77 / 113
第4章 棋士の立場
第76話 カラスの先手番対策を練ったら(その3)
しおりを挟む
「ここか…」
翌日、水瀬石也九段は静丘県のとある駅に降り立った。そこから歩いてほど近くにあるのが館河花鳥園だ。
多くの植物とともに鳥類を中心に飼育、展示しており、ワシ、インコ、ペンギンなどによるバードショーも開催されている。
「敵を知り己を知らば百戦危うからず」
つまりクロへの対策として鳥のことを知るために、ここ館河花鳥園を訪れたのだが…
「えっ!カラスはいないんですか?」
スタッフに聞いて初めて知った水瀬は驚いた。
「ああ、鳥なら約100種類もいるけど、さすがにカラスはねえ…」
「そんな…」
「むしろ動物園にとってカラスって天敵なんですよ…」
水瀬は「へっ?」と不思議そうな顔を見せた。
「ほら、動物たちの餌を横から取っていくからね」
「…ああ」
大きくうなずいた水瀬だったが、次にスタッフが話した内容に目を光らせる。
「もちろん動物園側も対策を練るんだけどね。カラスって頭が良いから、次々に対策を破ってくるんだ」
「…頭が…良いんですね」
「ああ、“鶏は3歩歩けば忘れる”なんて言うけど、鳥の中でもフクロウやオウムなんかは頭が良いんだ」
「はあ」
「そうした鳥をはるかに超えるのがカラスなんだ。鳥だけじゃなくて動物を合わせてもトップクラスだよ」
「うーん」
水瀬は難しい顔をする。
カラスを観察することはできなかったが、カラスの頭の良さを再認識した格好。
「将棋を打つカラスがいるってニュースになってるくらいだしね。まあ、あれは別格かあ…」
「あ、ちょっと待って下さい」
水瀬はスタッフの話をさえぎる。
「えっ!?」
レンズを拭いて眼鏡をかけ直した水瀬がスタッフをとがめる。
「将棋は“打つ”ではなく、“指す”ですから」
「そうなの?」
「ええ、覚えておいてください。将棋は指す、碁は打つです」
「でも『絶妙の歩打ち』なーんて言うんじゃないの?」
「確かに持ち駒を打つときは、そんな表現になります」
「でしょ」
「しかし盤に並べた駒を指でつまんで動かすので“指す”と言うんです」
「はあ」
「覚えておいてくださいね」
「ああ、どうも」
水瀬の勢いに気おされたスタッフは、とりあえずうなずいておいた。
「うーん、どうしたものか」
「他の鳥ならいっぱいいるから楽しんでってください」
「まあ、何かの参考になるかも…」
カラスのことを知るという当初の目論見は外れたものの、鳥達と記念撮影をしたりバードショーを見たりして、水瀬は館河花鳥園を満喫した。
「あそこにも行ってみるか」
その帰り道に水瀬は都内にある烏盛神社を訪れた。
烏盛神社は芸事の神としても有名な天鈿女命をお祀りしていることから、棋士である水瀬も無縁ではない。そして社名に「カラス」とあるように、カラスをモチーフとしたキャラクター「こい助」も作られている。
ちなみに烏盛は昔の地名から来ている。
かつてこの辺りが江戸湾に面した砂浜で松林が多くあったことから「枯州の森」や「空州の森」などと呼ばれていた。さらに松林にカラスが多く集まってきたことから、「烏の森」となり、「烏盛」になったとされている。
地名そのものは一帯が新端となったことで消えてしまったものの、新端駅の烏盛口など、一部に片鱗が残っている。
「それっ」
奮発して500円硬貨を賽銭箱に投げ入れた水瀬は、しっかりと手を叩いた後、深々と頭を下げる。頭を上げた後、顔の前で手を合わせて…
「神様、どうかクロさんとの一戦を全力で戦い勝利をもたらしてください」
そう祈った後、もう一度深く頭を下げて烏盛神社を後にした。
先に書いたように、カラスをモチーフとしたキャラクラーもいるのが烏盛神社だ。
そこでカラスに勝つように祈って効果があるかは疑わしいところ。果たして500円硬貨に込められた水瀬の思いを受け取ってもらえるだろうか。
翌日、水瀬石也九段は静丘県のとある駅に降り立った。そこから歩いてほど近くにあるのが館河花鳥園だ。
多くの植物とともに鳥類を中心に飼育、展示しており、ワシ、インコ、ペンギンなどによるバードショーも開催されている。
「敵を知り己を知らば百戦危うからず」
つまりクロへの対策として鳥のことを知るために、ここ館河花鳥園を訪れたのだが…
「えっ!カラスはいないんですか?」
スタッフに聞いて初めて知った水瀬は驚いた。
「ああ、鳥なら約100種類もいるけど、さすがにカラスはねえ…」
「そんな…」
「むしろ動物園にとってカラスって天敵なんですよ…」
水瀬は「へっ?」と不思議そうな顔を見せた。
「ほら、動物たちの餌を横から取っていくからね」
「…ああ」
大きくうなずいた水瀬だったが、次にスタッフが話した内容に目を光らせる。
「もちろん動物園側も対策を練るんだけどね。カラスって頭が良いから、次々に対策を破ってくるんだ」
「…頭が…良いんですね」
「ああ、“鶏は3歩歩けば忘れる”なんて言うけど、鳥の中でもフクロウやオウムなんかは頭が良いんだ」
「はあ」
「そうした鳥をはるかに超えるのがカラスなんだ。鳥だけじゃなくて動物を合わせてもトップクラスだよ」
「うーん」
水瀬は難しい顔をする。
カラスを観察することはできなかったが、カラスの頭の良さを再認識した格好。
「将棋を打つカラスがいるってニュースになってるくらいだしね。まあ、あれは別格かあ…」
「あ、ちょっと待って下さい」
水瀬はスタッフの話をさえぎる。
「えっ!?」
レンズを拭いて眼鏡をかけ直した水瀬がスタッフをとがめる。
「将棋は“打つ”ではなく、“指す”ですから」
「そうなの?」
「ええ、覚えておいてください。将棋は指す、碁は打つです」
「でも『絶妙の歩打ち』なーんて言うんじゃないの?」
「確かに持ち駒を打つときは、そんな表現になります」
「でしょ」
「しかし盤に並べた駒を指でつまんで動かすので“指す”と言うんです」
「はあ」
「覚えておいてくださいね」
「ああ、どうも」
水瀬の勢いに気おされたスタッフは、とりあえずうなずいておいた。
「うーん、どうしたものか」
「他の鳥ならいっぱいいるから楽しんでってください」
「まあ、何かの参考になるかも…」
カラスのことを知るという当初の目論見は外れたものの、鳥達と記念撮影をしたりバードショーを見たりして、水瀬は館河花鳥園を満喫した。
「あそこにも行ってみるか」
その帰り道に水瀬は都内にある烏盛神社を訪れた。
烏盛神社は芸事の神としても有名な天鈿女命をお祀りしていることから、棋士である水瀬も無縁ではない。そして社名に「カラス」とあるように、カラスをモチーフとしたキャラクター「こい助」も作られている。
ちなみに烏盛は昔の地名から来ている。
かつてこの辺りが江戸湾に面した砂浜で松林が多くあったことから「枯州の森」や「空州の森」などと呼ばれていた。さらに松林にカラスが多く集まってきたことから、「烏の森」となり、「烏盛」になったとされている。
地名そのものは一帯が新端となったことで消えてしまったものの、新端駅の烏盛口など、一部に片鱗が残っている。
「それっ」
奮発して500円硬貨を賽銭箱に投げ入れた水瀬は、しっかりと手を叩いた後、深々と頭を下げる。頭を上げた後、顔の前で手を合わせて…
「神様、どうかクロさんとの一戦を全力で戦い勝利をもたらしてください」
そう祈った後、もう一度深く頭を下げて烏盛神社を後にした。
先に書いたように、カラスをモチーフとしたキャラクラーもいるのが烏盛神社だ。
そこでカラスに勝つように祈って効果があるかは疑わしいところ。果たして500円硬貨に込められた水瀬の思いを受け取ってもらえるだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる