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【本編】子豚と魔王
十二話 後日談
しおりを挟む「いいか、勇次。11時から21時の間は自由に来てもいいけど、それ以外の時間は入っちゃ駄目だからな。魔王もボクも朝はゆっくりしたい派なんだ」
今は9時だ。
先程、魔王との朝のイチャイチャ中に勇次が家に入ってきて、危うくエッチな雰囲気で絡み合っているのを見られる所だった。
さすがに寝室に入って来る事はなかったので大丈夫ではあったが、最近こういう事が続いている。
魔王はあまり気にしていないみたいだけど、ボクは気にする。
吹っ切れたとはいえ、想い人とボクが絡み合っている所なんて勇次も見たくないだろう。
だからボクはテーブルを囲みながら勇次にルールを提案した。
「はい! わかりました!」
元気に返事をする勇次に魔王が声をかける。
「勇者、暇ならお前が食事を作れ」
「任せて!」
慣れた手付きでキッチンを使う勇次と、ボクの隣に座ってあくびをする魔王。
勇次も一人暮らしで自炊をしていたらしく、料理が上手い。
手際よくパンを焼き、肉と卵を炒めてからパンの上にバターと一緒に乗せる。何度か食べたが、濃いめの味付けがパンとよく合う。
サラダと絞ったフルーツジュースもテーブルに持ってきてあっという間にブランチの完成だ。
カフェ飯って感じの、見た目も良い料理に勇次のモテる男の一端を感じる。
「はい先輩♡ 先輩のはお肉多めですよ! んで、魔王は目玉焼き追加な。コショウ増し増しで」
勇次はボクと魔王の好みまで把握してくれている。
三人でいただきますをしてから食べ始めるのも日常になりつつあった。
なんだかんだ、ほとんど三人暮らしみたいになって一週間。
引っ越してきた勇次は、どうやら日本の仕事も辞め、完全にこちらで暮らしているようだ。
そういえば、ボクの日本での扱いってどうなったんだろう。
魔王が目覚めてからすぐにこの家に来たけど、幸せ過ぎて元の世界の事を全く考えていなかった。
失踪している事になったのかな。
魔王の棺……もとい、魔王の死体を盗み出した大犯罪者になったかもしれない。
でも、勇次は俺のその後について特に触れていないのだから、ボクの存在自体がなくなった可能性もある。
「勇者よ、子豚ちゃんが日本での事が気になっているようだ。子豚ちゃんはどういう扱いになっている?」
ボクの心を読んだ魔王が勇次に聞いてくれた。
魔王はボクを見てニコリと笑う。ごめんねグルグル頭の中で考えてて。
勇次は何かを思い出したみたいに、ああ、と言ってから爆弾発言をした。
「先輩が実は魔王で、本来の器を取り戻して魔王が完全復活したって大騒ぎだ」
「はああぁ!?」
ボクは食事中という事も忘れて立ち上がって叫んでいた。
誰も食事マナーにうるさくないので咎められる事はないが、ボクは恥ずかしくなって静かに座る。
勇次がボクを見て、優しく微笑んでから続ける。
「先輩が金とコネを使って最後に魔王の棺に近付いた人物なのに、忽然と死体と共に消えたものだからとてもセンセーショナルな事件になりました。世界中のニュースに取り上げられてましたね」
「そ、その割には勇次は落ち着いてるんだな……」
「ニュースで先輩の顔を見た時には本当に感動しました。ようやく先輩の素晴らしさが世間に認められるんだって喜びで俺は打ち震えましたよ!」
本当に認められるのだろうか。
どうせまた、ない事全部ボクのせいになって、とんでもなく恐ろしい存在に仕立て上げられているだろう。
そう思ったが、勇次は嬉しいのか悲しいのかわからない、複雑な表情をした。
「先輩が魔王だと思った人間はクルッと態度を変えて、本当に先輩を褒め称えました。実は凄かったとか、実は優秀だったとか言い始めて滑稽でした」
「……勇次がそんな顔するなよ」
伏し目がちに口を引き結んだ勇次。
悔しさを滲ませているのがテーブルの上で握られた拳でもわかる。
「俺は無力だなって、その時思いましたよ。誰も俺の言葉を信じなかったのに世間は一変しました。先輩は自分の力で全てを覆しました。やっぱり先輩は凄い人なんです!」
すぐに勇次は明るい表情になった。
本当にボクの事を想ってくてれて嬉しくなる。
しかし、勇次はより笑みを深め、どちらかといえば怪しさの方が強くなった顔で言った。
「先輩の事を蔑んでいたやつらは恐怖に震えていました! 粗雑に扱っていた相手が魔王だったんですからね。最初に殺されるのは自分だって何人もの人間が怯えていたので、それが一番の収穫かもしれません!」
ねえ、魔王。勇次、ちょっと闇堕ちしてないかな?
魔王を見ると、小さく肩をすくめて笑っていた。
「勇者とて人間だからな。嫌気がさすことだってあるだろう」
「先輩が認められたので、俺は地球に未練がなくなり、仕事を辞めてここへ引っ越してきたという訳です。そもそも勇者なんて必要のない時代になりましたしね」
「そ、そうか……ありがとう、教えてくれて」
ボク、魔王ってことになっちゃったのか。
なんだか魔王に申し訳ないな。
ボクはただの人間で事実無根なのに。
「ふふ。子豚ちゃん、事実無根という事はないであろう」
「え?」
「子豚ちゃんが余の中に入り込んだ事で魔王が目覚めたというのは本当だし、余という器は誰のものでもなく、子豚ちゃんだけのものだ」
嬉しそうな魔王の顔を見ていたらマイナス思考も吹き飛んでしまった。
ボクは隣にいる魔王の手を握る。
「そうだね……魔王の伴侶になれば運命共同体と言ってもいいし」
「うむ。余の力は子豚ちゃんのためにある。事実、世界を握っているのは子豚ちゃんなのだ。地球を滅ぼしたければいつでも言うが良い」
魔王はボクの額に額をくっつけながら、内容に似つかわしくない優しい声で囁いた。
物騒だけど愛は伝わってくる。
味方がいるというだけで、ボクの心に大きな余裕が生まれているのを感じていた。
「ありがとう魔王。でも大丈夫。そんな事に時間を使うより、ボクは魔王とゆっくり過ごしたいよ」
「そうだな、人間のために余と子豚ちゃんの時間を減らすのは馬鹿馬鹿しい」
ボクと魔王は見つめ合い、二人の世界に入っていると、勇次がおずおずと声を掛けてきた。
「あ、あの……もしかして、俺って二人の時間を減らす邪魔者だったりする……?」
叱られた子供みたいな顔をした勇次がそんな事を言ったのだ。
きっとボクと魔王は間抜けな顔をしていたと思う。
「そんなこと考えたこともない」
「まったくだ。邪魔だと思っているならそもそも家に入れない。いくらお前が勇者でも完璧に排除するなぞ余には難しいことではない」
呆れたように言うボク達に、勇次はポカンと口を開いている。
もしかしたら、さっき来る時間を指定した事を気にしているのかもしれない。
「ボクは時間を考えてくれって言っただけで、来るな、なんて言ったことないだろ?」
「そうだ、別に余は子豚ちゃんと交わっている所を見られても気にしないが、子豚ちゃんは勇者に配慮しているのだ」
ボクが言いにくい事を魔王がそうハッキリ言うと、勇次はようやく理解したらしく顔を真っ赤にしていた。
「す、すみません……そうですよね、先輩と魔王、そういう関係ですもんね……か、考えが足りませんでした」
「お、思ったよりも純な反応だな勇次……」
もっと軽い感じで『あ、そうですよね~』で終わると思っていた。
職場で勇次が女に群がられている姿ばかり見ていたボクには、この初心な反応が理解できなかった。
そんなに照れるような話だっただろうか。
ボクが首を傾げていると、勇次が蚊の鳴くような声で呟いた。
「だって俺、前世も今も、そういう経験がないんで……」
「は!?」
嘘だろ!? 男も女も選り取り見取りな人生イージーモードのイケメンが!?
まさかの童貞!?
あまりの衝撃に固まっていると、魔王がボクの肩を叩いた。
「眠っている余で思いを遂げようとするようなヤツだぞ」
「そ、そうだった!」
「二人でこの地へ逃亡するという行動力はあるが、手の一つも握れない男だ」
魔王が真面目な顔で事実を突きつけると、勇次がどんどんテーブルに顔を伏せていく。
「だ、だって……俺、好きな相手としかそういう事したくないですし……初恋が魔王だから、どうしようもなくて」
「う、うん、そうだな……」
ピュアで奥手なのに、変な行動力だけはある優しく一直線な勇次。
いつかちゃんと幸せになって欲しいな。
……ボク達の子供になる以外の方向で。
そんな事を考えながら、ボクは勇次が落ち着くまで頭を撫でた。
いつの間にか眠ってしまった勇次を魔王がソファへ運び、膝枕をしてあげていたので、ボクはブランチの後片付けをする事にした。
起きた時の勇次の反応を想像するだけでも楽しくなり、足取りも軽く食器を水場に運んだのだった。
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子豚ちゃんが愛されててすごくあったかい気持ちになりました。
これからもなんの問題も起きずにただただ甘いラブラブな日常で子豚ちゃんには幸せになってもらいたいですね。アンバランスに見えても互いになくてはならない存在で支え合っていくはずです。
感想とても嬉しいです、本当にありがとうございます!