[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第三章

彼の旅路①(エヴァン視点)

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うん……?何か焦げ臭い……。

燃えている……、でも一体何が……?

生暖かい風が頬に触れ、徐々に意識が回復してくる中、ゆっくりと目を開けてみると、その先には民家が激しく燃え上がっていた。
黒煙が上がり、火花がパチパチと目の前を散っていくと、私はゆっくりと辺りへ目を向けていく。
ここは……、王都にある街の一角……。
私は彼女を追って……彼女の魔法に同調した……。
彼女はどこへ?
キョロキョロと辺りを見渡してみるが、彼女の姿はどこにもない。
改めて街の様子を覗う様に目を向けてみると、よく知る街の風景なのだが……なぜだかひどく荒んでいた。

あちらこちらから怒声が飛び交い、女の悲鳴が響きわたる。
酷く荒れた街の惨状に混乱する中、私は素早く身を隠した。
一体何が起こっているのでしょうか……。
昨今、街が荒れるほどの何かは、特になったはずですが。
昨日まではいつもと変わらない街並みだった……、一体どうしてこんなことに?
人目を避け、警戒しながら足を前に進めていくと、昔……私が飼われていた男娼館が視界に映った。
悲惨だった過去が蘇り、すぐに目を反らそうとした刹那……店の前には良く知るエメラルドの瞳をした幼い少年の姿が、視界を掠めた。

あれは……、まさか……!?
信じられない思いで、目を凝らし少年を姿を確認してみると、それは紛れもなく幼い頃の私だった。
目を大きく見開き固まる中、幼い私は父に連れられ、男娼館へ引き渡されていく。
懐かしい父の姿……まだ地獄を知らない澄んだ瞳をした自分。
私が男娼館に入ったのは……5歳の時……。
まさかここは……15年前の世界なのか……。
あの魔法は……時空移転魔法……?
いやだが……彼女はどうして時空移転魔法を知っているんだ?
もしかして……私は眠っていて、夢をみているのだろうか?
そう思い頬を強く引っ張ってみると、ヒリヒリとした痛みを感じる。
痛いという事は……これは夢ではない……。
彼女はどこかでこの魔法を知り、15年前に戻ったのか。

辿り着いた真実に狼狽する中、幼い私は男娼館の中へと連れられて行く。
ここがどこだかわからない様子で、抵抗することなく消えていく幼い姿に思わず一歩足を踏み出した。
しかし私はそこで動きを止めと……その姿はそのまま店の中へ消えて行く。
幼い私の姿が消えた男娼館の前には、父がばつの悪そうな顔をしながらも……手にはしっかりと銀貨が握りしめられていた。
私を置き去りに去っていく父の背中を眺める中、私は逃げる様にその場から立ち去った。

預けられたばかりの私は……父が迎えに来てくれると信じていた……愚かな自分。
誰かが助けてくれると信じていた純粋な心。
そのすべてが崩れ去り、壊れていく。
過去の出来事が走馬灯のようによみがえり胸に酷い痛みを感じる中、私はひたすらに走っていた。

そのまま街を抜け、ただっぴろい広場へとやってくると、そこに師匠の墓はない。
やはりここは過去の世界……。
そう実感する中、私は忍ばせていたシルバーのリングを握りしめると、リングから彼女の熱が伝わってくる。
彼女は間違いなく、この街のどこかにいる。
シルバーリングへ魔力を流し込んでみると、リングの一部が熱を持ち、彼女の居場所を知らせ始めた。
このまま手っ取り早く……彼女をここへ召喚してしまいましょうか……。
そう思い杖を取り出すと、土の上へ魔法陣を描いていった。
何度も何度も練習した魔法陣は、迷うことなく描くことが出来る。

書き終わり、中央に立ってみると、私は彼女の姿をはっきりと頭の中で描いていった。
触れたくなるような長い黒髪に、強い輝きを持つ漆黒の瞳。
美しく整った顔立ちに、私が用意した青いローブ。
そのままリングの位置を明確にイメージすると、魔力が一点に集まっていった。
十分な魔力が集まり、彼女の体を引き寄せるように手を伸ばしてみるが……なぜか彼女の姿を掴む事が出来ない。
何度も何度も手を伸ばしてみるが……彼女の姿は幻かのようにすり抜けてしまう。

どうして……居場所もわかり、彼女の姿もはっきりとイメージしているはずなのになぜ……?
もう一度リングの存在確認してみると、やはり彼女が着けているの事をはっきりと感じられる。
ダメですね……どうしても彼女を引き寄せる事が出来ない。
魔法陣が間違っているのでしょうか……いえそれは考えにくい。
そもそも魔法陣が間違っていれば、彼女の姿を映し出すことも出来ないはず。
では……私のイメージが明確ではないのでしょうか……。

いえ……それもあり得ない……。

何度も見てきた彼女の姿を忘れるはずがない。

初めて魔法を覚えた時の美しい笑みや、師匠の事を思い続ける強い瞳。

そして……最後に見た泣きそうな彼女の姿。

全て……鮮明に思い出すことが出来る。

様々な彼女の姿が頭に浮かぶ中、突然にリングからフワッと小さな黄色い光が浮かび上がると、震えた彼女の声が耳に届いた。

「っっ……、もぅ、やめてぇ……」

聞き逃してしまいそうなほどの小さな声に、私はハッと目を開けると、激しい突風が吹き荒れ、広場に砂が激しく俟っていく。
今の声は……。
私は急いでリングを握りしめると、迷うことなく移転魔法を使い、リングの元へと向かっていった。
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