クロと鈴香の将棋道-カラスが駒を見つけたら-

県田 星

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第2章 協会の困惑

第23話 カラスに負けた棋士が集まったら

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「こんにちは、高村天地たかむら てんちです!」
「こんにちは、臼木真面目うすき まじめです!」
画面中央で2人の青年が頭を下げた。
もちろんA級棋士の高村八段と相方を務める臼木アマ強豪だ。
「先生、今日は特別なゲストをお迎えしました」
「えっ?誰なんだろう」
「前回はカラスのクロさんでしたしね」
「…と言うことは、今日はネコとか?ラクダとか?」
「すごい発想ですね。でも、もっと驚くと思いますよ」
ちょっと考えた高村が尋ねる。
「もしかして宇宙人?将棋星人とか?」
「いや、それはそれで世界中がビックリするでしょう。まあ、あんまりじらしても仕方がないので、どうぞ!」
臼木に招かれて3人が登場する。
「こんにちは、富士林金也ふじばやし きんやです!」
「こんにちは、橋田勝吾はしだ しょうごです!」
「こんにちは、愛媛愛菜えひめ まなです!」
高村と臼木が拍手をする。
「ようこそいらっしゃいました」
高村に合わせて3人も頭を下げる。
その後に臼木が説明を加えた。
「皆さん、ご存じの通り大人気の将棋系動画作成者の方々です。が、それ以外に先生を含めて共通点があるんですよ」
「えっ?何だろう…」
「それは、こちらです!」
臼木が掲げたホワイトボードにはこう書かれていた。

【クロ 被害者の会】

「…ああ」
高村が渋々うなずいた。
「と言うことで、クロさんに負けた方々に集まっていただいて、七番勝負の見通しを語ってもらおうと、はい」
「まあ、仕方がないですねえ。確かに負けたんですし」

画面が切り替わって5人が横並びになる。
「さて…」
臼木が切り出そうとすると、高村が「ちょっと待った!」と話をさえぎった。
「被害者の会はともかくとして、会長には誰がなるんですか?」
「それは高村先生で良いのでは?3連敗していますし」
露骨に「3連敗」と言われて、高村の表情が曇る。
「あ、そう言うことなら」
橋田が口を挟んだ。
「実は、佐倉さんの誘いもあって、あの後も何度かお邪魔してクロと指してるんです」
他の4人から「へえ」「ほほぅ」と声が上がる。
「4枚落ちや6枚落ちも指したんですが、金銀だけでも攻めが厳しくて危うく…ってのが何度もあって」
「危うくってのは勝てたんですよね」
臼木の問いに橋田が「何とか」と答えた。
「もっとも平手(ハンデなし)は散々でした」
苦笑いした橋田に4人も「うんうん」とうなずく。
「もう二桁負けています」
「二桁と言っても、10から99までありますよね?」
愛媛に聞かれて橋田が肩を落とす。
「…そこまでは言わせないでください」
「それじゃあ『被害者の会』の会長は橋田先生で」
「ええ、引き受けましょう!」
力強い橋田の一言に笑いが起こった。

臼木の司会で七番勝負の検討に入った。
「さて、最初の相手は奨励会員の浜島和人はましま かずと三段です」
「女流は別として四段以上の棋士だけと思ってたので、意外と言えば意外ですけど、人選としては『なるほど』と」
「誰のアイデアなんでしょうね」
「壬生会長かなあ。もしくは奨励会幹事(奨励会の運営等を担当する棋士)のプッシュがあったのかも」
「問題は7人の一番手ってことで、緊張しなければ良いなあと」
「注目は必至ですしね」
「竜王戦の活躍もあったので、注目を浴びることは慣れてそうです」
「ところでクロは緊張するんでしょうか」
「緊張…させたいですねえ」

「続いて蔦本浜辺つたもと はまべ五段です」
「佐藤七段と合わせて、若手からの妥当な選抜じゃないですか?」
「反対する人はいないでしょうね」
「あー、私は蔦本五段が先鋒と読んでたので、外れちゃいました」
「いやいや、純粋に棋士だけだったら、そう考える人も少なくないと思いますよ」
「蔦本さんからは先後が分かってるので、クロさんへの対策が立てやすそうです」
「逆に言えば、シビアな戦いが求められるかも」
「浜島三段が負けた場合の連敗は避けないといけません」
「大岩名人でしたっけ?偶数局が大事って」
「ああ、聞いたことあります。さすが大名人です」

「3番手は女流の福岡五冠です」
「まあ、石川女流三冠とどっちか、ですよね」
「何でも、2人があっちむいてホイで決めたって噂が…」
「まさかあ!」
「ホントに…まさか…ねえ」
「石川さんとで女流2枠と予想していました」
「うーん、7人だと女流から1枠でしょう」
「女流2枠、若手2枠、中堅1枠、ベテラン1枠、将棋星人1枠なーんて」
「なるほど、それもあるか」
「福岡さんは振り飛車決定?」
「おそらく中飛車か四間飛車」
「あとはクロさん次第で対抗形になるか、相振りになるか」

「折り返しの4番手は佐藤巧さとう たくみ七段です」
「ここまで最悪4連敗になる可能性も」
「いやいやいやいや…」
「それが無いと言い切れない私がいます」
「それを避ける意味でも、佐藤七段に頑張って欲しいです」
「取りこぼしはないと思いたいんですけど」
「戦型として、佐藤先生は居飛車ですよね」
「まず間違いないでしょう」
「クロが受けて立っての相居飛車の凌ぎ合いが見られそうです」

「次は水瀬石也みなせ せきや九段です」
「水瀬九段の研究ハメに期待」
「どこまで研究してくるか」
「ここまでの4局も調べ尽くすでしょう」
「将棋盤の底の底まで掘り返しそうです」
「辻井八冠とのVS(ブイエス:1対1の練習将棋)もやり込んでくるはず」
「先手にしても後手にしても、手番が辻井八冠と重なるのは大きいですね」
「2人してミッチリ研究してくるはず」
「クロからすれば大きな山場かと」

「ラス前は日本将棋協会の会長かつ永世七冠の壬生善元みぶ よしもと九段ですね」
「これは見逃せない戦いです」
「壬生先生は一時の不振を完全に脱しましたしね」
「飛車を振るかどうかが見ものでしょう」
「アマは壬生先生の振り飛車を待ち望んでると思います」
「もしくはとっておきの急戦とか」
「急戦…クロさん相手に通用するでしょうか?」
「何かひねり出して欲しいものです」
「早石田とか…金沢流とか…」
「どれにしてもクロの対応知りたいです。こっそり先にやっちゃおうかなあ」

「そして最後が辻井孝太つじい こうた八冠です」
「将棋星人とカラス星人の対決です」
「辻井八冠には、もう勝ち星しか期待していません」
「人間に理解できる対局内容になるかどうか」
「今年の名局賞の有力候補、いや確定局になるかも」
「一緒に升田幸三賞も持って行かれそうです」
「クロは雄なので女流名局賞はないか…」
「AIの形勢判断が追いつけない可能性は?」
「うーん、十分ありえますね」

ひとしきり話が盛り上がった後、臼木から4人にもホワイトボードが渡された。
「それでは七番勝負の結果を予想してみましょう。クロさん側から見た勝敗を書いてくださいね」
皆が書き終えたのを確認した臼木が「せーの!」と合図をする。
5人そろってホワイトボードを見せた。
「おおう」
「ふーん」
「…ほうほう」
「へえ」
「なるほど」
互いが書いた数字を見て声を出す。

「まあ、私から行きましょうか」
臼木が自分のボードを指しながら説明する。そこには「3勝3敗1分」と書かれていた。
「まじめさん、えーと、なんか、どっちつかずの数字に思えるんですが」
「考えに考えた末の結果です」
「両方に良い顔した訳じゃないんですね」
「違います!」

「では、続いて高村先生は、と、2勝5敗なんですね」
「やはり棋士側が本腰を入れて研究してくるでしょうし、さすがにクロさんも厳しいのでは、と」
「ふむふむ、クロさんの対策はどうなんでしょうねえ」

「そして愛媛さんは4勝3敗ですね」
「いろいろ考えましたが、人間相手の将棋に慣れているクロさんが勝ち越すのではないかなって」
「確かにカラス相手に指すってのは、7人とも初めてでしょうしね」

「それから富士林五段は3勝4敗と、クロさんが負け越しの予想です」
「接戦の予想で4勝3敗と迷ったんですが、プロ側の覚悟と準備を信じたいです」
「なるほど」

「最後に橋田五段は、…なんとクロさんの7勝0敗!良いんですか?協会から怒られません?」
「良く見てください。ここ、ここ」
「あ、『希望を込めて』とありますね」
「被害者の会の会長としては、こうなったらクロに頑張ってもらって、どんどん会員を増やしてもらおうと」
ドッと笑いが起こる。
「確かに」
「その考えはなかった」
「良いですねえ」
「ドシドシ負けてもらいましょうか」
再度ホワイトボードを並べる。
「クロさんの勝ち越しが2人、棋士側の勝ち越しが2人…」
まとめに入った臼木に高村が続ける。
「で、日和見がはじめさん1人と…」
「日和見って、冷静な判断ですって!」
臼木が懸命に否定する。
「案外、臼木さんが当たるかもしれませんね」
愛媛のフォローに、臼木が「うんうん」と大きくうなずいて番組を締める。
「それでは、本日はここまで。皆さんも七番勝負を楽しみにしてください。ありがとうございました!」
5人が手を振って動画が終了した。
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