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第5章 会長の思惑
第91話 カラスが第6局に向かったら(その1)
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「こんにちはー」
七番勝負第6局の対局日。
この日もHamabe TVの控室はクロ達を中心に話が盛り上がっていた。
第6局の立会人兼解説を務めるのは若手の実力者である佐藤巧叡王。
8つあるタイトルを史上初めて全制覇した辻井孝太八冠から、最初にタイトルを奪取したことで大きな注目を浴びた。
それまでの佐藤は辻井七冠との対戦成績では大きく負けが込んでいただけに、口の悪い将棋ファンの中には「奇跡」「偶然」などと言う者もいたが、その後も活躍は続いており、王座戦で辻井七冠に挑戦も決めている。
佐藤叡王が2つ目のタイトル獲得となるか。それとも辻井七冠が7つのタイトルを堅持するか。将棋ファンの注目の的だ。
また聞き手は町田麻里代女流三段、読み上げは神奈川千佳女流二段が務めることになっている。
それ以外にも多くの棋士や女流棋士が控室に集まっており、この日も朝草将棋クラブの席主である大升、常連の佐倉、そして鈴香の祖父である馬場が、色紙へのサインやスマートフォンでの記念写真に精を出してた。
そうした中でも、ひと際注目を集めているのが第6局でクロと対戦する壬生善元九段。
これまでの獲得タイトル99期、永世七冠など、将棋界の記録には事欠かない。そして先日、日本将棋協会の会長職の辞任でも話題になった。
「どうぞよろしくお願いします」
「あっと…、よろしくお願いします」
初めてクロを直接目にして緊張している壬生が右手を出すと、クロの飼い主である鈴香が代って右手を出す。
やや硬い表情のまま壬生は鈴香の右手を握った。
「クワア」
挨拶のつもりなのか、クロが大きく羽ばたいた。
「あ、ちょ、ちょっとそのまま、写真を」
壬生と鈴香、そしてクロとのスリーショットを馬場がスマートフォンで撮影する。
「家宝にします」
馬場がホクホク顔を見せると、壬生も笑顔が弾けた。
「馬場さん!その写真頂戴ね!クラブに飾らないと」
大升が催促すると佐倉も続く。
「壬生永世七冠と女性初…かもしれない竜王名人の写真になるかもね」
壬生が「ああ」と納得する。
「そうか、鈴香ちゃんは研修会に通ってるんでしたね」
「はい!」
「女流棋士じゃなくって、棋士を目指してるんだ」
鈴香は「うーん」と小首をかしげる。
「まだ、分からないけど、将棋に強くなりたいの」
鈴香の素直な物言いに、壬生も「そうか」とうなずく。
「それと、この谷原歩美ちゃんも研修会員なんですよ」
馬場に背中を押されて歩美が前に出る。
「こんな可愛いライバルもいますし、このまま2人とも伸びてくれたらと思っています」
馬場の言葉に歩美が「はい!」と手を上げる。
「壬生先生!私も握手してください!」
歩美の手を壬生が握る。
「これでちょっとは強くなれたかなあ」
歩美の言葉に皆が笑った。
多くの棋士や女流棋士が控室を出て言った後も、壬生は残って佐倉達と話をしている。
「やはり、完全に見様見真似ですか?」
馬場がうなずく。
「クロを保護して家に毎日来るようになったので、『将棋でも覚えたら?』と駒落ちから始めたら」
馬場の話を壬生が興味深そうに聞く。
「いつでもクロが傍にいて見ているようになっていて」
「なるほど」
「その後もネットの将棋対局やネットで対戦していると、いつの間にかクロが傍にいたんですよねえ」
そこで佐倉が言葉を添える。
「保護したのが、ごくごく小さい頃で、馬場さんや鈴香ちゃんを親と思い込んでるのかもしれません」
壬生が「ああ」とうなずく。
「で、その2人が将棋を指しているのを見て興味を持ったのかなあ、と」
ただし大升は同意しない。
「その理屈だと、子ガラスなら何でも覚えそうなんだけどね」
佐倉も「そうなんですよねえ」と自説に自信のないところを明らかにした。
七番勝負第6局の対局日。
この日もHamabe TVの控室はクロ達を中心に話が盛り上がっていた。
第6局の立会人兼解説を務めるのは若手の実力者である佐藤巧叡王。
8つあるタイトルを史上初めて全制覇した辻井孝太八冠から、最初にタイトルを奪取したことで大きな注目を浴びた。
それまでの佐藤は辻井七冠との対戦成績では大きく負けが込んでいただけに、口の悪い将棋ファンの中には「奇跡」「偶然」などと言う者もいたが、その後も活躍は続いており、王座戦で辻井七冠に挑戦も決めている。
佐藤叡王が2つ目のタイトル獲得となるか。それとも辻井七冠が7つのタイトルを堅持するか。将棋ファンの注目の的だ。
また聞き手は町田麻里代女流三段、読み上げは神奈川千佳女流二段が務めることになっている。
それ以外にも多くの棋士や女流棋士が控室に集まっており、この日も朝草将棋クラブの席主である大升、常連の佐倉、そして鈴香の祖父である馬場が、色紙へのサインやスマートフォンでの記念写真に精を出してた。
そうした中でも、ひと際注目を集めているのが第6局でクロと対戦する壬生善元九段。
これまでの獲得タイトル99期、永世七冠など、将棋界の記録には事欠かない。そして先日、日本将棋協会の会長職の辞任でも話題になった。
「どうぞよろしくお願いします」
「あっと…、よろしくお願いします」
初めてクロを直接目にして緊張している壬生が右手を出すと、クロの飼い主である鈴香が代って右手を出す。
やや硬い表情のまま壬生は鈴香の右手を握った。
「クワア」
挨拶のつもりなのか、クロが大きく羽ばたいた。
「あ、ちょ、ちょっとそのまま、写真を」
壬生と鈴香、そしてクロとのスリーショットを馬場がスマートフォンで撮影する。
「家宝にします」
馬場がホクホク顔を見せると、壬生も笑顔が弾けた。
「馬場さん!その写真頂戴ね!クラブに飾らないと」
大升が催促すると佐倉も続く。
「壬生永世七冠と女性初…かもしれない竜王名人の写真になるかもね」
壬生が「ああ」と納得する。
「そうか、鈴香ちゃんは研修会に通ってるんでしたね」
「はい!」
「女流棋士じゃなくって、棋士を目指してるんだ」
鈴香は「うーん」と小首をかしげる。
「まだ、分からないけど、将棋に強くなりたいの」
鈴香の素直な物言いに、壬生も「そうか」とうなずく。
「それと、この谷原歩美ちゃんも研修会員なんですよ」
馬場に背中を押されて歩美が前に出る。
「こんな可愛いライバルもいますし、このまま2人とも伸びてくれたらと思っています」
馬場の言葉に歩美が「はい!」と手を上げる。
「壬生先生!私も握手してください!」
歩美の手を壬生が握る。
「これでちょっとは強くなれたかなあ」
歩美の言葉に皆が笑った。
多くの棋士や女流棋士が控室を出て言った後も、壬生は残って佐倉達と話をしている。
「やはり、完全に見様見真似ですか?」
馬場がうなずく。
「クロを保護して家に毎日来るようになったので、『将棋でも覚えたら?』と駒落ちから始めたら」
馬場の話を壬生が興味深そうに聞く。
「いつでもクロが傍にいて見ているようになっていて」
「なるほど」
「その後もネットの将棋対局やネットで対戦していると、いつの間にかクロが傍にいたんですよねえ」
そこで佐倉が言葉を添える。
「保護したのが、ごくごく小さい頃で、馬場さんや鈴香ちゃんを親と思い込んでるのかもしれません」
壬生が「ああ」とうなずく。
「で、その2人が将棋を指しているのを見て興味を持ったのかなあ、と」
ただし大升は同意しない。
「その理屈だと、子ガラスなら何でも覚えそうなんだけどね」
佐倉も「そうなんですよねえ」と自説に自信のないところを明らかにした。
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