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5章
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「お疲れでしょうから、お話の続きはまた明日にいたしましょう」
幻魔獣に抱き着きファアと欠伸をしたアルゼを見たラフが掌を上にして指し示す方向にも幕があり、クテニ族が二人で左右に開くとその奥には大きな寝台があった。
「白の番様と一緒にあちらでおやすみください」
今いる部屋と変わらぬほどの大きさの、提燈がいくつも置かれたそこは、アヌノクとは思えない大きさだった。
「従者の方も隣のアヌノクに寝台を用意してありますが、こちらに運ばせましょうか?」
存在を忘れていた千早が、最初に座らされたチクの上に座ったまま頭を左右に振っている。
--------俺なんかと一緒じゃ眠れないだろう。
ラフは気を利かせたつもりだったようだが、千早の表情で間違いに気づいたようだ。
クテニ族に連れられ出ていく千早を見送り、奥の寝台のあるほうへアルゼを抱き上げ進むと布を持ったクテニ族が4人近寄ってきた。
なんだ……?
何も言わず布が入った編篭を掲げるクテニ族をいぶかしんでいると「お召しかえをされますか?」と後ろからラフが声をかけてきた。
確かに。
俺が今着ているのは牢から脱出する時に千早が用意してくれた体形に合わない小さめの短袖の上下で、これで眠るには窮屈だ。
次に入ってきたクテニ族の手には湯気の上がった桶。
木の洞に隠していたアルゼも土まみれだ、有難く使わせてもらうことにしたが手伝いは断った。
残念そうなクテニ族たちは一言も発することなくしずしずと下がっていった。
最後に出ていくラフが幕を閉じながら
「警備は万全です。ごゆっくりお過ごしください」
初めて見た時と同じく優雅な所作で腰を曲げた。
色々なことがありすぎて精神も肉体もギリギリだった俺たちは、身を清め着替えを済ませるとすぐに眠りに落ち、翌朝遅くまで睡眠を貪っていた。
左わき腹に抱き着くアルゼがモゾリと動いたことで目が覚め、あたりを見回すとアヌノクの布越しに外が明るいことがわかる。と同時に昨日起きたことを思い出した。
牢屋からの脱走、鳶尾らの追跡、謎の集団クテニ族と俺とよく似たクウガ族の男ラフ--------
「う~ん…」
モゾモゾとずり上がりながら俺の顔を確かめニヘッと笑うアルゼが唇に口づけをしてくる。
昨夜用意された夜着はとても着心地が良かったがアルゼには少し大きかったようだ。
そのせいで肩がずり下がり、かわいらしいシケリの花びら色のものが見えてしまいそうであわてて掛け布でアルゼを覆う。
「お目覚めでございますか?」
幕の向こうからラフの声がする。
「足元の編篭に入れておりますご衣裳にお着換えください。着替え終えられましたら食事の用意が出来ておりますので、こちらへおいでください」
昨日のようなたくさんのクテニ族はいない。
着方がわからず手こずったが、俺に用意されていたものは見たこともない生地で出来た上下の黒色の衣装で、装飾は少なく動きやすく、俺の体にピッタリだ。
アルゼに用意されたものは夜着よりは体格に合っている、ゆったりとした移動式住居に使われているのと同じような真っ白の上下の衣装。
「こぇも、きもちいいね」
夜着を着るときにも半分寝ぼけながら布を触っては気持ちいいと言ってたの、ちゃんと覚えてるんだな。
寝台の部屋から出るとそこにはラフもクテニ族も誰もいないが、何人分だ?というほどのふんだんな料理が用意されていた。
暖炉の間で昨日のラフから聞いた信じられない話を考える。
用意された見たこともない食事を恐る恐る食べながら、「おいちい!」「おいちい、ない!」と騒ぐアルゼの隣にはいつの間にか千早も来ていて、アルゼが衣装にこぼした汁をせっせと拭いてやっていた。
幻魔獣に抱き着きファアと欠伸をしたアルゼを見たラフが掌を上にして指し示す方向にも幕があり、クテニ族が二人で左右に開くとその奥には大きな寝台があった。
「白の番様と一緒にあちらでおやすみください」
今いる部屋と変わらぬほどの大きさの、提燈がいくつも置かれたそこは、アヌノクとは思えない大きさだった。
「従者の方も隣のアヌノクに寝台を用意してありますが、こちらに運ばせましょうか?」
存在を忘れていた千早が、最初に座らされたチクの上に座ったまま頭を左右に振っている。
--------俺なんかと一緒じゃ眠れないだろう。
ラフは気を利かせたつもりだったようだが、千早の表情で間違いに気づいたようだ。
クテニ族に連れられ出ていく千早を見送り、奥の寝台のあるほうへアルゼを抱き上げ進むと布を持ったクテニ族が4人近寄ってきた。
なんだ……?
何も言わず布が入った編篭を掲げるクテニ族をいぶかしんでいると「お召しかえをされますか?」と後ろからラフが声をかけてきた。
確かに。
俺が今着ているのは牢から脱出する時に千早が用意してくれた体形に合わない小さめの短袖の上下で、これで眠るには窮屈だ。
次に入ってきたクテニ族の手には湯気の上がった桶。
木の洞に隠していたアルゼも土まみれだ、有難く使わせてもらうことにしたが手伝いは断った。
残念そうなクテニ族たちは一言も発することなくしずしずと下がっていった。
最後に出ていくラフが幕を閉じながら
「警備は万全です。ごゆっくりお過ごしください」
初めて見た時と同じく優雅な所作で腰を曲げた。
色々なことがありすぎて精神も肉体もギリギリだった俺たちは、身を清め着替えを済ませるとすぐに眠りに落ち、翌朝遅くまで睡眠を貪っていた。
左わき腹に抱き着くアルゼがモゾリと動いたことで目が覚め、あたりを見回すとアヌノクの布越しに外が明るいことがわかる。と同時に昨日起きたことを思い出した。
牢屋からの脱走、鳶尾らの追跡、謎の集団クテニ族と俺とよく似たクウガ族の男ラフ--------
「う~ん…」
モゾモゾとずり上がりながら俺の顔を確かめニヘッと笑うアルゼが唇に口づけをしてくる。
昨夜用意された夜着はとても着心地が良かったがアルゼには少し大きかったようだ。
そのせいで肩がずり下がり、かわいらしいシケリの花びら色のものが見えてしまいそうであわてて掛け布でアルゼを覆う。
「お目覚めでございますか?」
幕の向こうからラフの声がする。
「足元の編篭に入れておりますご衣裳にお着換えください。着替え終えられましたら食事の用意が出来ておりますので、こちらへおいでください」
昨日のようなたくさんのクテニ族はいない。
着方がわからず手こずったが、俺に用意されていたものは見たこともない生地で出来た上下の黒色の衣装で、装飾は少なく動きやすく、俺の体にピッタリだ。
アルゼに用意されたものは夜着よりは体格に合っている、ゆったりとした移動式住居に使われているのと同じような真っ白の上下の衣装。
「こぇも、きもちいいね」
夜着を着るときにも半分寝ぼけながら布を触っては気持ちいいと言ってたの、ちゃんと覚えてるんだな。
寝台の部屋から出るとそこにはラフもクテニ族も誰もいないが、何人分だ?というほどのふんだんな料理が用意されていた。
暖炉の間で昨日のラフから聞いた信じられない話を考える。
用意された見たこともない食事を恐る恐る食べながら、「おいちい!」「おいちい、ない!」と騒ぐアルゼの隣にはいつの間にか千早も来ていて、アルゼが衣装にこぼした汁をせっせと拭いてやっていた。
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