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第五章.栄光と堕落は紙一重
26.淑女として
しおりを挟む生まれながらの高潔はない。
その言葉が今にしてみれば良くわかるかもしれない。
「お止めください」
私は知っている。
「このような場所でそのようなお言葉をお慎みください。フランチェスカ学園の生徒として、人として恥ずべきことです」
「はぁ?」
「私はレントン殿下と親しくさせていただいておりますが、そのような関係ではございません。何より、そのような言葉を軽々しく言うのは淑女としてあるまじき行為です」
私は高位貴族でありながら、苦しんでいる人を何人も見て来た。
レイラ様にベルンハルト様は身分がありなあらも苦しみながらもできる事をされて来た。
何より、一番傷ついていたエリオル様は笑っておられた。
大切な友人をこれ以上悲しませたくないと言って、辛い時こそ笑顔で耐えていらした。
それは強さだと思う。
だから私は、自分の力で戦わなくてはならない。
だって、ずっと守ってもらっていたんだから!
「平民が何を…」
「立場は関係ありません。憶測で決めつけ、王太子殿下を陥れるような真似はお止めください。他人の事情に立ち入る等論外です。彼女と婚約者の方達の事情に赤の他人の貴女が口を挟むことは許されません…身の程を弁えないのは貴女です」
「なんですって!」
「この学園では身分関係なく平等です。確かにランクによっては格差はありましょうが…それは在学中に努力し地位を得た方の特権です。特権と共に義務も果たしてこそ許されるのです」
「偉そうに言ってるんじゃないわよ…この!」
私は貴女を認めない。
義務を果たさず特権だけを振りかざすような人を認めない。
「平民の分際で…偽物の聖女の癖に!」
「貴様ぁ!」
咄嗟に魔法を使われ、私は結界魔法が間に合わないと思った矢先だった。
「そこまでだ!」
バシッ!
見えない壁が私を守り、カルメンさんは弾かれる。
「きゃあ!」
「悪いが、これ以上の暴行は許されない」
低い声が響く。
そこには、顔を顰めたエリオル様がいた。
「構内で暴力行為、並びに無許可で魔法を使うことは禁じられている。にも拘わらず規則を破るとはどういうことだ」
「違います。エリオル様…この平民が!」
「我が校は貴族、平民の差別は許していない…言葉を慎んでくれ」
「でも!」
普段のエリオル様らしくない言葉だった。
マリエさんの時でさえ、ここまで酷い言い方しなかったはずなのに。
「エリオル様!私…」
「シリガリー嬢、君は新入生でありながら上級生であり、女子生徒代表でもある彼女に対して随分と無礼を働いたそうだな。あげく、そこにいる、シンパシー嬢を辱めるとはどういう了見だ。それから彼女の婚約者と婚約解消になったのは家同士の事情だ」
「え…」
「彼女が後継ぎになった故に、婚約を解消して婿を迎えなくてはならなくなっただけだ」
公衆の面前で晒し者にされていたシンパシーさんは顔を上げる。
「兄君の事をお悔やみ申し上げます。シンパシー嬢」
「エリオル様…」
「突然の事で大変だったでしょう…かけるお言葉もありません。できることがあれば何でも相談してください」
「あっ、ありがとうございます」
泣きそうだった彼女はエリオル様の言葉で気丈に振る舞い、泣くことはなかった。
それ所か、あと少しで傷物令嬢にされそうになってた状況を変えた。
「そうだったのね…」
「お家の事情で婚約解消になっていたのね…じゃあ、既に二人は赤の他人だったのね」
「なのに…カルメン様はなんて酷いことを!」
あることないことを吹聴したカルメンさんの立場は一気に悪くなる。
下を向いて肩を震わせるカルメンさんは反省する所か、エリオル様を睨みつけていた。
この時私はとても嫌な予感がしてならなかった。
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