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流石と言うべきか、単純に興味が無いのか。九ノ瀬先生から私に、付き合っている人が居るのかという質問をされた事が無い。
所謂そういう質問はパワハラにあたり、私も聞かれない事に安堵していた。
世の中には過剰に好きな男性を支えたい、尽くしたいという女性も多い。
そういう女性と、そうされたい男性。二人が上手くマッチングされれば良い事だ。
私はというと、好きな人に良く思われたい気持ちは人並みにある。だから優しくしたいし、喜んで貰いたい。
繰り返し強調するけれど、普通にそういう気持ちがある程度だ。
牛丼なら並盛り、コーヒーショップならトールサイズ。そのくらい。
依存したい強い気持ちを体現する男性を恋人に求めた事もないのに。
生き物だから変わる事もある。本人の気質もあるけれど、恋人だった男性が揃いも揃って変わってしまうのは、多分私のせいなのだ。
「じゃあ、とわ子ちゃんと付き合う男、みーんな依存しちゃうんだ!」
三田先生はテーブルに届いたばかりの生ビールのジョッキを煽ると、まるで面白い事を聞いたとばかりに笑顔になる。
「依存というか、私が甘やかし過ぎちゃうんです。そのうちに彼氏が赤ちゃんみたいになっちゃうのが嫌になってしまって……もう恋愛はしばらくお休みします」
そのタイミングで、お通しに出された枝豆の盛られた小鉢に手を付けなかった九ノ瀬先生が、私の前へそれをすいっと寄せてきた。
大勢のサラリーマンで賑わう立ち呑み屋で、小さなテーブルを陣取った私達は今夜ささやかな祝勝会をあげている。
難航していた案件が、時間を掛けて双方が納得のいく形で収まったのだ。
個人的に資料集めをお手伝いしてくれた三田先生の希望で、場所は事務所近くで人気の店になった。
静かなバーが良いと言っていた九ノ瀬先生は最初は嫌だと言っていたけど、結局いつも通りに流れでここに居る。
最初の乾杯の前から明るい三田先生、いつも通りに物静かな九ノ瀬先生。それに私だけ。
大きな案件が終わった安堵感と疲れた身体に気持ちよく回る酔いに、つい気が緩み三田先生の語る恋愛観を聞いた流れで自分の話をしてしまった。
「それじゃ、その男と別れるのも大変だったでしょ」
「まぁ、それなりに。一度は余りにも待ち伏せをされるので、引っ越しもしました。今の事務所なら押し掛けもされないので、安心して働けます」
はい。この話は終わりました、私は食べるのに集中しますとばかりに先生がくれた枝豆に手を伸ばす。このお店の枝豆は美味しくて大好きだ。
「九ノ瀬は相変わらず、モテるくせに彼女出来る気配が無いな。紹介しようか?」
「……心配しなくていい」
「じゃあ、とわ子ちゃん! オレが保証する良い男を紹介してあげるよ」
大丈夫です、と慌てて断る前に、九ノ瀬先生が「余計なお世話」と話を終わらせてくれた。
その後、九ノ瀬先生は熱燗をくいっと飲みながら、三田先生の趣味の話を時々相槌をうちながら聞いていた。
狭い店内に賑わう客。たまに先生と腕が触れ合ってしまう距離にドキドキする。
悟られるな、平常心を保て。
この事務所で長く働く為には、そわそわと騒ぎ始めそうなこの気持ちを、先生に知られちゃダメだ。
焼鳥に煮込み、鶏皮のパリパリサラダ。締めの小さなラーメンを、先生から意識を反らす為に啜る私は、そのとき全然気付いていなかった。
九ノ瀬先生が事務所で見せる、何かを考え込む時の仕草に。
所謂そういう質問はパワハラにあたり、私も聞かれない事に安堵していた。
世の中には過剰に好きな男性を支えたい、尽くしたいという女性も多い。
そういう女性と、そうされたい男性。二人が上手くマッチングされれば良い事だ。
私はというと、好きな人に良く思われたい気持ちは人並みにある。だから優しくしたいし、喜んで貰いたい。
繰り返し強調するけれど、普通にそういう気持ちがある程度だ。
牛丼なら並盛り、コーヒーショップならトールサイズ。そのくらい。
依存したい強い気持ちを体現する男性を恋人に求めた事もないのに。
生き物だから変わる事もある。本人の気質もあるけれど、恋人だった男性が揃いも揃って変わってしまうのは、多分私のせいなのだ。
「じゃあ、とわ子ちゃんと付き合う男、みーんな依存しちゃうんだ!」
三田先生はテーブルに届いたばかりの生ビールのジョッキを煽ると、まるで面白い事を聞いたとばかりに笑顔になる。
「依存というか、私が甘やかし過ぎちゃうんです。そのうちに彼氏が赤ちゃんみたいになっちゃうのが嫌になってしまって……もう恋愛はしばらくお休みします」
そのタイミングで、お通しに出された枝豆の盛られた小鉢に手を付けなかった九ノ瀬先生が、私の前へそれをすいっと寄せてきた。
大勢のサラリーマンで賑わう立ち呑み屋で、小さなテーブルを陣取った私達は今夜ささやかな祝勝会をあげている。
難航していた案件が、時間を掛けて双方が納得のいく形で収まったのだ。
個人的に資料集めをお手伝いしてくれた三田先生の希望で、場所は事務所近くで人気の店になった。
静かなバーが良いと言っていた九ノ瀬先生は最初は嫌だと言っていたけど、結局いつも通りに流れでここに居る。
最初の乾杯の前から明るい三田先生、いつも通りに物静かな九ノ瀬先生。それに私だけ。
大きな案件が終わった安堵感と疲れた身体に気持ちよく回る酔いに、つい気が緩み三田先生の語る恋愛観を聞いた流れで自分の話をしてしまった。
「それじゃ、その男と別れるのも大変だったでしょ」
「まぁ、それなりに。一度は余りにも待ち伏せをされるので、引っ越しもしました。今の事務所なら押し掛けもされないので、安心して働けます」
はい。この話は終わりました、私は食べるのに集中しますとばかりに先生がくれた枝豆に手を伸ばす。このお店の枝豆は美味しくて大好きだ。
「九ノ瀬は相変わらず、モテるくせに彼女出来る気配が無いな。紹介しようか?」
「……心配しなくていい」
「じゃあ、とわ子ちゃん! オレが保証する良い男を紹介してあげるよ」
大丈夫です、と慌てて断る前に、九ノ瀬先生が「余計なお世話」と話を終わらせてくれた。
その後、九ノ瀬先生は熱燗をくいっと飲みながら、三田先生の趣味の話を時々相槌をうちながら聞いていた。
狭い店内に賑わう客。たまに先生と腕が触れ合ってしまう距離にドキドキする。
悟られるな、平常心を保て。
この事務所で長く働く為には、そわそわと騒ぎ始めそうなこの気持ちを、先生に知られちゃダメだ。
焼鳥に煮込み、鶏皮のパリパリサラダ。締めの小さなラーメンを、先生から意識を反らす為に啜る私は、そのとき全然気付いていなかった。
九ノ瀬先生が事務所で見せる、何かを考え込む時の仕草に。
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