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第二章
夜会:後編1
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ざわめく会場の中、アーサーは一人壇上の前に出ると、辺りはシーンと静まり返る。
ピリピリとした空気が漂う中、アーサーは深く息を吸うと、ゆっくりと顔を上げた。
「皆の者、良く集まってくれた。私はまだ王の代理としてこの場に居るが、時期に私がこの国の王になる。それを理解した上で、夜会を楽しむように」
静かな口調だが、どこか威圧感のある言葉に会場の空気が凍り付いた。
アーサーはゆっくりと会場内を見渡す中、私の視線と彼の視線が重なった。
いつも隣で見ていた彼ではなく、知らない人のように思える彼の様子に……彼から視線を反らせることが出来ない。
アーサーはそんな私の様子に小さく口角を上げると、静かに壇上を後にした。
アーサーの姿がなくなると、会場内が一気に騒がしくなる。
人々が浮足立ち、会場内を移動していく中、私はどうすればいいのかわからぬまま、静かに女性の輪の中から抜け出すと、一人壁際へと避難していた。
人が多すぎよ……。
それにこの雰囲気苦手だわ……。
人込みから抜けられた事に胸をなでおろす中、ふと目の前に街であった少年の姿が見えた。
少年は一輪のバラを片手に私の元へやって来ると、私をじっと見上げる。
目を反らすことも動くこともない少年の様子に、私はぎこちなく笑みを浮かべると、ニッコリと微笑みかけた。
「久しぶりね。背中の傷はもう大丈夫なのかしら?」
「はっ、はい、あの……お姉さんが治療してくれたおかげで、傷跡も残っていません。それよりも……あのこれ!」
少年は顔を真っ赤にすると、勢いよく私の前にバラを差し出した。
よく見るとそのバラは小刻みに震え、彼が緊張しているのだとわかる。
そんな少年の姿に微笑ましくなると、私はそっとバラへ手を伸ばした。
「待ちなさい。そのバラを受け取ってはいけません」
バラに触れた瞬間、私と少年の間に腕が割り込んでくると、バラを掴もうとしていた手が強く握りしめられる。
そのまま引き寄せられると、目の前には不機嫌な様子をしたエヴァンがいた。
「えっ、……どうしてかしら……?」
「それを受け取れば、婚約する意思があるという事ですよ。あなたはこの少年を夫にする気があるのですか?」
不機嫌なままに話すエヴァンの様子に、ビクッと体が跳ねる中、私は恐る恐る少年へ視線を向ける。
いやいや……結婚って……。
彼12歳って言っていたし……危うく犯罪者になるところだったわ……。
少年はバラから私の手が離れた事にシュンとした様子を見せると、私の胸が小さく痛む。
いやいや……ここで優しくするよりも、はっきりと断ってあげた方が彼の為よね……。
そっと少年へ視線をあわせるようにしゃがみ込むと、彼のブラウンの髪を優しく撫でた。
「ごめんね。私はあなたとは結婚出来ないわ……だからそのバラを受け取ることも出来ないの」
真剣な眼差しで話すと、少年は顔クシャクシャにし今にも泣きそうな様子を見せる。
「えっと、泣かないで……私みたいなおばさんより、きっとあなたに似合う人がいると思うわ」
「っっ……おばさん……?お姉さんは、そんなに僕と年は違わないでしょ?」
そっか……ここの世界では若く見えるんだったわね……。
「なんだかよく若く見られるんだけどね、私はこれでも22歳よ。立派な行き遅れ。ふふっ」
そう笑みを浮かべると少年は信じられないと言わんばかりに、大きく目を見開き固まった。
そんな少年の様子に小さく笑っていると、ふとエヴァンの腕が私の腰へと回される。
驚き顔を上げると、エヴァンはなぜか眉間に皺をよせながら、じっと少年を見据えていた。
少年は目を何度も強くこすると深く礼をし、バラを握りしめたままどこかへ走り去っていった。
人込みに紛れていく少年の背中を呆然と見つめる中、腰を抱く腕が強くなる。
そんな彼の様子に顔を上げると、何かに苦しむように顔を歪めるエヴァンと視線が重なった。
「どっ、どうしたの?どこか痛いのかしら?」
そう問いかけてみると、エヴァンはスッと表情を戻し、いつもの笑みを浮かべる。
何でもありませんと突き放す様な言葉に、これ以上何も聞けなくなると、私は唇を閉じた。
どうしたのかしら……何だかとても苦しそうだったわ……。
そのままエヴァンと並んで歩いていると、ふと視線の先にセーフィロの姿が映った。
あっ……今なら聞けるかもしれないわ。
そう思い足を向けようとしてみると……セーフィロは豪華なドレスを身に着けた女性たちに囲まれてた。
断るわけでも、プレゼントを渡す様子もない彼の周りから、女性が散る気配はない。
うぅ……無理よ……あの中に突撃なんて……自殺行為だわ……。
私は小さく息を吐きだすと、肩を下す中、前からアーサーが私の傍へとやってきた。
「何だなんだ、どうしてそんな白けた面をしてるんだ」
アーサーはクイッと私の顎を持ち上げると、彼のニヤリとした表情がドアップで映し出される。
私は咄嗟に跳ね除けようと腕を持ち上げると、ふと彼の琥珀色の瞳が不自然に揺れていた。
いつもの自信満々の強気な瞳でなく、どこか力ない彼の様子に、持ち上げた腕を静かに下す。
「何だ、跳ね除けないのか?」
意地悪そうに笑みを浮かべる彼に、ニッコリ笑みを浮かべると、彼の頭へと手を伸ばす。
そのまま彼の髪を優しく撫でてみると、彼の顔は真っ赤に染まっていった。
そんな姿が少年の様に可愛くて私は思わず笑みをこぼすと、彼は怒った様子でそっぽを向いた。
ピリピリとした空気が漂う中、アーサーは深く息を吸うと、ゆっくりと顔を上げた。
「皆の者、良く集まってくれた。私はまだ王の代理としてこの場に居るが、時期に私がこの国の王になる。それを理解した上で、夜会を楽しむように」
静かな口調だが、どこか威圧感のある言葉に会場の空気が凍り付いた。
アーサーはゆっくりと会場内を見渡す中、私の視線と彼の視線が重なった。
いつも隣で見ていた彼ではなく、知らない人のように思える彼の様子に……彼から視線を反らせることが出来ない。
アーサーはそんな私の様子に小さく口角を上げると、静かに壇上を後にした。
アーサーの姿がなくなると、会場内が一気に騒がしくなる。
人々が浮足立ち、会場内を移動していく中、私はどうすればいいのかわからぬまま、静かに女性の輪の中から抜け出すと、一人壁際へと避難していた。
人が多すぎよ……。
それにこの雰囲気苦手だわ……。
人込みから抜けられた事に胸をなでおろす中、ふと目の前に街であった少年の姿が見えた。
少年は一輪のバラを片手に私の元へやって来ると、私をじっと見上げる。
目を反らすことも動くこともない少年の様子に、私はぎこちなく笑みを浮かべると、ニッコリと微笑みかけた。
「久しぶりね。背中の傷はもう大丈夫なのかしら?」
「はっ、はい、あの……お姉さんが治療してくれたおかげで、傷跡も残っていません。それよりも……あのこれ!」
少年は顔を真っ赤にすると、勢いよく私の前にバラを差し出した。
よく見るとそのバラは小刻みに震え、彼が緊張しているのだとわかる。
そんな少年の姿に微笑ましくなると、私はそっとバラへ手を伸ばした。
「待ちなさい。そのバラを受け取ってはいけません」
バラに触れた瞬間、私と少年の間に腕が割り込んでくると、バラを掴もうとしていた手が強く握りしめられる。
そのまま引き寄せられると、目の前には不機嫌な様子をしたエヴァンがいた。
「えっ、……どうしてかしら……?」
「それを受け取れば、婚約する意思があるという事ですよ。あなたはこの少年を夫にする気があるのですか?」
不機嫌なままに話すエヴァンの様子に、ビクッと体が跳ねる中、私は恐る恐る少年へ視線を向ける。
いやいや……結婚って……。
彼12歳って言っていたし……危うく犯罪者になるところだったわ……。
少年はバラから私の手が離れた事にシュンとした様子を見せると、私の胸が小さく痛む。
いやいや……ここで優しくするよりも、はっきりと断ってあげた方が彼の為よね……。
そっと少年へ視線をあわせるようにしゃがみ込むと、彼のブラウンの髪を優しく撫でた。
「ごめんね。私はあなたとは結婚出来ないわ……だからそのバラを受け取ることも出来ないの」
真剣な眼差しで話すと、少年は顔クシャクシャにし今にも泣きそうな様子を見せる。
「えっと、泣かないで……私みたいなおばさんより、きっとあなたに似合う人がいると思うわ」
「っっ……おばさん……?お姉さんは、そんなに僕と年は違わないでしょ?」
そっか……ここの世界では若く見えるんだったわね……。
「なんだかよく若く見られるんだけどね、私はこれでも22歳よ。立派な行き遅れ。ふふっ」
そう笑みを浮かべると少年は信じられないと言わんばかりに、大きく目を見開き固まった。
そんな少年の様子に小さく笑っていると、ふとエヴァンの腕が私の腰へと回される。
驚き顔を上げると、エヴァンはなぜか眉間に皺をよせながら、じっと少年を見据えていた。
少年は目を何度も強くこすると深く礼をし、バラを握りしめたままどこかへ走り去っていった。
人込みに紛れていく少年の背中を呆然と見つめる中、腰を抱く腕が強くなる。
そんな彼の様子に顔を上げると、何かに苦しむように顔を歪めるエヴァンと視線が重なった。
「どっ、どうしたの?どこか痛いのかしら?」
そう問いかけてみると、エヴァンはスッと表情を戻し、いつもの笑みを浮かべる。
何でもありませんと突き放す様な言葉に、これ以上何も聞けなくなると、私は唇を閉じた。
どうしたのかしら……何だかとても苦しそうだったわ……。
そのままエヴァンと並んで歩いていると、ふと視線の先にセーフィロの姿が映った。
あっ……今なら聞けるかもしれないわ。
そう思い足を向けようとしてみると……セーフィロは豪華なドレスを身に着けた女性たちに囲まれてた。
断るわけでも、プレゼントを渡す様子もない彼の周りから、女性が散る気配はない。
うぅ……無理よ……あの中に突撃なんて……自殺行為だわ……。
私は小さく息を吐きだすと、肩を下す中、前からアーサーが私の傍へとやってきた。
「何だなんだ、どうしてそんな白けた面をしてるんだ」
アーサーはクイッと私の顎を持ち上げると、彼のニヤリとした表情がドアップで映し出される。
私は咄嗟に跳ね除けようと腕を持ち上げると、ふと彼の琥珀色の瞳が不自然に揺れていた。
いつもの自信満々の強気な瞳でなく、どこか力ない彼の様子に、持ち上げた腕を静かに下す。
「何だ、跳ね除けないのか?」
意地悪そうに笑みを浮かべる彼に、ニッコリ笑みを浮かべると、彼の頭へと手を伸ばす。
そのまま彼の髪を優しく撫でてみると、彼の顔は真っ赤に染まっていった。
そんな姿が少年の様に可愛くて私は思わず笑みをこぼすと、彼は怒った様子でそっぽを向いた。
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