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第六章.悪役令嬢と悪女
8.癇癪
しおりを挟む公で恥を曝され、怒りを抑えきれないでいる中、空気を読まない女が一人。
「ちょっと、冗談じゃないわよ!止めてくれる?」
「マリエ様?」
「落ちぶれた貴族でしかも、子爵なんて私の家以下じゃない!冗談じゃないわ…こんな貧乏で顔だけの男なんてこっちから願い下げよ」
「何を…」
唖然とするマルスにお構いなしだったマリエは自分の置かれた状態を解っているのか。
学園内では猫かぶりをしていたのに、ここには取り巻きや、数少ない信者もいたのに。
それすらも敵に回す行為をしているのに気づかない。
本当に馬鹿じゃないか?
「見た目が素敵で、高位貴族だと思ったのに…これじゃあ本当に見た目だけじゃない!愛人にもならないわ。しかも、落ちぶれた貴族の情夫だなんて」
「情夫だと!」
「だってそうじゃない、聞こえはいいけど…ようするに兄の婚約者と不義を働いて自滅したんでしょ?頭が悪いわ‥そんな男と一緒にいても良い思いはできないし?」
「ちょっと。誰がこんな男を情夫にするですって?私にだって選ぶ権利はあるわ…こんなスキルが立派なだけでの男なんて価値が無いわ」
「私も要らないわ。返すわ」
「私だってこんな男要らないわよ!」
うわぁー…最悪だな。
終いにはマルスを押し付け合うなんて修羅場よりも悲惨な光景じゃないか?
既に放置されたマルスは肩を震わせていた。
今にもブ千切れしそうに…
グラグラ!!
「きゃああ!」
「何?地震!」
床が僅かに揺れるのを感じる。
気づくとマルスの体から負のオーラ―が出ている。
「…ざ…け…な」
地を這う様な声が聞こえた。
同時に魔力が暴走し、周りが火の海となる。
「何処まで俺の邪魔をすれば気が済むんだ!出来損ないの分際で!」
「マルス…お前」
「出来損ないで我が一族の恥差しが…お前なんて生まれてこなければ良かったんだ!お前なんてこの世には必要ないんだ!」
持っている剣に炎の魔力が宿る。
お世辞にも聖騎士が纏う剣とは思えない程に禍々しい炎だった。
あの魔力はニコラウスの時と似ているような気がする。
真っ黒に染まるオーラ―。
魔力自体がとても禍々しく感じる。
まるで怒りと妬みの化身となる魔の化身のように思えた。
「エリオル!!」
「エリオル様!」
「二人共来ないでください!」
咄嗟に駆け寄ろうとする二人だったが、炎の渦で足止めされ、分散された炎が俺に襲い掛かる。
「お前さえ消えれば…そうだ、お前さえ消えてしまえばいい」
「止めろ!そんなことをして何の意味になる!八つ当たりじゃないか!」
「うるさい!」
止めに入るレントン様だったが、既に理性を無くしたマルスは炎の魔力でレントン様を襲う。
「レントン様!」
俺は咄嗟に錬金術を使って壁を作りだす。
「ミツバ!防御を!」
「はい!」
俺の錬金術では焼け石に水で付け焼刃だった。
だからこそ一瞬だけでも防御できるようにあらゆる物資を集めて壁を作るがすぐに壊れてしまうも、ミツバの光魔法のおかげで助かった。
「主!」
「マル!二人を守ってくれ!」
「しかし!」
騒ぎを聞きつけたマルが飛び込んで来た。
とにかく他の生徒も守らないと。
「主、なりません!その術では主の身を守れません。私が離れたら」
「主命だ!」
卑怯だけど主命と言えば逆らえない。
ごめんマル。
でも、俺の所為で誰かが傷つくなんて耐えられないんだ。
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