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第二部.薔薇の花嫁
21.クロエの思い
しおりを挟むクロエは現段階でアリシエ程の理想的な王子様はいないと思った。
異国の血を持つが故に、異なった容姿であるが、美しいと。
正し、常識にとらわれ過ぎている宮廷貴族は少しでも異なった外見を忌み嫌い、見ようともしなかった。
それこそが愚かなことだと何故気づかないのか。
現に、見た目だけは美しい第二王子は社交界でもそれなりに人気だったが、そんなのは今だけだった。
学園を卒業し、成人した大人として振る舞いだしたらどうなるか。
未だ学生の身だからこそ許されることは多い。
対して爵位を得た後は、子供だから許されるわけではない。
特に王太子ではないシメオンは爵位が与えられても、自分の力で功績を出さなくてはならない。
その点、アリシエは幼少期から多くの事を学び、成人式を迎えてすぐに伯爵の爵位を得た。
その後は大幅な改革を行い他国との貿易に成功を収めた後に、国一番の資産家となり。
クラエス領地を広げ、シプロキサンとの繋がりを大事にしたおかげで近隣諸国との諍いを怒らないようにしたことで、その功績を認められ侯爵の地位を与えられた。
しかしその後も、王族よりも前に出ることはなく控えめだったことで両陛下からの信頼は誰よりも厚かった。
王都で酷い噂を流されるも心ある権力者であり立派な領主であることは他国でも有名な話だった。
宰相を担う父から時折聞いていたので、一度会ってみたいと思っていたが…
(立派な方だわ…)
直接会って確信が持てた。
宮廷貴族は誇りを失ったものが多い。
このままでは国自体が腐敗しきってしまうからこそ、気高さを持つ貴族を失ってはならない。
その代表がルチアだった。
その血筋を誰よりも引き継ぐフローレンスであるが、味方がいない状態ではいずれ壊れてしまう。
そんな不安があったが、フローレンスの伴侶としてアリシエは申し分ない。
むしろこれ以上条件が揃った伴侶はいないだろう。
(教養も申し分なく、何より真っ当な人ですもの)
在学中からクロエは、フローレンスが哀れだった。
秀才で努力家で、気高くも心優しい友人は愚かな家族の所為で辛い目に合っていた。
それでも貴族としての誇りを失わず、心が汚れてなかった。
なのに、周りはフローレンスの誇りを汚すことしかしない。
特に酷いのはシュナイダーだった。
フローレンスは知らないが、クロエは早い段階から知っていた。
アスガルト侯爵家に婿入りした後は、フローレンスを追い出そうとしていたこと。
その為には婚約解消ではなく、婚約破棄をするべく機会を狙っていたが、婚約者として完璧すぎたフローレンスはどんなに酷いことをされても耐えていた。
それが返ってシュナイダーの自尊心を気づ付けていた。
これ見よがしに、目の前でジェネットに愛を囁いだり、領地の仕事を押し付け、失敗すれば罵倒し、周りからの評価を受ければ調子に乗っている、傲慢だと罵倒する。
あげくの果てには伯母から贈られたドレスをジェネットから奪ったなどと言ってどれだけ傷つけたか。
それでも文句ひとつ言わなかった。
その所為でシュナイダーが描いたシナリオ通りの婚約破棄ができなかった。
本当はもっと大きな舞台で婚約破棄を言い渡し糾弾してアスガルト家から追い出すつもりだったが、番狂わせになってしまったのだ。
何処まで自分勝手で傲慢な男だと軽蔑するクロエは今でも許せないでいた。
女を踏み台にする行為はクロエにとって許しがたい行動だったから。
(私は許しませんわ)
貴族令嬢として誇りが高いクロエは、誇りもない愚かな男をこのまま野放しにするつもりはない。
今でものうのうと生きている彼等に裁きを与えるべく、アリシエを見つめた。
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