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【第三章】異世界からの帰還と危機
八話 勇者ユタカは魔王様と共に?
しおりを挟む「おお、リスドォル!」
折角のリズ様の香りを堪能する間もなく、邪魔者が声をあげた。
感極まった様子のグリストミルがこちらに近付く。その目には、まるで俺なんか存在していないみたいだ。
「クフフフ、お前は魔物に堕ちようとも、その美しさも魔力もあの時と変わらないのですね。昔の事は水に流してあげますから、今度はちゃんと私の言うことを聞くんですよ?」
グリストミルは、まるで子供に言い聞かせるみたいにそう言った。
声は紳士のように穏やかなんだけど、言ってる事がヤバい。
そう思っているのは俺だけじゃないみたいで、リズ様はわざとらしい程に大きく息を吐いた。
「はぁ……いったい何を言っているのかサッパリわからぬが、気色悪いということだけはわかった。あと何回殺せば消滅するのか私が直々に試し、その存在を完全に消し去ってやろう」
凄い! リズ様が魔王っぽいこと言ってる!!!
なんて喜んでいる場合じゃない。
グリストミルはまだリズ様へ近付こうとする。
「ふふふ、私が魔獣としてお前に会った時に覚えていなかったから、そうやって拗ねているのですね……なんともいじらしい、んふふふふ」
全然話が通じてない。めっちゃ怖い。
リズ様の顔から表情が抜け落ちたみたいになってる。こっちも怖い。
「私はお前なぞ知らぬし、過去に何があったかも興味はない。だが、過去だろうと未来だろうと、私がお前を選ぶ事はないと確実に言える」
全然関係ない俺の背筋が凍りそうな程、淡々とした冷たい声。
でも、そう言いながら俺の腰にまわしたリズ様の手は温かい。
「お前が私を魔界に堕とし、魔物に変えたとレジャンデールから聞いた。だが、それにはむしろ感謝している。こうして最愛の伴侶と巡り逢えたのだからな」
リズ様に引き寄せられて半身が密着したことで、俺の鼓動が暴れ回る。
しかもグリストミルに見せ付けるように俺の頬にキスまでしましたね。
成仏しそう。
「リスドォル、悪戯が過ぎるのではありませんか?」
明らかに怒りを滲ませたグリストミルの声。
額からビキビキと音がしたと思ったら、角が増えた。
フーフーと息が荒くなり、さっきまでの紳士らしさはどこにもない。
そんなグリストミルを嘲笑うように、リズ様は俺の肩を抱いて、頬と頬が触れ合わんばかりに顔を近付ける。
イチャイチャを煽りに使うリズ様マジぱねぇっす。
「いくら神の力が残っていようと、所詮は魔獣。いずれ魔獣の本能に喰われるだろう」
「違う違う違う!! 私は神だ!!!」
長い髪を振り乱して頭を掻きむしるグリストミル。
しかし、俺は全く別の事を考えていた。
「リズ様もいつか魔物に飲まれるんですか?」
リズ様もいずれグリストミルのようになるのか気になった。
気になっただけでそれ以上の感情はないから、どんなリズ様でも愛しますけどね、と付け加えるとリズ様は笑った。
「私はあいつとは違うらしい。魔物の皮をかぶった神とでも言うべきか。呪いのようなものだから、表面上は魔物でも、本質が神である事実は変わっていないらしい」
だから凄い力を持っていたんですね。
リズ様自身も神だったことは覚えてないし、どんな理由でも神が一度堕ちてしまうと、神々の間でもその存在は抜け落ちるらしい。
レジィはリズ様の神時代の親友だったとかで、無意識に魔物となったリズ様と繋がりを持ち、少しずつ記憶が戻ったそうだ。
そして、ここに来る前にレジィが色々と教えてくれたのだという。
「グリストミルは理不尽に私を魔界へ堕とした罰として、完全に魔獣になった。だからあいつの本質はもう既に神ではない。今は死からの復活で封印されていた神の力が溢れているが、それもいずれ消滅する」
「そんなことはありません!! こんなに、こんなにも力が溢れているではありませんか!!」
そう叫んだグリストミルは、目が血走り、血管という血管が全身に浮き出ている。
確かに、神というよりは、圧倒的に化け物に近い。
リズ様は俺から離れ、マントを外して渡してきた。
「グリストミル。最期にお前の望みであった最強の魔王である私と拳を交えさせてやる」
黒いグローブまで装着してカッコイイですリズ様。
前回は毒殺でしたっけ? ステータス改変?
俺は見てないから知らないけど、デュラムがドン引きしながら話してくれたのを思い出す。
しかし、リズ様を守るのが俺の使命なのに、戦わせてしまっていいのだろうか。
「リズ様、俺がいるのにご自分で戦うんですか!?」
「お前はずっとこいつに劣勢だったではないか」
痛い事実を突きますね。
でもリズ様という最強の精神安定剤を得た今、俺は全く負ける気がしない。
「今ならリズ様に良いところを見せようとして最強になれます!」
「その力を常に発揮できれば良いのだがな」
そう言って俺には目もくれずリズ様は前へ歩み出る。
完全に戦闘態勢だ。
俺は完璧に空気となったので、大人しくその場から移動し、フランセーズの隣で体育座りをした。
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