[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章8:とある密会(その後)

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セドリックが消え、部屋に取り残されると、沈黙が二人を包みこむ。
気まずい空気が流れる中、チラッとカミールへ視線を向けてみると、不機嫌な様子で脚を組みソファーへ深く腰掛けていた。

「はぁ……、どうしてわざわざ……ノエルの事を聞いたんだ?お前には関係ない事だろう。わざわざ北の国から来たという情報までしゃべって、お前は一体何が目的なんだ?」

「えっ……それは……っっ」

なんて答えようかしら……。
あなたの隠している事を知りたかったから、とは言えないわよね。
でもノエルという人物は……私と同じ魔法使い。
カミールが隠している事はともかく、西の国にいる私以外の魔法使いには会ってみたい。
もしかしたら……壁に関する何かがわかるかもしれないし。

そんな事をつらつら考えながらに、またもシーンと静まり返る中、突然に窓から大きな音が響き渡った。

バリーンッ、ガシャ、バリバリッ

ガラスの割れる音に、咄嗟に防御魔法を張り、身を屈めながらに警戒すると、恐る恐るに窓へと視線を向ける。
するとそこには……なぜかローブ破れ、傷だらけになったシナンの姿が浮かび上がった。

「シッ、シナン、どうしたの!?」

シナンの様子に急いで駆け寄ると、ところどころに傷が浮かび、腕から血が流れ、ローブがビリビリに破れている。
背中には何かに噛みつかれたのだろうか……牙が刺さったような痛々しい傷が目に飛び込んできた。
肉がえぐられひどい出血に、私はすぐに魔力を指先へ集めると、シナンの体へ優しく触れていく。
子供の時とは違う大きな背中へ魔力を流す中、ふと視線を落とすと、赤い血があちらこちらに飛び散っていた。

「はぁ、はぁ、……ッッ、お姉さん、僕は大丈夫だよ。獣人はね、人と違って丈夫なんだ。こんな傷、すぐに治るよ」

そうシナンは笑みを浮かべて見せるが……傷口からは血がとまっていない。
致命傷はないようだけど……どうしてこんなにボロボロに……?
外で一体何があったの……?
私は応急処置として魔法で傷口を塞いでいく中、シナンは徐に体を起こすと、カミールへと顔を向けた。

「カミールさんごめんなさい、頼まれていた物は買えたんだけど……見つかちゃった……」

「あなた、シナンに何を頼んだのよ!!!」

怒鳴りながらにカミールへ振り返ると、彼は怠惰にソファーから立ち上がる。
そんな彼の様子に、シナンは腕を押さえながらに顔を上げると、懐からチケットのような物を取り出して掲げてみせた。

「十分だシナン、よくやった。すぐにここを出るぞ。ここもじきに突破されるだろう……時間はない」

シナンはカミールの言葉に素直に頷くと、ボロボロになったローブを脱ぎ捨てた。
そうしてゆっくりと立ち上がる姿に、私は慌ててシナンを止める。

「シナンだめよ、まだ傷がふさがっていないわ……っっ」

「大丈夫。お姉さん逃げよう、ここは危ないんだ」

この状況に全くついていけない私とは違い、何かを察している二人の様子に、苛立ちを感じる。
なんで危ないのよ。
どうして二人はこの状況についていけているのよ!!!
私は……何も知らないわ、わからない……っっ。

「ちょっと何なの二人して!?ちゃんと私にもわかるように説明して!」

そう叫んだ瞬間、外から大きな爆発音が耳に届く。
慌てて振り返ると、視界に映り込んだのは、スリッド状の紅の瞳をした獣が地面へ打ち付けられていた。
あの獣……カミールの遣い魔に似ている……でもどうして外に……。

「うるさい、説明は後だ。船のチケットを買った事で、奴らが焦り始めた。さっさとここから出ないと、捕まるぜ」

捕まる?
一体誰に……?
どうして襲われなきゃならないのよ……。
聞きたいことはたくさんあるが……外からはカキンッ、カキンと戦闘しているのだろう音が近づいてくる。

「待って!!!ここを出ればいいのね。出たらちゃんと教えてくれるの?」

叫びながらにカミールへ真っすぐに視線を向けると、彼は呆れた様子で頷いた。

「わかった、わかった。ほら、さっさといくぞ。俺がまず外に出て……囮にな……おいッ!」

カミールの言葉を遮るように、私は強く彼の腕を引き寄せると、玄関へ向かおうとする彼を引き戻していく。

「囮になる必要はないわ、ここから逃げればいいんでしょう。シナンもこっちへ来て!」

私は空いている手でシナンの腕を捕らえると、すぐに魔力を身にまとっていった。
今の魔力なら、3人ぐらい余裕だわ。
後は場所……確かさっきカミールが船のチケットと話していたわ。
と言う事は船へ乗って壁の傍へ行こうとしている……?
ならとりあえず海辺へ行けばいいかしらね。
船がどこから出るのかは知らないけれど、海なら訪れた事があるわ。
一度ギルドの依頼で訪れたあの海……。

私は深く息を吸い込むと、瞳を閉じながら、脳裏に海辺までの道筋を思い描いていく。
ここから……そう……歩きなれた路地裏を進んで、大通りへ……。
そこからギルドとは反対の方へ行って、宿舎の横道へ入り込む……。
そこを進んでいけば……。
次第に鮮明になる風景に、辺りに光が溢れだしていく。
あの時感じた塩の香りをイメージしながらに、ゆっくりと瞳を持ち上げると、私は集めた魔力を一気に放出した。
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