クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第4章 棋士の立場

第84話 カラスが軍曹と感想戦をしたら(その2)

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「形としては相掛あいがかりですよね」

聞き手の加納梅子かのう うめこ女流四段の言葉に、水瀬石也《みなせ せきや》九段は「ええ」と答える。

「ただ、完全に研究手順から外れていたので…」

盤上の駒を少し手直しする。

「この形であれば研究していたんですが…」

解説役の久利保秋《くり やすあき》九段も盤上に手を伸ばす。

「この形なら公式戦でもよく出てきますよね」
「ええ、そうなるかもと思ってたんですけどね…」

水瀬が駒を元に戻す。

「この辺りの前例はあるんですか?」

加納と久利が首を振る。

「そうか…」

水瀬はクロの方を向く。

「クロさんがどんな研究をしていたのか分かったらなあ」

心底知りたそうにつぶやくと、加納も久利も同意見と言うようにうなずいた。

ピシッ

パチッ

パチン

ピシッ

水瀬が歩を突き捨ててから大きくさばいた局面になる。

「この辺りは互角ですか?」

加納が「はい」と答える。

「でも加納さんはクロさん持ちでしたよね」
「あー、玉が固い方が好きなので。久利先生は水瀬先生持ちでしたよね」
「やっぱり駒がさばけた方が好みなので」

久利と水瀬が苦笑する。

「ここは銀打ちはどうですか?」

解説で触れた手順を久利が披露する。

水瀬と久利が交互に手を動かす。
パタパタと駒が動いて、終盤の入り口まで進む。
本譜とは異なるが、互いに相手陣へ攻め込んでいる。

「うん、ああ、これも良い勝負ですね」
「本局とは違いますが、じっくり攻めるのなら、こっちもあったかもしれません」
「そうですねえ」

水瀬がうんうんとうなずく。

盤上を元通りにして中盤から終盤へと手を進める。
加納がタブレットを見つつ、将棋ソフトの形勢判断を告げた。

「ここでもまだ互角でした」
「…そうですか」

パチッ

パチン

ピシッ

水瀬が本局と同様に手を進める。
クロが馬を動かした局面で手を止めた。
しばらくして、自陣の玉に手と触れる。

「これ、悪手でしたよね?」

加納と久利が小さくうなずく。

「最善手は?」
「ソフトは銀を左に引く手とあります」

水瀬が銀に指を乗せる。

「うーん」

銀を左後ろに引いては戻す、引いては戻すを何度も繰り返す。
その後に盤上で指先を動かして、先を読んでいく。

「よろしければ、その先を…」
「はい」

水瀬が銀を引いた手から交互に手を進めて行く。
こうなると鈴香は盤上を見守るばかりになる。

「こんな感じでしょうか?」

水瀬が尋ねると、久利も「ええ」とうなずいた。
その時、クロが「クワッ」とひと鳴きして羽ばたく。

「えっ、何?」
「クロ、何かあるの?」

クロが盤の横に立って、銀をチョンチョンと突っつく。
鈴香が様子を察したように一手ずつ戻していく。

水瀬が銀を引いたところまで手を戻すと、クロは水瀬の持ち駒から歩をくわえて盤上に置いた。

コトリ

「うん?」
「この手は…?」

水瀬も久利も意味が分かりかねて手を出さない。
久利が「ソフトには出てる手?」と聞いたが、加納は首を振る。

「ちょっと入力してみます」

加納がタブレットを操作して待っていると、水瀬が「ああ、そうか!」と大声を出した。

「あ、出ました!」

加納もタブレットを見せる。

「銀引きよりも若干水瀬先生がよくなるんですね」

続いて久利も納得した様子を見せる。

水瀬と久利が、歩を打った局面から手を進める。
銀を引く手が互角のまま進む一方、歩を打つ手は少しだけ水瀬の方が有利になる。

「ほんの少し指しやすい程度ですが…」
「うーん、見えなかったなあ」

久利と水瀬がつぶやく。

「クロさんはどこまで考えてたんでしょう?」

加納がクロに向かって尋ねるものの、クロは鳴くことすらせずに顔をかしげるばかり。

「鈴香ちゃんは分かる?」
「いいえ、全然…」

申し訳なさそうに鈴香も首を振った。

「歩打ち、歩打ちかあ…」

水瀬が何度もつぶやいた。

その後、投了の局面まで並べて感想戦が終わる。

「また機会があったら教えてください」

水瀬がクロに右手を差し出す。
クロがクチバシでチョンと突っついた後、頭を擦り付けると、皆から笑いが起こった。

最後に読み上げの宙奈々実ちゅう ななみ女流三段がいつものセリフを言って締めくくる。

「ご覧の通り、ぬばたまの闇より飛来せり漆黒の翼 クロ七番勝負の第5局、水瀬石也みなせ せきや九段対角野クロさん一戦はクロさんの勝ちとなりました。通算成績はクロさんの5勝1分けです。第6局の壬生善元みぶよしもと九段との対局は来月18日に放送予定です。皆さま、どうぞ楽しみにお待ちください」

最後に全員が頭を下げる。
クロも「カア」と鳴いて頭を下げた。
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