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しおりを挟む「ここのボタンは、あと幾つまで外していい?」
私を膝の上に向かい合うように座らせた先生が、三つほどボタンの外されたブラウスの合わせに指を掛ける。
あと少し、もう少しだけズラされたら、身に付けているブラジャーに包まれた胸が先生から見えてしまう。
現に私からは薄いラベンダー色のレースの端がチラチラと見えてしまう瞬間があって、絶対に九ノ瀬先生からも見えていると確信が出来つつある。
「……ん、先生はどこまで外してみたいんですか?」
先生が私を試すような事を言うから、こっちだって言質を取りたくなる。
後からどっちから誘ったとか悪かったとか、そんな事に発展するとは思えないけれど。
私は、先生が私を欲しがる顔が見たい。言葉で聞きたい。
先生の膝の上でわざと胸を強調するように身動ぐと、ソファーは二人分の体重でギシリと音を立てて軋んだ。
九ノ瀬先生に肩を貸すかたちで事務所まで戻ってくると、私の酔いはほぼ覚めてしまった。
事務所の鍵を開け、明かりをつけずにオフィスや相談室とは違う、もう一つの部屋へ進む。
この部屋は、先生が仮眠に使ったり私がお昼を食べたりする、プライベートスペースだ。
八畳ほどあるスペースには、横になって眠れるほどの大きなソファー。ブランケットが畳まれて置いてある。
小さなテーブルと流しに着替えが入ったロッカー、冷蔵庫に電子レンジ。レンジは来客中は使用禁止になっている。
深刻な相談中に、チーンなんて鳴ってしまったら場の雰囲気がおかしくなってしまうから。
実際、以前に資料を届けに来てくれた三田先生がやらかして、かなり九ノ瀬先生に怒られていた。
広がる唐揚げ弁当の良い匂いに、その日から『匂いのある食べ物の持込禁止』も加わった。
部屋を開けると、ブラインドの隙間から繁華街らしいカラフルな光が、暗い部屋に射し込んでいた。
酔った先生。今までで一番近い二人の距離、ぴったりくっついた所が、立ち呑み屋から事務所までの間ですっかり馴染んでしまっていた。
身体を離すのは正直寂しいけれど、夢みたいな時間はここでお終い。
明日先生が今日の事を覚えていても、きっと大人の対応で触れずにいてくれるだろう。
「いまお水持ってくるので、横になっても、まだ寝ちゃだめですよ」
「うん……」
先生をソファーに座らせると、今まで触れていた部分がすっと冷えた。
身体も軽くなった分、心が少し重くなる。
さぁ、気持ちを切り替えなくちゃ。
そう思った瞬間、私の腕は先生に掴まれて、あっという間に向かい合いに膝の上に座らされてしまった。
ブラインドの隙間からカラフルな光が微かに散る薄暗がりの中で、無言で見つめ合う先生と私。
先生の太ももがお尻に当たる。
布越しの肉のこの感触が、否応なしにこの先を意識させる。
私達は子供じゃないし、まだなにも体験した事のない大人とも多分違う。
だから黙ったままでも、伺うような眼差しだけで、この先どう展開するのかも予想がつく。
その気が無いなら、諭したり突き飛ばして帰ればいい。
私の手首を掴む先生の手だって、いまならそれを許してくれるように力がゆるんでいる。
薄暗い事務所で二人きり。
軽く手首を掴んでいた先生の手が、私の頬をそっと撫でる。
先生としたら、明日からはなにか変わるのか。
それとも、なんにも変わらないのかな。
先生の手を振りほどく理由が全く思いつかなくて、私は深く考えることをやめた。
やってみないとわからないことなんて、世の中にはあふれているから。
その気になったから、私はゆっくりと意思を示す為に目を閉じた。
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