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第一部.婚約者は異国の王子様

4.素敵な男性

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邸に一人残される中、手紙を確認する。
すべてとはいかないが伯爵以下の貴族からの手紙が多かった。

その中に一通だけ、異なる手紙が入っていた。


「あら?」

他の手紙は華やかな封筒だったが、その一通だけは違った。

金があしらわれ見事な細工がされている。

「これはシプロキサンの物だわ」

封筒には金粉があしらわれており、とても幻想的だった。
同封されている絵は異国情緒あふれる街並みが描かれ目を奪われた。


「なんて美しいの…クラエス家?え…公爵家?」

差出人を見ると王家の紋章が刻まれている。

公爵家は王族の親戚になり、伯爵家でしかないアスガルト伯爵家とはあまりにも差がありすぎる。

「そんな方が何故…」

手紙の中を見ると、婚約の申し込みが書かれている。
他の手紙には言葉だけの求婚だったが、公爵家からの手紙は家格が違うことの配慮だけでなく、祖母の功績や現在の伯爵家の賛美が書かれている。

お世辞ではなかった。


「なんて誠実な方」

貴族同士のやり取りや、ジェネットへの贈り物のお礼の手紙は全てフローレンスが行っていたので手紙を読めば人柄が解る。

「それになんて綺麗な文字…代筆だったとしても誠意を込めてくださっているのね」

差出人の名前はアリシエ・クラエスと書かれていた。


「素敵な響きのお名前」

顔も知らない男性に心をときめかせながらすぐに返事を書き綴る。

「どんな御方なのかしら…クラエス公爵様のご子息様は」


両親は侯爵以上の貴族にジェネットを嫁がせたいとずっと言っていた。
王侯貴族で王族の親戚であっても血筋だけよくて借金を背負う貴族が多い。

高位貴族に嫁いでも贅沢ができるわけではない。
なのに両親は国の経済状況もまったく把握しておらず、アスガルト伯爵家でも贅沢三昧をして財産を喰い潰しているが祖父に与えられた領地で作った特産物の収入で赤字を黒字にしていている状態だが、黒字にしては両親が赤字にするの繰り返しだった。

両親からすれば、後に祖母の遺産は全てフローレンスの物になり、結果的には自分達のモノになると解釈していたのだが正式に遺産を引き継ぐまでは好き勝手出来ず、又祖母が生存中に譲り受けた領地を奪おうとしたこともあったが、手が出せないように祖父が弁護士を立てている。

その領地がプルトン領地呼ばれる場所で農産物が盛んな場所だった。
両親からすればそんなしょぼい領地などいらないのでフローレンスの手に渡っても何も言わなかった。

両親達一番欲したのは鉱山だった。
フローレンスは薬草農園や農産地さえもらえるならそれでよかったので何も言わなかったが、強欲な両親は既に自分達のモノになると思い込んでいたのだが、伯母が大激怒して許さなかった。

以前から伯母夫婦は、フローレンスの不遇な扱いを許せずに何度も意見するも、後継ぎとしての教育に口を出すなと言い放ち、あまつさえ若い頃に病を患い子供できない体になった叔母を見下し出来損ない呼ばわりをしたのだった。


両親からは愛されなくとも祖父母と伯母夫婦に可愛がってもらった記憶があるので大好きな人をこれ以上巻き込みたくなくて耐えることを選んだのだった。


「伯母様はシプロキサンの物が大好きだったわね。クラエス家の領地では素晴らしい工芸品が有名で私も愛用していたし」


引き出しを開けて取り出したのはシプロキサン制の茶器だった。

「本当に素敵だわ。そうだわ、これが上手くいけば我が家も安泰で伯母様とも仲が良くなるかもしれないわ。だって伯母様は異国が大好きで…特にシプロキサン贔屓ですもの」

中央では東南地方を野蛮だと言う理由の一つは、異なった他民族が多いことだった。
シプロキサン出身の民が多く、彼等は元は戦士だったことからマナーも異なっている。

食事に関してもシプロキサン王国の貴族は手づかみ食事をする習慣があるので他国の貴族を彼等はマナーも知らない野蛮な民族として扱った。


とは言え、シプロキサン王国や同盟国のバハムート帝国は黄金の国と言われる程裕福だった。
王族と貴族に平民の距離感も近く、王族達は自分達が裕福であるよりも民の生活を最優先にする程で褐色の肌を持つ慈母神カーラを崇めていた。


シプロキサンの教えは民こそ宝なり。
王と貴族は民の為にあるという言葉を大切にしており、同盟国であるバハムート帝国も同様だった。


今でも動物達と共存して生活する二つの国は神から守られているとも言われる程だった。


「ジェネットが羨ましいんわ」


こんな誠実な人が婚約者になり、しかもずっと憧れていたシプロキサン文明に親しむことができることが羨ましかった。


(私は飾りでしかない)


これから先、籠の鳥で過ごさなくてはならない。
解っていたのに空を見上げるとあの時の夢を思い出す。


「私の初恋の王子様」


美しいエメラルドグリーンを持つ異国の少年を思い出しながら夜を過ごすのだった。

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