79 / 113
第4章 棋士の立場
第78話 カラスが七番勝負の第5局に向かったら(その2)
しおりを挟む
「失礼します」
Hamabe TVのクロ向けの控室の扉が開く。準備に追われていた面々の視線が集まった。
「あっ、水瀬九段」
歩美が指さす。
このすぐ後でクロと対局する水瀬石也《みなせ せきや》九段だった。
「お忙しいところ、申し訳ありません」
水瀬がすまなそうに頭を下げる。
「いえいえ、どうぞ」
馬場が迎え入れた。
朝草将棋クラブの席主である大升と常連の佐倉は早速サイン色紙の用意をする。
「先ほど久利先生から、水瀬先生は控室にいると聞いていたんですが」
「ええ」
水瀬が恥ずかしそうに頭に手をやる。
「いやあ、今日対局する相手になれなれしくするのもどうかと思って…」
「ああ、なるほど」
「でも、やっぱり会っておきたいなと」
「そうでしたか」
「まあ、対局で会えるのは分かってるんですけどね。その前に…」
「ええ、ええ、どうぞこちらへ」
馬場が手招きした。
鈴香も立ち上がって水瀬を迎える。
もちろん、その傍らにはクロがいる。
「クワア」
クロがひと鳴きして羽ばたいた。
「どうも、初めまして」
水瀬が頭を下げると、鈴香も頭を下げる。
クロも再び「クワッ」と鳴いて頭を下げた。
「本当にカラスなんですね」
鈴香と歩美が「クスッ」と笑う。
「すると、水瀬先生はどう思っていたんですか?」
佐倉に聞かれた水瀬は「うーん」と腕組みする。
「例えば、遠隔操作できるロボットとか。あ、1%くらいですが…」
「はあ、なるほど」
「いや、もちろん高村先生も対局したのですから、生き物のカラスだろうなと」
「ええ、その通りです」
水瀬は手を伸ばしかけて引っ込める。
「ちょっと、触れてみてもいいですか?」
鈴香はクロに「いい?」と確認する。
クロが「OK」とでも言うように「クワッ」と鳴くと、「どうぞ」と答えた。
水瀬が眼鏡をかけ直す。
「鈴香ちゃん、だったよね。クロと話ができるの?」
鈴香はちょっと首をかしげる。
「話まではできないけど、『いい』とか『だめ』とかは分かるかな」
「へえ」
水瀬は再び手を伸ばす。
指先がクロの頭に触れると、クロはちょっと首を引っ込める。
その後に水瀬が優しく撫でる。クロは気持ちよさそうに目を閉じた。
3度、4度とクロの頭を撫でたところで水瀬は手を引っ込めた。
クロに触れた指先を見る。特に何が変わった訳でもないが、「うんうん」とうなずいた。
「やっぱり、カラスです」
その言葉で部屋にいた一同が笑った。
「どうも、良い経験ができました」
水瀬が頭を下げて出て行こうとしたところで、大升が引き留めて色紙と写真をお願いする。
「何なら、水瀬先生もクロと写真を撮りませんか」
水瀬は先日クロ対策で訪れた館河花鳥園を思い出す。
あそこにはカラスこそいなかったものの、鳥達と記念撮影をしたりバードショーを見たりしてそれなりに楽しめた。
「ええ、ぜひ」
クロとのツーショット写真を撮り終えた水瀬は、早速写真をスマートフォンに送ってもらい笑顔を見せる。
「私も写真を撮っていいですか?」
「ええ、もちろん」
スマートフォンを向けて何度もシャッターを押した水瀬は満足してスマートフォンをしまう。
「この後の対局、楽しみにしています」
鈴香が「はい」と応え、意味が分かったのかクロも「クワア」と鳴いて羽ばたいた。
Hamabe TVのクロ向けの控室の扉が開く。準備に追われていた面々の視線が集まった。
「あっ、水瀬九段」
歩美が指さす。
このすぐ後でクロと対局する水瀬石也《みなせ せきや》九段だった。
「お忙しいところ、申し訳ありません」
水瀬がすまなそうに頭を下げる。
「いえいえ、どうぞ」
馬場が迎え入れた。
朝草将棋クラブの席主である大升と常連の佐倉は早速サイン色紙の用意をする。
「先ほど久利先生から、水瀬先生は控室にいると聞いていたんですが」
「ええ」
水瀬が恥ずかしそうに頭に手をやる。
「いやあ、今日対局する相手になれなれしくするのもどうかと思って…」
「ああ、なるほど」
「でも、やっぱり会っておきたいなと」
「そうでしたか」
「まあ、対局で会えるのは分かってるんですけどね。その前に…」
「ええ、ええ、どうぞこちらへ」
馬場が手招きした。
鈴香も立ち上がって水瀬を迎える。
もちろん、その傍らにはクロがいる。
「クワア」
クロがひと鳴きして羽ばたいた。
「どうも、初めまして」
水瀬が頭を下げると、鈴香も頭を下げる。
クロも再び「クワッ」と鳴いて頭を下げた。
「本当にカラスなんですね」
鈴香と歩美が「クスッ」と笑う。
「すると、水瀬先生はどう思っていたんですか?」
佐倉に聞かれた水瀬は「うーん」と腕組みする。
「例えば、遠隔操作できるロボットとか。あ、1%くらいですが…」
「はあ、なるほど」
「いや、もちろん高村先生も対局したのですから、生き物のカラスだろうなと」
「ええ、その通りです」
水瀬は手を伸ばしかけて引っ込める。
「ちょっと、触れてみてもいいですか?」
鈴香はクロに「いい?」と確認する。
クロが「OK」とでも言うように「クワッ」と鳴くと、「どうぞ」と答えた。
水瀬が眼鏡をかけ直す。
「鈴香ちゃん、だったよね。クロと話ができるの?」
鈴香はちょっと首をかしげる。
「話まではできないけど、『いい』とか『だめ』とかは分かるかな」
「へえ」
水瀬は再び手を伸ばす。
指先がクロの頭に触れると、クロはちょっと首を引っ込める。
その後に水瀬が優しく撫でる。クロは気持ちよさそうに目を閉じた。
3度、4度とクロの頭を撫でたところで水瀬は手を引っ込めた。
クロに触れた指先を見る。特に何が変わった訳でもないが、「うんうん」とうなずいた。
「やっぱり、カラスです」
その言葉で部屋にいた一同が笑った。
「どうも、良い経験ができました」
水瀬が頭を下げて出て行こうとしたところで、大升が引き留めて色紙と写真をお願いする。
「何なら、水瀬先生もクロと写真を撮りませんか」
水瀬は先日クロ対策で訪れた館河花鳥園を思い出す。
あそこにはカラスこそいなかったものの、鳥達と記念撮影をしたりバードショーを見たりしてそれなりに楽しめた。
「ええ、ぜひ」
クロとのツーショット写真を撮り終えた水瀬は、早速写真をスマートフォンに送ってもらい笑顔を見せる。
「私も写真を撮っていいですか?」
「ええ、もちろん」
スマートフォンを向けて何度もシャッターを押した水瀬は満足してスマートフォンをしまう。
「この後の対局、楽しみにしています」
鈴香が「はい」と応え、意味が分かったのかクロも「クワア」と鳴いて羽ばたいた。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる