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1章⭐︎リオンシュタット初心者編⭐︎

精霊の森にいる番犬

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-side オーウェン-



「オーウェン様、朝です」
「んん……!?はーー!ぐっすり寝れた」


 バーベキューの翌日、今日はリオンシュタットに来て間もない頃、エリーゼさんに、頼まれていた精霊門を開く日。
 昨日のうちに、トムとレムがエルフ達とエリーゼさんを呼んでくれていたみたいなので、[クリーン]という浄化魔法で、身を清め、着替えと朝ご飯を済ませて迎えに行く。


「エリーゼさん、ブラン。エルフの長老さんも、朝早くに来ていただいて、申し訳ございません。ようこそいらっしゃいました」
「なーに、元はと言えばあたしらが依頼したことだからね。こちらこそ、大変な依頼を引き受けてくれてありがとう」
「オーウェン様、シルフ様、本日は、どうもよろしくお願いするのじゃ」


 エリーゼさんと、エルフの長老と挨拶して、精霊門があるという、我が家の庭にある森へ向かう。精霊門があるという事で、森のことは今度から、精霊の森とこれからは呼ぼうか。


『さてと……、ではでは、これから精霊の門を開きたいと思う!』
『『わーい!』』
「ニャーニャー!」
「キャンキャン!」


 パチパチパチパチ……!
 みんなで歩いていたので、途中で、何事かと精霊の森の住人達がわらわらと付いてきた。


『主人、門を開くためには聖属性の魔法が必須だ。力を貸して欲しい』
「もちろんだ。よろしくな!」


 既にかなりお世話になっている従魔のためだ。頑張ろうではないか。


『精霊の国に入るためには、まず、森の案内人が必要なんだ』


 シルフが精霊の国へ入るための手順を説明し始める。


「森の案内人?」
『ああ。精霊門を開くためには、洞窟を通る必要がある。そのためには、精霊門の番人、フェアリーケロベロスの出す試練をクリアしなければならない』
「ケロベロス……?」


 地獄の門番をやっている、恐ろしい姿を思い浮かべる。


『言いたいことは分かるよ。君たちが想像するケロベロスは、地獄の門の、番犬の事だろう?フェアリーケロベロスは、その対になる存在だ。精霊門を守ってくれている強くて、可愛いワンちゃんだよ』
「へーー!」
『そーそー。で、普通は試練受けないといけないけれど、今回は僕もいるから、顔パスでおーけーだと思う』
「普通だと、どういう試練があるんだ?」
『それは、内緒。精霊王の一人として、依怙贔屓はよくないと思うからね。試練はフェアでないと!』


 それもそうか。しかし、本来なら、受けるはずの試練を受けなくて済むのはとても助かる。


『それで、フェアリーケロベロスへの行き方だけれど……』


 シルフが言いにくそうにしている。


「……?」
『その……、食べたくはないだろうけど、スターデュストポテトを食べて、不思議な国へ一緒に行ってもらおうと思う。フェアリーケロベロスの住処なんだ』
「おいいいいい!」


 絶対食わないからなって言ったのに、いや、言ったから、こうなったのか?
 どうやら、俺は、知らず知らずに盛大なフラグを立ててしまっていたらしい。




 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢




「シルフ。本当に食べるんだな……?本当に食べるんだな?これを」
『うん、大丈夫、今回は僕が同行しているから、みんなで一緒に食べれば、僕が不思議な国を案内できるはず!』
「分かった。えーい、ままよ!」


 俺は、震える手を押さえながら、意を決して食べる。


『あ、待って、主人!まだ、説明が終わってない……!』


 は……?



 ♢  ♢  ♢  ♢  ♢




『ワオーーーーン!!ようこそ、不思議な国へ!人間!歓迎するケロ!」』


 眩い光の後、目の前には白いもふもふとした毛で覆われた、三つの首を持つ大きな犬のような生き物が現れ、大きな声で歓迎の言葉を放った。


「こんにちは、その姿、ケロベロス……だよな?」
『あれ?迷い込んできた人間を送り返してあげようと思って見にきたけれど、僕のことをご存知……っていうか、この香りは……!シルフの兄貴の香りがするケロ!知り合いケロか!?』
「あ、ああ。一応。シルフは俺の従魔だ。」
『なんと……!あのお方が人間の従魔ケロ!変わっちまったなあケロ!』
「は、はあ?」


 なんだろう、どこからツッコミを入れて良いかわからない。どうして、犬のくせに語尾がカエルっぽいのかとか、シルフの事を兄貴?と思っているとか、変わっちまったなあなんて、どこで覚えてきたのかとか……。


『ここは、不思議な国だから、不思議なことが起こるケロ~!何も疑問に思わなくても良いケロ~!』
「その返答は、強すぎるだろ」


 何聞かれても、不思議ケロ~!といえば、この国では全て、ごり押してしまえるのではないか?


「ところで、フェアリーケロベロス……、なんだよな?」
『そうケロ!ケロベロス、と言われることもあるけど、ここではケロって呼んでくれればいいケロ!』
「分かった。俺のことは、オーウェンと呼んでくれ」
「分かったケロ」


 ケロは三つの首の中の一つを使って、俺に向かって親しみを込めて語りかけてくる。
 他の二つの首は、楽しそうに周囲を見回している。
 それにしても、なんか、さっきから会話の中で、引っかかることがあるような……、気のせいだろうか?


「ケロ、今日はシルフたちも一緒に来るはずだったんだが、知らないか?」
『知らないケロー』
「一緒に、精霊の国へ行こうと思っていたんだが……」
『ああ、それなら中で合流すれば良いケロー。先に、試練を受けて待っているケロー』


 ケロは再び三つの首を合わせて言った。
 そういえば、シルフがいないと、試験は顔パスにはならないのか。ということは、受けなければならない……、と。
 試練のことを思い出し、俺は少し緊張しながら尋ねた。


「試練って、具体的には何をすればいいんですか?」
『内容は、心が正直であるかどうかを見るケロ』
「心の正直さ……」
『そうケロ。心の奥底に隠している嘘や欺瞞、それを隠すための詭弁や策略ケロ。それらを忘れて、純粋な心で試練に臨んでみてほしいケロ』


 ほうほう。
 ……!さっきからの違和感はそれか!
 このフェアリーケロベロスに俺の心を読まれて会話されている感じがしたのだ。
 つまり、嘘は通じないと。


『ほほう!すごいケロ!よく分かったケロ!賢いケロ!気に入ったケロ!もう試験パスで良いケロ!』
「はっ……?え……!?ちょ……!」
 

 こうして、何事も無かったように、俺は精霊門の場所まで飛ばされたのだった。
 本当に、なんだったんだ?今の。




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