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第3章 七番勝負の開始
第37話 カラスが七番勝負の第2局に向かったら
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Hamabe TVの控室。
クロを連れた鈴香達がいろんな話で盛り上がっていた。
今回は鈴香と馬場に加えて佐倉と歩美、そして歩美の姉である菱子が付き添いとして訪れていた。
もちろんホッペも。
当初来る予定だった朝草将棋クラブの席主は「用事があって…」と欠席。
ただし「将棋クラブに飾るから…」と佐倉と菱子に色紙の束を渡していた。
「こんにちは!」
ノックの後、挨拶と共に入ってきたのは高村天地八段。
「こんにちはー」
後に増定喜多女流二段と草野小菊女流初段が続く。
「今日は高村先生の聞き手をすることになりまして…」
そう言う増定に、草野が付け加える。
「私は読み上げです」
つまり1戦目における滝川光市十七世名人と空田伊斗女流三段、そして愛媛愛菜女流四段の役割だ。
増定がにっこり笑う。
「2局目も愛媛さんが聞き手や読み上げをしたがってたんですが、私も強く希望したので。と言うか、皆が皆したがってるんですよ」
先日、愛媛が言っていた「みーんなが手を挙げたんで」を思い出した佐倉が「なるほど」とうなずいた。
「どうぞよろしくお願いします」
馬場が丁寧に頭を下げると、鈴香や歩美もそれに続く。
その横では佐倉と菱子があわてて色紙を取り出していた。
「高村先生は、やっぱり蔦本五段の応援なんですよね」
鈴香に聞かれた高村が苦笑いする。
「初戦を落としちゃったしねえ。日本将棋協会の棋士としては蔦本さんに勝って欲しいんだけど…」
鈴香は「えーっ!」と不満そうな顔をする。
「でも、クロ被害者の会の会員にも増えてくれないかなと」
高村の答えで部屋が笑いに包まれた。
「まあ、クロさんの強さは身を持って知ってるからね」
歩美が「私も知ってるー」と手を上げた。
「蔦本さんがどんな対策を練ってきたかも楽しみだし、しっかり解説させてもらいます」
「はい、チーズ」
増定と草野はクロを挟んでスマホで記念写真を撮った。
好物である「チーズ」と聞いたクロが周囲を見回したものの、誰からもチーズを貰えそうにないと気づいてか、ガッカリしたように「クワァ」と弱々しく鳴く。
「せっかくの両手に花なんだけど、クロには花よりチーズだな」
馬場の言葉にまたも笑いが起きた。
さらにクロを囲むように高村が加わって写真を撮る。
その場でネットに投稿すると、高村は「おお!」と声をあげた。
「どうしたんです?」
尋ねた佐倉に、高村はスマートフォンの画面を見せる。
スマートフォンからは着信音が何度も鳴る。高村の投稿を見たファンから、次々に反応が寄せられているためだ。
「皆さん、反応が早いです」
「注目しているファンが多い証拠。解説する高村先生も責任重大ですね」
佐倉に言われた高村が大きくうなずいた。
「ところで…」
高村が声を小さくして佐倉に話しかける。
「先日の棋譜もあってか、蔦本さんは角頭歩振り飛車に絞って研究したんだそうです」
「そうかあ」
佐倉が腕組みする。
クロは目新しい戦法を好むのではないかと言うのは、あくまでも佐倉の推測に過ぎない。それを裏付けるために、わざわざ平手でクロに挑んで角頭歩の戦法を選択した。
結果としてクロに負けてしまったが、それは予定の内。本当の目的は七番勝負の2局目でクロがどんな戦法を選ぶかを見届けること。クロが角頭歩振り飛車を指せば、推測が当たったことになる。
「なので、佐倉さんこそ責任重大ですよ」
高村が冷やかす。
「いやあ、私は『そうじゃないかなあ』って可能性を考えただけで…」
「でも、あの棋譜と動画とメモを読んだら、佐倉さんの可能性に賭けたくなりますよ。しかも後手番ですし」
「それを言われると弱いです。もし読みが外れたら、蔦本先生に土下座しましょうか」
「その時は蔦本さんの地力に期待しましょう」
佐倉との話で盛り上がる高村に菱子が話しけかけた。
「高村先生、色紙をお願いできますか?」
「おっ、いいよ。確か君は奨励会員だったよね。谷原さん、だったかな?」
菱子は「はい」とうなずく。
「今は3級です」
「そうなんだ。女性で奨励会から四段になる人が出るのも間近かな」
「いえ、まだまだです」
話をしながら高村は色紙に「氣宇壮大」と揮毫した。
「氣宇壮大」とは「心や度量が並外れて大きい様子」を意味する言葉。一般に使われる「気」ではなく、旧字体の「氣」と書くのが高村流。時には「氣」の一文字だけを大きく色紙に書くこともある。
「あっ!」
書き終わった色紙を見て菱子が声をあげる。
「うん?」
高村が不思議そうな顔をした。
「実は、私ではなくって、朝草将棋クラブ宛てだったんです」
「そうか…」
「氣宇壮大」の横には「谷原菱子さんへ」と書かれていた。
「まだ色紙があるので、こちらにも是非」
佐倉が色紙を差し出した。
「よかったあ」
高村が安心したのを見て、またも笑いが起こった。
クロを連れた鈴香達がいろんな話で盛り上がっていた。
今回は鈴香と馬場に加えて佐倉と歩美、そして歩美の姉である菱子が付き添いとして訪れていた。
もちろんホッペも。
当初来る予定だった朝草将棋クラブの席主は「用事があって…」と欠席。
ただし「将棋クラブに飾るから…」と佐倉と菱子に色紙の束を渡していた。
「こんにちは!」
ノックの後、挨拶と共に入ってきたのは高村天地八段。
「こんにちはー」
後に増定喜多女流二段と草野小菊女流初段が続く。
「今日は高村先生の聞き手をすることになりまして…」
そう言う増定に、草野が付け加える。
「私は読み上げです」
つまり1戦目における滝川光市十七世名人と空田伊斗女流三段、そして愛媛愛菜女流四段の役割だ。
増定がにっこり笑う。
「2局目も愛媛さんが聞き手や読み上げをしたがってたんですが、私も強く希望したので。と言うか、皆が皆したがってるんですよ」
先日、愛媛が言っていた「みーんなが手を挙げたんで」を思い出した佐倉が「なるほど」とうなずいた。
「どうぞよろしくお願いします」
馬場が丁寧に頭を下げると、鈴香や歩美もそれに続く。
その横では佐倉と菱子があわてて色紙を取り出していた。
「高村先生は、やっぱり蔦本五段の応援なんですよね」
鈴香に聞かれた高村が苦笑いする。
「初戦を落としちゃったしねえ。日本将棋協会の棋士としては蔦本さんに勝って欲しいんだけど…」
鈴香は「えーっ!」と不満そうな顔をする。
「でも、クロ被害者の会の会員にも増えてくれないかなと」
高村の答えで部屋が笑いに包まれた。
「まあ、クロさんの強さは身を持って知ってるからね」
歩美が「私も知ってるー」と手を上げた。
「蔦本さんがどんな対策を練ってきたかも楽しみだし、しっかり解説させてもらいます」
「はい、チーズ」
増定と草野はクロを挟んでスマホで記念写真を撮った。
好物である「チーズ」と聞いたクロが周囲を見回したものの、誰からもチーズを貰えそうにないと気づいてか、ガッカリしたように「クワァ」と弱々しく鳴く。
「せっかくの両手に花なんだけど、クロには花よりチーズだな」
馬場の言葉にまたも笑いが起きた。
さらにクロを囲むように高村が加わって写真を撮る。
その場でネットに投稿すると、高村は「おお!」と声をあげた。
「どうしたんです?」
尋ねた佐倉に、高村はスマートフォンの画面を見せる。
スマートフォンからは着信音が何度も鳴る。高村の投稿を見たファンから、次々に反応が寄せられているためだ。
「皆さん、反応が早いです」
「注目しているファンが多い証拠。解説する高村先生も責任重大ですね」
佐倉に言われた高村が大きくうなずいた。
「ところで…」
高村が声を小さくして佐倉に話しかける。
「先日の棋譜もあってか、蔦本さんは角頭歩振り飛車に絞って研究したんだそうです」
「そうかあ」
佐倉が腕組みする。
クロは目新しい戦法を好むのではないかと言うのは、あくまでも佐倉の推測に過ぎない。それを裏付けるために、わざわざ平手でクロに挑んで角頭歩の戦法を選択した。
結果としてクロに負けてしまったが、それは予定の内。本当の目的は七番勝負の2局目でクロがどんな戦法を選ぶかを見届けること。クロが角頭歩振り飛車を指せば、推測が当たったことになる。
「なので、佐倉さんこそ責任重大ですよ」
高村が冷やかす。
「いやあ、私は『そうじゃないかなあ』って可能性を考えただけで…」
「でも、あの棋譜と動画とメモを読んだら、佐倉さんの可能性に賭けたくなりますよ。しかも後手番ですし」
「それを言われると弱いです。もし読みが外れたら、蔦本先生に土下座しましょうか」
「その時は蔦本さんの地力に期待しましょう」
佐倉との話で盛り上がる高村に菱子が話しけかけた。
「高村先生、色紙をお願いできますか?」
「おっ、いいよ。確か君は奨励会員だったよね。谷原さん、だったかな?」
菱子は「はい」とうなずく。
「今は3級です」
「そうなんだ。女性で奨励会から四段になる人が出るのも間近かな」
「いえ、まだまだです」
話をしながら高村は色紙に「氣宇壮大」と揮毫した。
「氣宇壮大」とは「心や度量が並外れて大きい様子」を意味する言葉。一般に使われる「気」ではなく、旧字体の「氣」と書くのが高村流。時には「氣」の一文字だけを大きく色紙に書くこともある。
「あっ!」
書き終わった色紙を見て菱子が声をあげる。
「うん?」
高村が不思議そうな顔をした。
「実は、私ではなくって、朝草将棋クラブ宛てだったんです」
「そうか…」
「氣宇壮大」の横には「谷原菱子さんへ」と書かれていた。
「まだ色紙があるので、こちらにも是非」
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