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第4章 棋士の立場
第69話 カラスが新たな女流棋士と戦ったら(その2)
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「えーっと、それでは宙奈々実《ちゅう ななみ》女流三段とクロさんの対局を始めます」
歩美の姉であり、奨励会3級の谷原菱子が即席で読み上げ係を務める。
その向かいでは佐倉が三脚にスマートフォンのカメラを設置して撮影を始めていた。
七番勝負であれば万が一のことを考えて鈴香が傍に付くのだが、それまでの対局通りにクロだけに任せている。
「じゃあ、私が振り駒を」
「クワッ」
宙が並べた中から歩を5枚取って手の中で数回振った後、パッと広げる。
歩 歩 と 歩 と
「歩が3枚ですので、宙奈々実女流三段が先手です」
「はい」
「クワッ」
宙が歩を並べ直したところで、菱子が「それでは始めてください」と告げた。
「よろしくお願いします!」
「クワア」
宙とクロが頭を下げた。
「すーっ、はぁーっ」
宙が1回深呼吸すると、飛車先の歩を突いた。
パチリ
「先手、宙奈々実女流三段、2六歩」
すぐさまクロも飛車先の歩を突いた。
コトン
「後手、角野クロさん、8四歩」
パチッ
コトリ
ピシッ
カタン
その後、宙は雁木に、クロは矢倉模様に進む。
「宙さんもクロもオールラウンダーだからなあ」
朝草将棋クラブの常連の中から、そうささやく声が聞こえる。
将棋の戦法はいろいろある。
ただし大きく分けると、序盤で飛車を最初にある筋(2筋、8筋)の近辺で使う居飛車と、序盤で反対側に移動させる振り飛車の2種類となる。
「俺は居飛車しか指さないなあ」
「振り飛車一辺倒だから」
そんなプロ棋士やアマチュアも多い。
一方で居飛車も振り飛車も指す人もいる。そんな人のことを二刀流や両刀使い、そしてオールラウンダーなどと呼ぶ。
対局者の両方がオールラウンダーの場合、どんな戦法になるかも注目だ。
「どっちも居飛車かあ」
今局が相居飛車となったことで、朝草将棋クラブの常連で居飛車党は熱心に盤を覗き込み、振り飛車党は残念そうな顔をした。
朝草将棋クラブに備えてある大盤では席主の大升を中心に検討が始まっている。
「次の手は?」
「ああ、こうだって」
「ふむ…」
「ここで桂馬をはねると…」
「いや、角交換から打ち込まれる隙ができる」
「飛車を引けば受かるだろう」
「でも馬を作れば…」
小声で熱心に指し手を研究する。
パチリ
コトッ
ピシッ
カタン
七番勝負と同じで対局時計を使わず、考えた時間のみを知らせる形。
クロはもちろん、宙もあまり時間を使わずに指しているので局面の進行は早い。
序盤の駒組が終わって中盤の難所と思われる局面に差し掛かる。
宙が腕組みして考え込む。
「1分経過しました」
「はい」
「2分経過しました」
「はい」
「3分経過しました」
「…はい」
この対局で初めて考慮時間が3分を越えた。
ピシッ!
ひと際高い駒音で宙が歩を突いた。
“戦いは歩の突き捨てから”
その格言通りに開戦を告げる一手。
クロは宙が進めた歩をくわえると自らの駒台に持って行く。
そして歩を駒台に置くと、空いたマス目に自陣から歩を進めた。
カタッ
パチン
ピシリ!
もう一枚歩を突き捨てた宙は角を大きく動かした。
「クワア」
宙の角が出る一手を見たクロは小さく鳴いて頭を傾げる。
「1分…」
コトン
菱子が経過時間を言いかけたところで、クロも角を飛び出した。
「こりゃ角交換だろ」
「激しい戦いになりそうだな」
常連がヒソヒソ声で話す。
大盤でもそうした展開を検討している。
パチリ
カタッ
ピシリ
カタン
予想通りに角交換から激しい乱戦に突入した。
宙は盤を覆い隠すように前のめりになり、クロも自陣のすぐ前に立って盤を覗き込んでいる。
観戦しているクラブの常連も声ひとつ上げることなく、盤と対局者を見つめていた。
歩美の姉であり、奨励会3級の谷原菱子が即席で読み上げ係を務める。
その向かいでは佐倉が三脚にスマートフォンのカメラを設置して撮影を始めていた。
七番勝負であれば万が一のことを考えて鈴香が傍に付くのだが、それまでの対局通りにクロだけに任せている。
「じゃあ、私が振り駒を」
「クワッ」
宙が並べた中から歩を5枚取って手の中で数回振った後、パッと広げる。
歩 歩 と 歩 と
「歩が3枚ですので、宙奈々実女流三段が先手です」
「はい」
「クワッ」
宙が歩を並べ直したところで、菱子が「それでは始めてください」と告げた。
「よろしくお願いします!」
「クワア」
宙とクロが頭を下げた。
「すーっ、はぁーっ」
宙が1回深呼吸すると、飛車先の歩を突いた。
パチリ
「先手、宙奈々実女流三段、2六歩」
すぐさまクロも飛車先の歩を突いた。
コトン
「後手、角野クロさん、8四歩」
パチッ
コトリ
ピシッ
カタン
その後、宙は雁木に、クロは矢倉模様に進む。
「宙さんもクロもオールラウンダーだからなあ」
朝草将棋クラブの常連の中から、そうささやく声が聞こえる。
将棋の戦法はいろいろある。
ただし大きく分けると、序盤で飛車を最初にある筋(2筋、8筋)の近辺で使う居飛車と、序盤で反対側に移動させる振り飛車の2種類となる。
「俺は居飛車しか指さないなあ」
「振り飛車一辺倒だから」
そんなプロ棋士やアマチュアも多い。
一方で居飛車も振り飛車も指す人もいる。そんな人のことを二刀流や両刀使い、そしてオールラウンダーなどと呼ぶ。
対局者の両方がオールラウンダーの場合、どんな戦法になるかも注目だ。
「どっちも居飛車かあ」
今局が相居飛車となったことで、朝草将棋クラブの常連で居飛車党は熱心に盤を覗き込み、振り飛車党は残念そうな顔をした。
朝草将棋クラブに備えてある大盤では席主の大升を中心に検討が始まっている。
「次の手は?」
「ああ、こうだって」
「ふむ…」
「ここで桂馬をはねると…」
「いや、角交換から打ち込まれる隙ができる」
「飛車を引けば受かるだろう」
「でも馬を作れば…」
小声で熱心に指し手を研究する。
パチリ
コトッ
ピシッ
カタン
七番勝負と同じで対局時計を使わず、考えた時間のみを知らせる形。
クロはもちろん、宙もあまり時間を使わずに指しているので局面の進行は早い。
序盤の駒組が終わって中盤の難所と思われる局面に差し掛かる。
宙が腕組みして考え込む。
「1分経過しました」
「はい」
「2分経過しました」
「はい」
「3分経過しました」
「…はい」
この対局で初めて考慮時間が3分を越えた。
ピシッ!
ひと際高い駒音で宙が歩を突いた。
“戦いは歩の突き捨てから”
その格言通りに開戦を告げる一手。
クロは宙が進めた歩をくわえると自らの駒台に持って行く。
そして歩を駒台に置くと、空いたマス目に自陣から歩を進めた。
カタッ
パチン
ピシリ!
もう一枚歩を突き捨てた宙は角を大きく動かした。
「クワア」
宙の角が出る一手を見たクロは小さく鳴いて頭を傾げる。
「1分…」
コトン
菱子が経過時間を言いかけたところで、クロも角を飛び出した。
「こりゃ角交換だろ」
「激しい戦いになりそうだな」
常連がヒソヒソ声で話す。
大盤でもそうした展開を検討している。
パチリ
カタッ
ピシリ
カタン
予想通りに角交換から激しい乱戦に突入した。
宙は盤を覆い隠すように前のめりになり、クロも自陣のすぐ前に立って盤を覗き込んでいる。
観戦しているクラブの常連も声ひとつ上げることなく、盤と対局者を見つめていた。
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