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第5章 会長の思惑
第92話 カラスが第6局に向かったら(その2)
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「秒読みはどうですか?」
クロ達の控室に残った壬生善元九段が尋ねる。
「うーん」
「いやあ」
「まだまだ」
馬場、佐倉、大升が苦笑いする。
「一応、指したら対局時計を押すようにはなったけど、時間が分かってないみたい」
鈴香が説明した。
「駒を動かしたら対局時計のボタンを押す、ってのがクロのルーチンに加わった感じです。対局時計を設定していなくてもボタンを押してます」
佐倉が言葉を添える。
「つまり時間が減ったら、いえ、切れたらだめだと言うのが理解できていないと」
佐倉がうなずいた。
「フィッシャールールの対局動画を見せているんですけど、なかなか…」
フィッシャールールとは、チェスの世界チャンピオンであるボビー・フィッシャーが考案したルール。
最初に設定した持ち時間を基盤として、そこから一手指すごとにいくらかの時間を加えていくルールだ。
将棋の世界においては公式戦での採用こそないものの、壬生が提唱したこともあってネット対局で採用された。これまでの秒読みや切れ負けと違ったスリリングな勝負内容が、将棋ファンの興味を集めている。
「そうかあ」
壬生が残念そうな顔をみせる。
「何とかクロさんが公式戦に参加する道はないかって模索しているんですけどね」
「わあ!」
鈴香がうれしそうな顔をする。
「クロが竜王戦や名人戦に出ちゃうの?」
ドッと笑いが起こる。
歩美が鈴香の袖を引っ張る。
「だから持ち時間が分からないと出られないんだってば」
「あ、そうか」
鈴香が恥ずかしそうに頭をかいた。
「それでも、今回の七番勝負でクロの実力は示せたんですから、何らかの形で棋士の皆さんと定期的に対局できる場が欲しいですね」
「ええ」
壬生が苦笑いを浮かべる。
「そうでないと、棋士や女流棋士の中から、クロに突撃する人が出そう、いや、もう出てるのか」
鈴香が「宙さんのことだ!」と言い当てた。
壬生が頭を下げる。
「その節は申し訳ありませんでした。何でもパーティーだったとか」
馬場や大升が「いえいえ」と両手を振る。
「皆、将棋好きばかりでしたし、いい刺激になりましたよ」
「ええ、女流棋士の根性を垣間見た気がします」
壬生が再びに頭を下げた。
「そう言っていただけると助かります」
ただし佐倉が腕組みしつつ考える。
「でも読み上げが罰ってのは、どうなんでしょうね」
壬生も「ええ」と同意した。
「将棋ファンへの指導対局なども任せましたけど、罰になってるとは言えません。むしろ『クロと対局できるのなら、それくらい…』なんて言ってる棋士や女流棋士も出てくる始末で」
またドッと笑いが起こる。
「いや、強い相手と対局したいってのは、将棋指しの性でしょう。プロならなおさらでは?」
大升の言葉に皆がうなずいた。
「その意味では、クロと対局できる鈴香ちゃんが一番恵まれているのかも」
壬生が鈴香の方を見る。
「壬生先生!」
鈴香が手を上げた。
「はい、どうしました?」
「私が棋士になるまで、引退しないでくださいね」
「鈴香、壬生先生に失礼なことを…」
あわてて馬場が止めにはいるが、壬生は優しく微笑むのみ。
「何とか頑張ってみますよ。ってことは鈴香ちゃんは棋士狙いってことでいいのかな」
「あっ…」
言葉に詰まった鈴香を壬生は「うんうん」と見守る。
「とりあえずは強くなる。その後は鈴香ちゃんの考え次第だね」
「はい!」
壬生は自分の控室に戻っていった。
クロ達の控室に残った壬生善元九段が尋ねる。
「うーん」
「いやあ」
「まだまだ」
馬場、佐倉、大升が苦笑いする。
「一応、指したら対局時計を押すようにはなったけど、時間が分かってないみたい」
鈴香が説明した。
「駒を動かしたら対局時計のボタンを押す、ってのがクロのルーチンに加わった感じです。対局時計を設定していなくてもボタンを押してます」
佐倉が言葉を添える。
「つまり時間が減ったら、いえ、切れたらだめだと言うのが理解できていないと」
佐倉がうなずいた。
「フィッシャールールの対局動画を見せているんですけど、なかなか…」
フィッシャールールとは、チェスの世界チャンピオンであるボビー・フィッシャーが考案したルール。
最初に設定した持ち時間を基盤として、そこから一手指すごとにいくらかの時間を加えていくルールだ。
将棋の世界においては公式戦での採用こそないものの、壬生が提唱したこともあってネット対局で採用された。これまでの秒読みや切れ負けと違ったスリリングな勝負内容が、将棋ファンの興味を集めている。
「そうかあ」
壬生が残念そうな顔をみせる。
「何とかクロさんが公式戦に参加する道はないかって模索しているんですけどね」
「わあ!」
鈴香がうれしそうな顔をする。
「クロが竜王戦や名人戦に出ちゃうの?」
ドッと笑いが起こる。
歩美が鈴香の袖を引っ張る。
「だから持ち時間が分からないと出られないんだってば」
「あ、そうか」
鈴香が恥ずかしそうに頭をかいた。
「それでも、今回の七番勝負でクロの実力は示せたんですから、何らかの形で棋士の皆さんと定期的に対局できる場が欲しいですね」
「ええ」
壬生が苦笑いを浮かべる。
「そうでないと、棋士や女流棋士の中から、クロに突撃する人が出そう、いや、もう出てるのか」
鈴香が「宙さんのことだ!」と言い当てた。
壬生が頭を下げる。
「その節は申し訳ありませんでした。何でもパーティーだったとか」
馬場や大升が「いえいえ」と両手を振る。
「皆、将棋好きばかりでしたし、いい刺激になりましたよ」
「ええ、女流棋士の根性を垣間見た気がします」
壬生が再びに頭を下げた。
「そう言っていただけると助かります」
ただし佐倉が腕組みしつつ考える。
「でも読み上げが罰ってのは、どうなんでしょうね」
壬生も「ええ」と同意した。
「将棋ファンへの指導対局なども任せましたけど、罰になってるとは言えません。むしろ『クロと対局できるのなら、それくらい…』なんて言ってる棋士や女流棋士も出てくる始末で」
またドッと笑いが起こる。
「いや、強い相手と対局したいってのは、将棋指しの性でしょう。プロならなおさらでは?」
大升の言葉に皆がうなずいた。
「その意味では、クロと対局できる鈴香ちゃんが一番恵まれているのかも」
壬生が鈴香の方を見る。
「壬生先生!」
鈴香が手を上げた。
「はい、どうしました?」
「私が棋士になるまで、引退しないでくださいね」
「鈴香、壬生先生に失礼なことを…」
あわてて馬場が止めにはいるが、壬生は優しく微笑むのみ。
「何とか頑張ってみますよ。ってことは鈴香ちゃんは棋士狙いってことでいいのかな」
「あっ…」
言葉に詰まった鈴香を壬生は「うんうん」と見守る。
「とりあえずは強くなる。その後は鈴香ちゃんの考え次第だね」
「はい!」
壬生は自分の控室に戻っていった。
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