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第4章 棋士の立場
第68話 カラスが新たな女流棋士と戦ったら(その1)
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「七番勝負の勝ち越し、おめでとー」
この日の朝草将棋クラブでは通常の就業時間を繰り上げていた。「クロと鈴香を守る会」ら常連を中心とした面々で、ささやかながらもお祝いを開いていたからだ。
「ありがとうございます」
「クワーッ」
鈴香の前にはフルーツタルトが、クロの前にはカニカマとチーズが置かれている。
「クロ、いいよ」
鈴香の一言でクロが「カア」と鳴いて、カニカマをくわえた。
次はチーズ、その次はカニカマと次々に食べていく。
鈴香もタルトを口にした。
「おいしい!」
他の面々も料理を食べ始める。
鈴香や歩美ら子供がいるので、アルコールはなし。
それでも将棋を話題に場が盛り上がった。
「しっかし、浜島、蔦本、佐藤、そして女流トップを相手に4連勝とはねえ」
「ああ、内容も危なげないものが多かったし、クロがここまでやるとは」
「いやいや、A級の高村天地八段に勝ったんだから当然だろ」
そうなると七番勝負の残り3局に注目が集まる。
「次は水瀬石也九段、でもって壬生善元九段、最後は…」
皆が静まり返る。
「辻井孝太八冠、いや七冠か」
「3連勝できるかなあ」
「してもらいたい気もするし、してもらいたくない気もするし…」
この辺りは将棋ファンに共通する思いだ。
世にも珍しい将棋を指すカラスであるクロ。その快進撃を見てみたい気持ちは山ほどある。
その一方で人間がカラスに全く歯が立たないのは見たくない。
「さすがに辻井先生は負けないだろ」
「それと言うなら、壬生会長だってしぶといぞ」
「いや、水瀬九段のレーティングは辻井先生に次ぐ2位だぞ」
彼らの言葉通り、これからクロが対局する3人は間違いなく強豪だ。
「まあ、4勝3敗でも上々の結果だろ」
七番勝負に勝ち越しても、人間の強豪には敵わない。
その辺りが将棋ファンの落としどころだった。
ドンドンドンドン!
そんな時に入り口の方から扉を叩く音がした。
「うん?」
クラブの常連で、クロが棋士を対戦するきっかけとなったアマチュア強豪の佐倉が顔を向ける。
「ねえ、誰か遅れた人が来たんじゃないの?」
朝草将棋クラブの席主である大升に尋ねた。
大升は部屋を見回した。
「いや、予定していた人は全員来てるけど…」
ドンドンドンドン!
扉を叩く音は止まない。
「ちょっと見てくるよ」
大升はその場を離れた。
また場が盛り上がろうとしたところで、入口の方から何やら揉めていそうな声が聞こえた。
「いきなり来られても…」
「そこを何とか…」
「今日はお祝いですし」
「1局だけでも…」
「しかしねえ」
皆がそっちに耳を傾けていると、大升が一人の女性を連れて戻ってくる。
「あ!宙奈々実女流三段!」
歩美が立ち上がった。
これまで女性でプロ棋士になった人はいない。
しかし一歩手前である奨励会三段になった女性は3人いる。
1人が福岡葉菜女流五冠、もう1人が石川萌香女流三冠。
この2人と7番勝負でクロはリレー将棋となって対戦した。
そして3人目が宙奈々実女流三段。
三段リーグで何期も奮戦したものの、とうとう四段には届かなかった。
それでも少し前から女流棋士として活躍し始めている。
いろいろな女流棋戦で勝ち進んでおり、女流タイトル戦の番勝負に登場するのも間近だった。
「福岡と石川の女流2強を宙が崩すのは間違いない」
そんな将棋ファンの声もある。
宙は場の中央でカニカマをくわえたクロに近づくと、ピッと人差し指を伸ばす。
「クロ!私と対局して!」
そんな挑戦状を意に介することなく、クロはカニカマをおいしそうに食べる。
さらに「クワッ」とひと鳴きして、チーズをくわえた。
この日の朝草将棋クラブでは通常の就業時間を繰り上げていた。「クロと鈴香を守る会」ら常連を中心とした面々で、ささやかながらもお祝いを開いていたからだ。
「ありがとうございます」
「クワーッ」
鈴香の前にはフルーツタルトが、クロの前にはカニカマとチーズが置かれている。
「クロ、いいよ」
鈴香の一言でクロが「カア」と鳴いて、カニカマをくわえた。
次はチーズ、その次はカニカマと次々に食べていく。
鈴香もタルトを口にした。
「おいしい!」
他の面々も料理を食べ始める。
鈴香や歩美ら子供がいるので、アルコールはなし。
それでも将棋を話題に場が盛り上がった。
「しっかし、浜島、蔦本、佐藤、そして女流トップを相手に4連勝とはねえ」
「ああ、内容も危なげないものが多かったし、クロがここまでやるとは」
「いやいや、A級の高村天地八段に勝ったんだから当然だろ」
そうなると七番勝負の残り3局に注目が集まる。
「次は水瀬石也九段、でもって壬生善元九段、最後は…」
皆が静まり返る。
「辻井孝太八冠、いや七冠か」
「3連勝できるかなあ」
「してもらいたい気もするし、してもらいたくない気もするし…」
この辺りは将棋ファンに共通する思いだ。
世にも珍しい将棋を指すカラスであるクロ。その快進撃を見てみたい気持ちは山ほどある。
その一方で人間がカラスに全く歯が立たないのは見たくない。
「さすがに辻井先生は負けないだろ」
「それと言うなら、壬生会長だってしぶといぞ」
「いや、水瀬九段のレーティングは辻井先生に次ぐ2位だぞ」
彼らの言葉通り、これからクロが対局する3人は間違いなく強豪だ。
「まあ、4勝3敗でも上々の結果だろ」
七番勝負に勝ち越しても、人間の強豪には敵わない。
その辺りが将棋ファンの落としどころだった。
ドンドンドンドン!
そんな時に入り口の方から扉を叩く音がした。
「うん?」
クラブの常連で、クロが棋士を対戦するきっかけとなったアマチュア強豪の佐倉が顔を向ける。
「ねえ、誰か遅れた人が来たんじゃないの?」
朝草将棋クラブの席主である大升に尋ねた。
大升は部屋を見回した。
「いや、予定していた人は全員来てるけど…」
ドンドンドンドン!
扉を叩く音は止まない。
「ちょっと見てくるよ」
大升はその場を離れた。
また場が盛り上がろうとしたところで、入口の方から何やら揉めていそうな声が聞こえた。
「いきなり来られても…」
「そこを何とか…」
「今日はお祝いですし」
「1局だけでも…」
「しかしねえ」
皆がそっちに耳を傾けていると、大升が一人の女性を連れて戻ってくる。
「あ!宙奈々実女流三段!」
歩美が立ち上がった。
これまで女性でプロ棋士になった人はいない。
しかし一歩手前である奨励会三段になった女性は3人いる。
1人が福岡葉菜女流五冠、もう1人が石川萌香女流三冠。
この2人と7番勝負でクロはリレー将棋となって対戦した。
そして3人目が宙奈々実女流三段。
三段リーグで何期も奮戦したものの、とうとう四段には届かなかった。
それでも少し前から女流棋士として活躍し始めている。
いろいろな女流棋戦で勝ち進んでおり、女流タイトル戦の番勝負に登場するのも間近だった。
「福岡と石川の女流2強を宙が崩すのは間違いない」
そんな将棋ファンの声もある。
宙は場の中央でカニカマをくわえたクロに近づくと、ピッと人差し指を伸ばす。
「クロ!私と対局して!」
そんな挑戦状を意に介することなく、クロはカニカマをおいしそうに食べる。
さらに「クワッ」とひと鳴きして、チーズをくわえた。
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