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第5章 会長の思惑
第85話 カラスが将棋ニュースを見たら(その1)
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この日も祖父である馬場の家で鈴香とクロが将棋を指していた。
クロが鈴香と対局する際のハンデとなる駒落ちは一進一退。その日は飛車落ちだった。
飛香落ちであれば、鈴香もなんとかクロに勝てるものの…
「うーん、負けました」
「クワア」
鈴香が投了すると、クロがうれしそうに鳴いた。
「飛車落ちだと、なっかなか勝てないなあ」
「クワクワア」
クロが「頑張れ」とでも言うように鳴いた。
「中盤までは、そこそこ指せていたと思うよ」
馬場が局面を中盤に戻す。
「そっか…」
鈴香も駒を整えて中盤の難しい局面を考え直す。
「クワア」
「あー、はいはい」
クロが鳴きながら鈴香の服を引っ張る。
鈴香はチーズを取り出すと、小さくちぎってクロに差し出す。
「クワッ」
クロが大きく開けたクチバシに、鈴香がチーズを入れた。
チーズを食べたクロはおいしそうに目を閉じる。
「えっ!」
ノートパソコンを見ていた馬場が声を上げる。
「おじいちゃん、どうしたの?」
「ほら、ここ」
鈴香もノートパソコンのモニターを見た。
ニュース一覧の中に、将棋ファンなら目を引く見出しがあった。
-将棋の壬生九段、会長職を辞任-
「ええーっ!」
鈴香が驚いていると馬場がニュースの見出しをクリックした。
先の見出しとともにニュースの本文が出てくる。
「えっと…何て書いてあるの?」
棋士の名前なら鈴香もひと通り読めるものの、それ以外の難しい漢字となると当たり前の小学4年生。
「まあ、要するに壬生さんが日本将棋協会の会長を辞めるってことだ」
「それは分かってるって!」
鈴香が馬場の肩を揺らす。
「引退しちゃうの?」
「いや、そうじゃあないらしい。むしろ将棋に集中するためらしい」
馬場がニュースを次々にクリックする。
今でこそ辻井孝太六冠が時の人として注目を浴びているが、その前に将棋界を代表する人として壬生善元九段のネームバリューは高い。
かつてほどの圧倒的な強さは見られないものの、「もう一度、壬生と辻井のタイトル戦を見たい」のように願っている将棋ファンも多い。
馬場はいろんな媒体が取り上げているニュースをパラパラと見る。
どれも似たり寄ったりのニュースながら、それらをつなげていくと大まかな輪郭が浮かび上がる。
「新しい将棋会館もできあがったし、キリの良いところで会長職から退くそうだ」
「でも…なんだか短くない?」
「うーん、確かにそうだな、1期だけか…」
鈴香がポンと手を叩く。
「もしかしてタイトル99期と合わせて会長1期で100期を目指してた、とか?」
「いや、さすがにそれは無いだろう」
馬場が苦笑する。
「じゃあ、クロとの対局に集中するためとか?」
「いや…、さすがに…、それは…、うーん」
馬場は「無い」と言い切れなかった。
クロとの七番勝負は、引き分けを挟んで棋士側の5敗となっている。
現役A級棋士である高村天地八段に勝った力量があるので、それなりに健闘するとは思っていたが、ここまで一方的な星の偏りになるとは思っていなかった。
馬場はクロの身内としてうれしい限りながら、長年の将棋ファンとしては複雑な心境だ。
「どうなるかなあ」
七番勝負の第6局も、それほど遠くない日に行われることが分かっている。
馬場や鈴香の心配をよそに、クロは「クワア」と鳴いて鈴香と指した将棋盤を見つめていた。
クロが鈴香と対局する際のハンデとなる駒落ちは一進一退。その日は飛車落ちだった。
飛香落ちであれば、鈴香もなんとかクロに勝てるものの…
「うーん、負けました」
「クワア」
鈴香が投了すると、クロがうれしそうに鳴いた。
「飛車落ちだと、なっかなか勝てないなあ」
「クワクワア」
クロが「頑張れ」とでも言うように鳴いた。
「中盤までは、そこそこ指せていたと思うよ」
馬場が局面を中盤に戻す。
「そっか…」
鈴香も駒を整えて中盤の難しい局面を考え直す。
「クワア」
「あー、はいはい」
クロが鳴きながら鈴香の服を引っ張る。
鈴香はチーズを取り出すと、小さくちぎってクロに差し出す。
「クワッ」
クロが大きく開けたクチバシに、鈴香がチーズを入れた。
チーズを食べたクロはおいしそうに目を閉じる。
「えっ!」
ノートパソコンを見ていた馬場が声を上げる。
「おじいちゃん、どうしたの?」
「ほら、ここ」
鈴香もノートパソコンのモニターを見た。
ニュース一覧の中に、将棋ファンなら目を引く見出しがあった。
-将棋の壬生九段、会長職を辞任-
「ええーっ!」
鈴香が驚いていると馬場がニュースの見出しをクリックした。
先の見出しとともにニュースの本文が出てくる。
「えっと…何て書いてあるの?」
棋士の名前なら鈴香もひと通り読めるものの、それ以外の難しい漢字となると当たり前の小学4年生。
「まあ、要するに壬生さんが日本将棋協会の会長を辞めるってことだ」
「それは分かってるって!」
鈴香が馬場の肩を揺らす。
「引退しちゃうの?」
「いや、そうじゃあないらしい。むしろ将棋に集中するためらしい」
馬場がニュースを次々にクリックする。
今でこそ辻井孝太六冠が時の人として注目を浴びているが、その前に将棋界を代表する人として壬生善元九段のネームバリューは高い。
かつてほどの圧倒的な強さは見られないものの、「もう一度、壬生と辻井のタイトル戦を見たい」のように願っている将棋ファンも多い。
馬場はいろんな媒体が取り上げているニュースをパラパラと見る。
どれも似たり寄ったりのニュースながら、それらをつなげていくと大まかな輪郭が浮かび上がる。
「新しい将棋会館もできあがったし、キリの良いところで会長職から退くそうだ」
「でも…なんだか短くない?」
「うーん、確かにそうだな、1期だけか…」
鈴香がポンと手を叩く。
「もしかしてタイトル99期と合わせて会長1期で100期を目指してた、とか?」
「いや、さすがにそれは無いだろう」
馬場が苦笑する。
「じゃあ、クロとの対局に集中するためとか?」
「いや…、さすがに…、それは…、うーん」
馬場は「無い」と言い切れなかった。
クロとの七番勝負は、引き分けを挟んで棋士側の5敗となっている。
現役A級棋士である高村天地八段に勝った力量があるので、それなりに健闘するとは思っていたが、ここまで一方的な星の偏りになるとは思っていなかった。
馬場はクロの身内としてうれしい限りながら、長年の将棋ファンとしては複雑な心境だ。
「どうなるかなあ」
七番勝負の第6局も、それほど遠くない日に行われることが分かっている。
馬場や鈴香の心配をよそに、クロは「クワア」と鳴いて鈴香と指した将棋盤を見つめていた。
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