72 / 113
第4章 棋士の立場
第71話 カラスが新しい将棋会館に行ったら(その1)
しおりを挟む
日本将棋協会の本拠地のひとつとなる将棋会館。
協会が設立された当初は自前の建物でなかったが、1976年に東京・千駄ヶ矢に立派な建物が建設された。しかし約半世紀を経て老朽化などの問題により、ほど近い地に建て直された。それが新たな将棋会館「ヒューニック将棋会館千駄ヶ矢ビル」だ。
「わぁ、きれい」
鈴香がビルを見上げた。
祖父である馬場と朝草将棋クラブの常連である佐倉が一緒にいる。
そしてクロが入った鳥かごも。
「高さはあまり変わらないけど、広くなったんだよね」
「ああ、窓も大きくとってあるんで、明るい感じが強くなったな」
馬場もあちこちを見回している。
お披露目のイベントなどが終わって落ち着いたところで、クロを連れての見学。
先だって相談した折には「ペットはダメですよ」と断られていた。
しかし…
「ああ、クロさんですか!それなら便宜を図りましょう」
協会の職員から特別に許可を出してもらえた。
昨今の将棋人気にひと役かっているからだろう。
また佐倉から棋士を通じてのお願いも効いていたようだ。
「こちらへどうぞ」
職員は案内もかってくれたが、こちらは動物が苦手な人への配慮もあり、他の見学者がいない隙を狙って、あちこちを回ることができた。
その中には「高雄」「鍾馗」などの名前がついた部屋もある。
「いつかクロがここで対局することがあるのかな」
「どうだろうなあ」
「鈴香ちゃんがプロになって対局する方が先なんじゃないの?」
佐倉がはっぱをかける意味で言った。
鈴香が「あはは」と笑う。
「プロになって辻井先生と対局する機会があれば…」
馬場が言いかけると、「でも」と鈴香が口を挟む。
「辻井先生は愛地県でしょ。だから名古谷対局場か、関西の会館じゃないかなあ」
「ああ、そうか」
将棋の対局においては、基本的に上位の棋士の側に下位の棋士が移動することが多い。日本将棋協会の対局場としては、東京にある将棋会館のほか、関西将棋会館と名古谷対局場がある。
辻井孝太七冠が愛地県に住んでいるため、もし鈴香が四段になったとしても、辻井七冠と対局するのは名古谷対局場か関西将棋会館となる可能性が高い。
「あ、そろそろ時間だ」
「そうか」
「頑張れよー」
鈴香は「行ってきまーす」と手を振って離れて行く。
この日は月に2回ある研修会の例会の日。毎日将棋の勉強に励んでいるかいもあり、今のところ成績は好調。
「そろそろBクラスも視野に入ってきた?」
「いや、まあ、上のクラスになると昇級の規定も厳しくなるしなあ」
「そうだなあ」
他の条件もあるが、研修会でB1クラスに上がれば女流棋士になる資格が得られる。またA2クラスに上がると棋士を目指す奨励会に編入できる。そうして女流棋士になった女性や、奨励会を経て棋士になった男性もいる。
「歩美ちゃんも順調なんでしょ」
「ああ、良いライバルになってくれてる」
鈴香と同時に研修会に入会した谷原歩美も相前後して昇級を重ねている。
「菱子さんが手ごろな目標になってるのかもね」
研修会で好成績を上げると女流棋士になる女性が多い中、歩美の姉である菱子は数少ない女性の奨励会員として頑張っている。
「その意味では宙さんは惜しかったなあ」
「うん、奨励会1本で頑張ってたしね」
そんな話をしつつ馬場と佐倉が、「棋の音」の名前がついた対局道場を覗く。日曜日と言うこともあって、大勢の対局者で賑わっている。
「どう?指してく?」
「いや、今日はクロもいるし」
馬場はクロの入った鳥かごをみせた。
「…だね」
しかし目ざとい将棋ファンが馬場らを指さす。
「あれってクロ?」
「えっ、まさかあ」
「いや、でも…」
対局者や観戦する人達から注目が集まりかけたのを感じて、馬場と佐倉はその場を去った。
「今日はありがとうございました」
「いえ、七番勝負、頑張ってください」
「クワア」
案内役を務めた協会の職員に礼を述べて将棋会館を後にした。
協会が設立された当初は自前の建物でなかったが、1976年に東京・千駄ヶ矢に立派な建物が建設された。しかし約半世紀を経て老朽化などの問題により、ほど近い地に建て直された。それが新たな将棋会館「ヒューニック将棋会館千駄ヶ矢ビル」だ。
「わぁ、きれい」
鈴香がビルを見上げた。
祖父である馬場と朝草将棋クラブの常連である佐倉が一緒にいる。
そしてクロが入った鳥かごも。
「高さはあまり変わらないけど、広くなったんだよね」
「ああ、窓も大きくとってあるんで、明るい感じが強くなったな」
馬場もあちこちを見回している。
お披露目のイベントなどが終わって落ち着いたところで、クロを連れての見学。
先だって相談した折には「ペットはダメですよ」と断られていた。
しかし…
「ああ、クロさんですか!それなら便宜を図りましょう」
協会の職員から特別に許可を出してもらえた。
昨今の将棋人気にひと役かっているからだろう。
また佐倉から棋士を通じてのお願いも効いていたようだ。
「こちらへどうぞ」
職員は案内もかってくれたが、こちらは動物が苦手な人への配慮もあり、他の見学者がいない隙を狙って、あちこちを回ることができた。
その中には「高雄」「鍾馗」などの名前がついた部屋もある。
「いつかクロがここで対局することがあるのかな」
「どうだろうなあ」
「鈴香ちゃんがプロになって対局する方が先なんじゃないの?」
佐倉がはっぱをかける意味で言った。
鈴香が「あはは」と笑う。
「プロになって辻井先生と対局する機会があれば…」
馬場が言いかけると、「でも」と鈴香が口を挟む。
「辻井先生は愛地県でしょ。だから名古谷対局場か、関西の会館じゃないかなあ」
「ああ、そうか」
将棋の対局においては、基本的に上位の棋士の側に下位の棋士が移動することが多い。日本将棋協会の対局場としては、東京にある将棋会館のほか、関西将棋会館と名古谷対局場がある。
辻井孝太七冠が愛地県に住んでいるため、もし鈴香が四段になったとしても、辻井七冠と対局するのは名古谷対局場か関西将棋会館となる可能性が高い。
「あ、そろそろ時間だ」
「そうか」
「頑張れよー」
鈴香は「行ってきまーす」と手を振って離れて行く。
この日は月に2回ある研修会の例会の日。毎日将棋の勉強に励んでいるかいもあり、今のところ成績は好調。
「そろそろBクラスも視野に入ってきた?」
「いや、まあ、上のクラスになると昇級の規定も厳しくなるしなあ」
「そうだなあ」
他の条件もあるが、研修会でB1クラスに上がれば女流棋士になる資格が得られる。またA2クラスに上がると棋士を目指す奨励会に編入できる。そうして女流棋士になった女性や、奨励会を経て棋士になった男性もいる。
「歩美ちゃんも順調なんでしょ」
「ああ、良いライバルになってくれてる」
鈴香と同時に研修会に入会した谷原歩美も相前後して昇級を重ねている。
「菱子さんが手ごろな目標になってるのかもね」
研修会で好成績を上げると女流棋士になる女性が多い中、歩美の姉である菱子は数少ない女性の奨励会員として頑張っている。
「その意味では宙さんは惜しかったなあ」
「うん、奨励会1本で頑張ってたしね」
そんな話をしつつ馬場と佐倉が、「棋の音」の名前がついた対局道場を覗く。日曜日と言うこともあって、大勢の対局者で賑わっている。
「どう?指してく?」
「いや、今日はクロもいるし」
馬場はクロの入った鳥かごをみせた。
「…だね」
しかし目ざとい将棋ファンが馬場らを指さす。
「あれってクロ?」
「えっ、まさかあ」
「いや、でも…」
対局者や観戦する人達から注目が集まりかけたのを感じて、馬場と佐倉はその場を去った。
「今日はありがとうございました」
「いえ、七番勝負、頑張ってください」
「クワア」
案内役を務めた協会の職員に礼を述べて将棋会館を後にした。
10
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる