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第4章 棋士の立場
第83話 カラスが軍曹と感想戦をしたら(その1)
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「お疲れ様です」
「お疲れ様でしたー」
対局の場に入った久利保秋九段と加納梅子女流四段が声をかける。
鈴香が顔を上げて笑顔をみせた一方、水瀬石也九段は厳しい顔のまま、少し頭を下げるにとどめる。
そんな重い空気の中…
「クワア」
クロが羽ばたいてひと鳴きしたことで、やや雰囲気がほぐれた。
「それでは最初から並べていただけますか」
「…はい」
「はーい」
加納が声をかけると、水瀬と鈴香が駒を並べ直す。
パチリ
水瀬が初手に飛車先の歩を突いた。
「水瀬先生は何か作戦を考えてこられましたか?」
加納の質問に水瀬は盤から顔を上げる。
「まあ、相掛かりでくることを想定していろいろ。あと振り飛車もあるかなって」
「そうでしたか…」
パチン
鈴香が端の歩を突く。
加納がさらに質問した。
「この端歩突きは、いかがでしたか?」
水瀬が眼鏡を取って目頭を押さえた。
頭を振って眼鏡をかけ直す。
「うーん、さすがに考えていなかったです」
そこで久利が言葉を添えた。
「まあ、様子見として公式戦でも指された手ではありますが、クロさんの意図を知りたいところですねえ」
クロに視線が集まるものの、もちろんクロは何も答えない。
「あの…」
鈴香が口を開く。
「うん?」
皆の視線が集まったことで、鈴香は肩をひそめるものの、思い切って言葉を続ける。
「ちょっと前に、クロの前で古い棋譜を並べてたんですけど…」
そこまで言ったところで、水瀬と久利と加納が似たような発言をする。
「坂谷先生?」
「南禅寺の坂谷戦?」
「大村-坂谷戦?」
3人の勢いに押されながらも、鈴香がうなずいた。
尋ねた3人、そして読み上げを務めていた宙奈々実女流三段も「ああ」とうなずく。
坂谷三吉。
明治時代から昭和初期にかけて活躍した棋士。当時、坂谷のことを最強と呼ぶ人も多かった。東京と大阪のあつれきもあり、関西名人を名乗ったこともある。ただし将棋界がまとまっていく中で孤立した格好となった経緯もあった。
昭和12年に京都の南禅寺で行われた大村義男八段との対局で、後手番の坂谷は初手に端歩を突いている。その後に行われた原田幸太郎八段との対局でも、坂谷は後手番の初手に端歩を突いた(ともに坂谷の負け)。
「そうか、坂谷先生の…」
解説役を務めた久利保秋九段は、坂谷三𠮷の、ひ孫弟子にあたる。
「偶然ですか?」
加納の質問に鈴香が「たぶん…」と困った顔をする。
「おじいちゃんが『古い棋譜も勉強になるよ』って言ってたので、いろいろ並べていて…」
「その中に大村-坂谷戦があったと」
「はい」
水瀬も鈴香に尋ねる。
「その時にクロさんが何か反応しましたか?」
聞かれた鈴香はますます困った顔をする。
「そばで見ていたとは思うんですけど、基本的に棋譜並べしている時は周りでチョコチョコ動いているくらいなので」
「そうですか…」
水瀬は「それを知ってたら…」とつぶやいた。
「えーっと、もう少し指し手を進めてみましょうか」
「はい」
「はい」
パチッ
ピシッ
パチリ
パチン
序盤から中盤への駒組が続けられた。
ここでもクロは盤の横でチョコチョコと動くばかりだった。
「お疲れ様でしたー」
対局の場に入った久利保秋九段と加納梅子女流四段が声をかける。
鈴香が顔を上げて笑顔をみせた一方、水瀬石也九段は厳しい顔のまま、少し頭を下げるにとどめる。
そんな重い空気の中…
「クワア」
クロが羽ばたいてひと鳴きしたことで、やや雰囲気がほぐれた。
「それでは最初から並べていただけますか」
「…はい」
「はーい」
加納が声をかけると、水瀬と鈴香が駒を並べ直す。
パチリ
水瀬が初手に飛車先の歩を突いた。
「水瀬先生は何か作戦を考えてこられましたか?」
加納の質問に水瀬は盤から顔を上げる。
「まあ、相掛かりでくることを想定していろいろ。あと振り飛車もあるかなって」
「そうでしたか…」
パチン
鈴香が端の歩を突く。
加納がさらに質問した。
「この端歩突きは、いかがでしたか?」
水瀬が眼鏡を取って目頭を押さえた。
頭を振って眼鏡をかけ直す。
「うーん、さすがに考えていなかったです」
そこで久利が言葉を添えた。
「まあ、様子見として公式戦でも指された手ではありますが、クロさんの意図を知りたいところですねえ」
クロに視線が集まるものの、もちろんクロは何も答えない。
「あの…」
鈴香が口を開く。
「うん?」
皆の視線が集まったことで、鈴香は肩をひそめるものの、思い切って言葉を続ける。
「ちょっと前に、クロの前で古い棋譜を並べてたんですけど…」
そこまで言ったところで、水瀬と久利と加納が似たような発言をする。
「坂谷先生?」
「南禅寺の坂谷戦?」
「大村-坂谷戦?」
3人の勢いに押されながらも、鈴香がうなずいた。
尋ねた3人、そして読み上げを務めていた宙奈々実女流三段も「ああ」とうなずく。
坂谷三吉。
明治時代から昭和初期にかけて活躍した棋士。当時、坂谷のことを最強と呼ぶ人も多かった。東京と大阪のあつれきもあり、関西名人を名乗ったこともある。ただし将棋界がまとまっていく中で孤立した格好となった経緯もあった。
昭和12年に京都の南禅寺で行われた大村義男八段との対局で、後手番の坂谷は初手に端歩を突いている。その後に行われた原田幸太郎八段との対局でも、坂谷は後手番の初手に端歩を突いた(ともに坂谷の負け)。
「そうか、坂谷先生の…」
解説役を務めた久利保秋九段は、坂谷三𠮷の、ひ孫弟子にあたる。
「偶然ですか?」
加納の質問に鈴香が「たぶん…」と困った顔をする。
「おじいちゃんが『古い棋譜も勉強になるよ』って言ってたので、いろいろ並べていて…」
「その中に大村-坂谷戦があったと」
「はい」
水瀬も鈴香に尋ねる。
「その時にクロさんが何か反応しましたか?」
聞かれた鈴香はますます困った顔をする。
「そばで見ていたとは思うんですけど、基本的に棋譜並べしている時は周りでチョコチョコ動いているくらいなので」
「そうですか…」
水瀬は「それを知ってたら…」とつぶやいた。
「えーっと、もう少し指し手を進めてみましょうか」
「はい」
「はい」
パチッ
ピシッ
パチリ
パチン
序盤から中盤への駒組が続けられた。
ここでもクロは盤の横でチョコチョコと動くばかりだった。
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