30 / 113
第3章 七番勝負の開始
第29話 カラスの七番勝負が始まったら
しおりを挟む
クロを連れた鈴香らがHamabe TVを訪れる。
既に大勢の関係者が集まっていた。
「こちらへどうぞ」
鈴香達は控室に案内される。
七番勝負の大事な初戦を迎えて、部屋は緊張した雰囲気で包まれて…いなかった。
「カワイイ!」
「似合ってるなあ」
「ホント、ホント」
対戦を前に鈴香が簡単にメイクを受けていた。
鈴香を囲んでいるのは、鈴香の両親、そして祖父母である馬場夫妻。朝草将棋クラブから席主と常連代表として佐倉と田畑。
そして歩美とカゴ。もちろん頬が白いモルモットが入っている。
「ホッペは強くなった?って言うか、将棋を分かるようになった?」
笑いながら聞いた鈴香に歩美がムッとする。
「うるさいわね。一年計画なんだから、もうちょっと待っててよ」
歩美の強がりを聞いた周囲からワッと笑い声が起こる。
トントントン
ノックを聞いた馬場が「どうぞ」と扉を開ける。
「失礼しまーす」と入ってきたのは、愛媛女流四段だった。
「愛媛先生!」
歓声が上がって、さらに賑やかになる。
鈴香と歩美が駆け寄ろうとした時、後に続いて男性が「失礼します」、さらに女性が「失礼しまーす」と入ってきた。
「滝川名人!」
「空田女流だ!」
一段と大きい歓声が上がった。
滝川光市十七世名人
史上二人目の中学生棋士であり、若干21歳で名人位を獲得。これは後に辻井八冠が更新するまで史上最年少名人の記録である。その他にも竜王などタイトル27期、一般棋戦優勝22回を誇る大棋士のひとりだ。60歳を超えても順位戦ではB級2組で活躍するなどしている。
空田伊斗女流三段
中堅の女流棋士として活躍する空田女流三段。愛地県の出身であり、辻井八冠と同じく桐本八段を師匠としていることから、辻井八冠から見ると年長の姉弟子の関係にあたる。そのため、以前は辻井孝太八冠のことを「こうちゃん」と呼んでいたとのこと。
滝川は深く頭を下げる。
「今日はお越しいただきましてありがとうございます。立会人兼解説として務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」
滝川につられて、それぞれが「こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げる。
あわてて踏みとどまった鈴香と歩美もペコッとお辞儀した。
空田が続く。
「私は聞き手を務めます。7局目に対戦するこうちゃん…っと辻井八冠のスパイの役目もあるので、じっくりとクロさんの指し手を見ていきますね」
軽いジョークに笑いが起きる。
そして愛媛が「私は棋譜の読み上げ係ね」と言った。
「ホントは7局全部を担当したかったんだけど、みーんなが手を挙げたんで、残念ですけど最初だけになりました」
またも笑い声が起きた。
その後は滝川と空田と愛媛を囲んで盛り上がる。
特に3人からサインを貰った席主は「クラブに飾ろう」とホクホク顔を隠さなかった。
「あの…滝川先生、聞きたいことがあるんですけど…」
鈴香が滝川に尋ねる。皆の視線も集まった。
「うん?何かな」
「滝川先生には、ひとりだけ弟子がいるんですよね」
「ああ、向井桂馬七段のことだね」
「どうして弟子にしようと思ったんですか?」
「それはね…」
現状、将棋の棋士や女流棋士になるには棋士と師弟関係を結ぶ必要がある。ただし全ての棋士が弟子を持っているわけではない。何人もの弟子を抱えている棋士がいる一方、全く弟子を持っていない棋士も少なくない。例えば、壬生九段は弟子の希望者が何人もいた場合に誰かを選んで誰かを選ばないようなことはしたくないとの考えを持っているため、これまで弟子を取っていないとしている。
「私はずっと弟子を持たない方針だったんですけど、弟子を取っても良いかなと思ったところに、向井君から手紙を貰ってね。何となく縁を感じて弟子にしたんだ」
「そうなんですかあ…」
考え込んだ鈴香に滝川が尋ねる。
「鈴香ちゃんは研修会に入ったんだよね。誰か希望する師匠はいるの?」
鈴香はチラッと空田を見た。
「えーっと、辻井先生に師匠になってもらえたらなあって」
視線を感じた空田が「えっ!」と叫んでしまう。
滝川は「うーん」と難しい顔をした。
愛媛は「それは…無理かも」と悩まし気に答えた。
馬場が言葉を添える。
「少し前にも話をしたんですけど、どうしても辻井八冠が良いそうで…」
空田がアドバイスする。
「じゃあ、辻井先生や私の師匠でもある桐本隆正先生はどうかな?私や辻井先生の妹弟子にもなるよ」
「実はそれも言ったんですが、どうも気が進まないようで…」
滝川も考えを述べた。
「昔のように師匠宅で住み込みの弟子になるなんてことは無くなりましたが、師弟関係を結ぶのであれば、それなりに近い距離の方が良いと思います。桐本先生や辻井八冠は愛地県出身もあって関西の所属なので、鈴香ちゃんは関東近辺の棋士が良いんじゃないかな」
空田も「そうだね」と口添えした。
「じゃあ、私やお姉ちゃんの師匠の岸村先生に紹介してあげようか?」
歩美が鈴香を誘う。
「そうか、岸村和良先生なら現役棋士のお弟子さんもたくさんいるし、鈴香ちゃんにとっても勉強になりそうだから良いかもね」
滝川も勧めたものの、鈴香は「でも…」と納得しなさそうだった。
「20代で弟子をとる棋士がいないわけでもないけど、機会があったらそれとなく辻井先生に聞いてみようか。ただ、あまり期待はしないでね」
空田の言葉に、鈴香の顔が明るくなった。
既に大勢の関係者が集まっていた。
「こちらへどうぞ」
鈴香達は控室に案内される。
七番勝負の大事な初戦を迎えて、部屋は緊張した雰囲気で包まれて…いなかった。
「カワイイ!」
「似合ってるなあ」
「ホント、ホント」
対戦を前に鈴香が簡単にメイクを受けていた。
鈴香を囲んでいるのは、鈴香の両親、そして祖父母である馬場夫妻。朝草将棋クラブから席主と常連代表として佐倉と田畑。
そして歩美とカゴ。もちろん頬が白いモルモットが入っている。
「ホッペは強くなった?って言うか、将棋を分かるようになった?」
笑いながら聞いた鈴香に歩美がムッとする。
「うるさいわね。一年計画なんだから、もうちょっと待っててよ」
歩美の強がりを聞いた周囲からワッと笑い声が起こる。
トントントン
ノックを聞いた馬場が「どうぞ」と扉を開ける。
「失礼しまーす」と入ってきたのは、愛媛女流四段だった。
「愛媛先生!」
歓声が上がって、さらに賑やかになる。
鈴香と歩美が駆け寄ろうとした時、後に続いて男性が「失礼します」、さらに女性が「失礼しまーす」と入ってきた。
「滝川名人!」
「空田女流だ!」
一段と大きい歓声が上がった。
滝川光市十七世名人
史上二人目の中学生棋士であり、若干21歳で名人位を獲得。これは後に辻井八冠が更新するまで史上最年少名人の記録である。その他にも竜王などタイトル27期、一般棋戦優勝22回を誇る大棋士のひとりだ。60歳を超えても順位戦ではB級2組で活躍するなどしている。
空田伊斗女流三段
中堅の女流棋士として活躍する空田女流三段。愛地県の出身であり、辻井八冠と同じく桐本八段を師匠としていることから、辻井八冠から見ると年長の姉弟子の関係にあたる。そのため、以前は辻井孝太八冠のことを「こうちゃん」と呼んでいたとのこと。
滝川は深く頭を下げる。
「今日はお越しいただきましてありがとうございます。立会人兼解説として務めさせていただきますので、どうぞよろしくお願いします」
滝川につられて、それぞれが「こちらこそよろしくお願いします」と頭を下げる。
あわてて踏みとどまった鈴香と歩美もペコッとお辞儀した。
空田が続く。
「私は聞き手を務めます。7局目に対戦するこうちゃん…っと辻井八冠のスパイの役目もあるので、じっくりとクロさんの指し手を見ていきますね」
軽いジョークに笑いが起きる。
そして愛媛が「私は棋譜の読み上げ係ね」と言った。
「ホントは7局全部を担当したかったんだけど、みーんなが手を挙げたんで、残念ですけど最初だけになりました」
またも笑い声が起きた。
その後は滝川と空田と愛媛を囲んで盛り上がる。
特に3人からサインを貰った席主は「クラブに飾ろう」とホクホク顔を隠さなかった。
「あの…滝川先生、聞きたいことがあるんですけど…」
鈴香が滝川に尋ねる。皆の視線も集まった。
「うん?何かな」
「滝川先生には、ひとりだけ弟子がいるんですよね」
「ああ、向井桂馬七段のことだね」
「どうして弟子にしようと思ったんですか?」
「それはね…」
現状、将棋の棋士や女流棋士になるには棋士と師弟関係を結ぶ必要がある。ただし全ての棋士が弟子を持っているわけではない。何人もの弟子を抱えている棋士がいる一方、全く弟子を持っていない棋士も少なくない。例えば、壬生九段は弟子の希望者が何人もいた場合に誰かを選んで誰かを選ばないようなことはしたくないとの考えを持っているため、これまで弟子を取っていないとしている。
「私はずっと弟子を持たない方針だったんですけど、弟子を取っても良いかなと思ったところに、向井君から手紙を貰ってね。何となく縁を感じて弟子にしたんだ」
「そうなんですかあ…」
考え込んだ鈴香に滝川が尋ねる。
「鈴香ちゃんは研修会に入ったんだよね。誰か希望する師匠はいるの?」
鈴香はチラッと空田を見た。
「えーっと、辻井先生に師匠になってもらえたらなあって」
視線を感じた空田が「えっ!」と叫んでしまう。
滝川は「うーん」と難しい顔をした。
愛媛は「それは…無理かも」と悩まし気に答えた。
馬場が言葉を添える。
「少し前にも話をしたんですけど、どうしても辻井八冠が良いそうで…」
空田がアドバイスする。
「じゃあ、辻井先生や私の師匠でもある桐本隆正先生はどうかな?私や辻井先生の妹弟子にもなるよ」
「実はそれも言ったんですが、どうも気が進まないようで…」
滝川も考えを述べた。
「昔のように師匠宅で住み込みの弟子になるなんてことは無くなりましたが、師弟関係を結ぶのであれば、それなりに近い距離の方が良いと思います。桐本先生や辻井八冠は愛地県出身もあって関西の所属なので、鈴香ちゃんは関東近辺の棋士が良いんじゃないかな」
空田も「そうだね」と口添えした。
「じゃあ、私やお姉ちゃんの師匠の岸村先生に紹介してあげようか?」
歩美が鈴香を誘う。
「そうか、岸村和良先生なら現役棋士のお弟子さんもたくさんいるし、鈴香ちゃんにとっても勉強になりそうだから良いかもね」
滝川も勧めたものの、鈴香は「でも…」と納得しなさそうだった。
「20代で弟子をとる棋士がいないわけでもないけど、機会があったらそれとなく辻井先生に聞いてみようか。ただ、あまり期待はしないでね」
空田の言葉に、鈴香の顔が明るくなった。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる