ちはない。
……彼女が傍居ると……いつも別の誰かの姿が頭をよぎる。
自分の隣にいるべき人間は彼女ではないと……心が強く否定する。
「君にも悪い話じゃないだろう。平民から貴族になれるんだ。こちらとしても君が平民であろうが、王宮魔導師という役職は大きい」
「婚約の申し入れがあれば……平民の私には断ることは出来ないでしょう。ですが……私には彼女を愛することはできません。これからも、愛することはないでしょう。申し訳ございません」
そう頭を下げると、シモンから大きなため息がもれた。
「……そこまではっきりと言い切る理由は何だ。女嫌いの君に、まさか大切な女性でもいるのか?」
その言葉に脳裏には誰かもわからない女性の姿が頭を掠めると、私は無意識に頷いていた。
そんな私の様子にシモンは大きく息を吐きだすと、何も言うことなく、私を置いたままに部屋を去っていく。
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