[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

閑話:その頃彼は・後編

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誰だろうこの人。
顔をよく見ようと目線を上げてみると、映ったのは40代ぐらいだろうか……渋い雰囲気をした男がニタリと笑みを浮かべていた。

「なっ……何でしょうか……?」

「いやいや、不躾にすまないね。こんな高い席を3枚も買うからビックリしたんだ。一つは君のだとして……後の2枚は誰の物なんだい?」

「へぇっ!?」

誰の物って……カミールさんと、お姉さんの……でも追われる身、隠さないと……。
でもなんて答えればいいのだろうか……。
今まで奴隷として育ってきた僕には、咄嗟にいい案など思いつかない。

「そっ、その……えーと……」

うんうんと頭を悩ませながらに戸惑っていると、男はゆっくり腕を持ち上げた。

「家族と一緒に旅行か何かな~?それとも……」

「あっ、そうなんです。家族に頼まれて……」

そう必死に誤魔化してみると、男は笑みを深めていく。
その笑みに毛が一気に逆なでする感覚に一歩後ずさる中、男は足元を指さしてみせた。

「君……尻尾が見えているよ」

その言葉にハッと顔を上げると、僕は慌てて後ろを振り返った。
しかしそこにはなく、尻尾はちゃんとローブの中へ隠れている。
その一瞬のすきに、男はフードを持ち上げると、眩しさに目が眩んだ。

「ははっやっぱり、君……カミールのところの獣人だな~」

男はそうぼそりと話すと、素早い動きで懐から短剣を取り出した。
まずい……ッッ。
僕は慌てて男の手を振り払うと、おじさんが用意し終わったチケットを奪い取る。

「ありがとう、おじさん。もらっていくよ」

そのまま一気に地面を蹴り上げた瞬間、遣い魔だろう野犬のような獣が僕へと飛び掛かってくる。
僕は獣を振り払うように、腕を大きく振り回す。
そのまま地面へと叩きつけると、低い唸り声がこだました。
襲ってくる獣を一匹ずつ倒していくと、全力で裏路地へと走り抜ける。

そうして何とか獣から逃れた身を隠すように一息ついていると、また遣い魔の臭いを感じた。
すると休む間もなく突然目の前に現れた獣が僕へと襲い掛かった。
咄嗟の事に判断が遅れ、ローブへと噛み付かれる。
足止めされることに焦る中、食らいつく獣に気を取られていると、ガブリッとどこからともなく現れた別の獣が僕の腕へと噛み付いた。

「……っっ、離れろ!!!」

痛みを耐えるよう顔を歪める中、そのまま犬を地面へ打ち付けると、鋭い牙が肉へと食い込んでいく。
牙の隙間から血が腕に伝っていく中、獣を思いっきりに蹴り飛ばすと、悲鳴を上げながらに腕から離れていった。
新たな気配を後方に感じ慌てて振り返ると、そこには先ほど撒いたはずの男がほくそ笑みながらに佇んでいる。

「悪いなぁ~そのチケット渡しちゃぁくれねぇか?」

その声に薄気味悪い男を睨みつけると、そのまま飛び掛かる。
男の胸倉をつかみそのまま地面へ振り下ろした刹那、懐からキラリと光るナイフが視界に映った。
その光に男の体を突き飛ばしながらに、大きくジャンプしてみせると、拳を持ち上げ、そのまま真下にいる男へと振り下ろす。
すると男は僕の拳を軽々と避けると、また新たな遣い魔を召喚した。

「さすが、獣人。素晴らしい身体能力だね。だが……戦いなれてはいないようだ。まぁそれもしょうがない。君はつい先日まで小さな子供だったんだからなぁ~」

男は軽やかなステップで身をひるがえすと、持っていた短剣を僕の頭上めがけて振り下ろす。
その姿に僕は慌てて後ろへ飛び退くと、そこには遣い魔が待っていた。
そのまま背中を思いっきりに噛みつかれると、激しい痛みにグラリと視界が歪んでいく。
痛みにそのまま膝をつくと、僕の周りを囲うように、遣い魔が集まってきていた。

「動くなよ、小僧。さぁ~さっさとそのチケットを渡してもらおうか。あの魔法使いをこの街から出すわけにはいかないんだ。チケットを渡したところで、ここまでたどり着けるとは思えないが……まぁ念の為だ」

痛い……このままじゃ、まずい……。
ここでチケットを奪われてしまえば……、お姉さんが行きたいと望んでいる壁へ行くことは出来ない。
背中に牙が食い込む中、生暖かい血が背を伝っていく。
倒すのは無理……でも逃げる事なら……。
全力で走れば……振り切れる……。
前はダメだ……、傷を負っている自分には不利。
この男へ勝負を仕掛けても、今の僕には勝てない。
後ろも厳しい……獣の臭いが充満している。
なら……逃げる道は……。
僕は痛みを堪えながらに、必死に脚へ力を入れると、男を強く睨みつけた。

「さすが獣、威嚇する目は怖いな。だがお前はもう……ここから逃げられない」

男はさらに獣を召喚すると、僕へ向かって放った。
その瞬間、僕は強く地面を蹴り上げると、獣たちを薙ぎ払いながらに大きく飛躍する。
そうして壁を蹴り上げ、建物を登りきってみせると、全力疾走で二人が待つ家へと駆けだしていった。
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