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部屋に響く拍手とスーザンの声。

「はい、リズムを取って」

パンパンと三拍子で手を叩き、リズムの合わせて歩くシェリラ。


フローリングで滑るように歩く姿に見惚れる侍女達。


「まぁ、なんて流れる様な所作」

「立ち姿も美しいわ」

「既に聖書を三冊乗せているのに、まったく動かないなんて」


あの後、スーザンは折角だからレッスンをさせて欲しいと願い出て来たのだ。
断り切れずに答えると、シェリラは難度の高いレッスンも澄ました表情でクリアしてしまうのでスーザンは更に厳しくする。


「お見事です。素晴らしいですわ」

「ありがとうございます。ですがこの程度…」

「本当に努力なさいましたね」


ミレアルが何時ものように当然と言わんばかりだったが。

「大人でも姿勢が崩れることはあります。たゆまぬ努力が必要ですわ」

「ええ…」

「お嬢様がこれ程素晴らしいのですわ。やはりお母様の教育の賜物ですわね」


ミレアルの言葉を遮りシェリラを褒めちぎる。

「よろしければ奥様も…」

「いえ、私は」

「お母様のお手本を見せられた方が上達は早いですわ。私はご令嬢をお教えする時はお母様もご一緒に学んでいただいているのです」


押しの強いスーザンに冷や汗を流す。

「尊敬する母を見本に子は近づこうとしますので是非…」

「先生…」


これは逆行する前の時も似たような事があった気がする。



しかし、あの時は傍にミレーヌがいたので結局参加しなかった。
シェリラの淑女教育は全て他人任せにしていたのだから。


不幸にも、今回は断る理由もなかったのだ。


「おや、やっているね」

「貴方…」

「侯爵様にも見て頂きましょう」

「ええ!」


更に状況悪化し、ミレアルは逃げることができなくなった。


そして親子そろってマナーレッスンを受けることになったのだが。


「侯爵夫人!背筋が悪いですよ!」

「はっ…はい」

ドサドサ!


ウォーキングの練習をする前に猫背を指摘され驚き本を落としてしまう。


「まぁ…」


スーザンは歩く前から本を落とすとは思わず驚く。

「もう一度お願いします」

「はっ…はい」


二度目も顔を上げようとすると本が落ちる。


「奥様、顎を上げ過ぎですわ」

「すいません」

「意外と難しい…シェリラ!」

そんな中本を三冊乗せたまま流れる様な所作で静かに歩いて行くシェリラ。


「シェリラ…」

「奥様、所作は一日にしてならずですわ。さぁ、もう一度」

スーザンは諦めずにレッスンを続けるも、娘の方がずっと美しい歩き方をされ恥ずかしさでいっぱいだった。


侍女達も視線を逸らせながらヒソヒソ囁く。


「お嬢様にあんなに厳しくしていらしたのに」

「ねぇ…」

普段から厳し過ぎる淑女教育をしているのを目の当たりにしていた侍女はてっきりミレアルは所作が完璧だと思っていたが、荒さが目立ち、まったくなっていないのを知った。


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