後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり

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第十章 黎明

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高床に寝転がる。心が読まれていると思うと、ビクビクしてしまう。余計な事を考えないようにしなければならない、例えば奕世イースのこととか。私の考えていた事が筒抜けとなっていたのなら、と、過去の事を思い出そうとする。嘘をついていなくても、何度も脳裏に浮かべていた。それらもすべて読まれていたのだろうか。

宮女に寝巻きの長衣を纏わされた陛下は、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「警戒してるね、雲泪ユンレイ
固まって緊張をしている私を見て、声をかけてくる。私は心頭滅却を目指している。
「大丈夫だ、心が読めるわけじゃない」
「でも、今だって…っ」
見透かされているようで、微笑む陛下に畏怖を感じる。悲しそうな目で彼は続けた。
「一言一句心が読めているわけじゃない、大体何を考えてるかが分かるだけ。それに雲泪ユンレイは正直者で表情が分かりやすいから」
奕晨イーチェンも床へ入ってくる。

「怖い?」
私の身体に甘えるようにひっついてくる。陛下は背後から私を抱きしめて、うなじの匂いをかいでいる。
「怖がってる。小さい頃からなんだ。だから生き残れた」

私は振り返って奕晨イーチェンを見る。子供の時の話をしてくれるのは珍しい。
「これは妖術なんかじゃないよ。ただ相手を観察してるだけ。その時の反応や声色、目の位置、身体の反応で無意識に想像して判断してるだけ」
撫でてくる手はいつものように優しい。
「特にそなたのことは好きだから、知りたくない事を沢山読み取れてしまった。母の時と同じようにね」

奕晨イーチェンのことがもっと知りたい。純粋にそう思った。
「昔、母が代わりに毒を飲んだ話をしたね。あれは重要な部分がぬけている。母は仕掛けられた毒を毒とわかっていながら、自らそれを飲んだのだ」
「…なぜ」
「父に蹂躙され、後宮に閉じ込められる日々に耐えられず、あの草原に帰りたかったかもしれない」
私は奕世イースとかけた青空の下の果てない草原を思い出していた。
雲泪ユンレイ貴妃グイフェイになりたくなかったのと同じ。朕も皇帝になりたかったわけじゃない。生き残る方を選び続けたら最後は玉座しか空いていなかっただけだ」

奕晨イーチェンは自虐的に笑った。泣いているようにもみえた。

銀蓮インリェン小龍シャオロンを幸せに出来なかった。皇帝だというのに、この庭に咲く花ひとつ、自由にすることも儘ならぬ。」
「私も銀蓮インリェンを救えなかった」
銀蓮インリェンとの交換を持ちかけてきたそうだ」

初耳だった。

「子供も馬もいらぬそうだ。銀蓮インリェンとそなたを交換してほしいらしい。占領している北峰ベイフォンも解放するそうだ」
北峰ベイフォンを占領しているの?」
「このままだと蔡北ツァイベイも落ちるだろう」

その事実は騎馬民族の圧倒的な機動力の凄まじさを思わせた。
「我が父は、20年前雲峰ユンフォンと我が母の交換に応じなかった。そのせいでそなたの母も銀蓮インリェンの母も故郷を失った。母は兄や龔鴑ゴンヌの元へ帰りたかったろうに、母は後宮の毒で死に結局父は母を手に入れられなかった」
なぜ、そんな話を始めたのか、正直分からなかった。ただ、もしかしたらという予感があった。

「陛下は私を引き渡すの?」
「ああ、そなたの幸せがあちらにあるなら」

沈黙が部屋を包む。

「沈黙は是だろう」
奕晨イーチェンの射抜くような眼差しが私を貫いていた。

「我が兄がそなたを愛しているのは誠らしいな」
「そんなわけないわ、だって…」
言いかけて私は失言に気がつく。
「誠が否かで、人生に影響が及ぶなら、雲泪ユンレイは彼を愛しているということだ」

皇帝陛下に嘘がつけない。
それは呪いのようなものだった。

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